異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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第七章 混沌の交易都市

7-21 獣狩り

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 さあ、ぶん殴り合いの開幕だ──と思ったところで、逆さまとなる天と雲。

 反転する視界が意味するところは、背後からの奇襲一閃。

 神獣と向かい合っていた俺の裏をかいたのは、竜たちと戦っていたはずの魔神フォカロルだった。

〈こんなもんじゃ死なないよね。おまけしてあげる!〉

〈ッ!〉

 要らねえよと返そうとしたのに声が出ない──などと、馬鹿なことを考えている内に魔法が炸裂。

 漆黒の竜巻が蒼穹そうきゅうを切り裂き、周囲丸ごと巻き込み唸る!

 ──が、しかし。

「ぬんッ!」

 そんな魔神の大魔法を、神獣ベヒモスは拳一発でかき消した。

 流石は本気の神なる獣。

 人型状態でも竜のブレス並みのパンチだったし、本気となった今その威力はましにましている。この結果も当然といえば当然だった。

〈うっそぉ!?〉

「ふむ。青玉竜せいぎょくりゅうどもを退しりぞけたか。こちらの魔神もやるようだ。だが──」
〈──げ。バレてたか〉

 一連の応酬の間に体を再生させ近付いていたが、イケメン(元)の眼は誤魔化せなかったらしい。異形の獣がこちらを見やれば、問答無しの蹴りが飛ぶ。

 正確無比なる神殺しの横蹴りをひらりと躱し、足場を創ってすとんと着地。
 ついでに二柱を閉じ込める断絶空間を構築し、乱闘デスマッチを開始する。

「!」〈囲い……!〉

〈楽しく、殺ろうぜッ!〉

 い合わせて巨竜並みとなった触腕を握りしめ、単純明快な小手調べ。

 拳の向かう先は、本気を出した神獣ベヒモス!

ッ!〉
「ふッ!」

 腰部ようぶの回転と魔神の膂力りょりょくで打ち出された横打は、しかし神獣の裏拳で弾かれる。

 全身を連動させて打ち出した俺の一撃に対し、奴は上半身だけで応じたのだ。

 力の差は、歴然である。

〈ハッ! そんなもん、百も承知だってなァ!〉

 ならば技だと腰部を逆回転。弾かれた勢いを逆用した、逆手での触腕中段突きを叩き込むッ!

「──ハハッ。それは我も変わらぬぞ、魔神!」

 それでもやっぱり神なる獣。

 裏拳で伸ばされていた腕を腰へ引き付けた異形の獣は、その反作用で逆手の魔拳を繰り出した。

「!」〈……!〉

 打ち合わされるは光速の魔拳と漆黒の巨拳。
 荒れ狂うは魔神すらも焼き尽くす灼熱の衝撃波。

 その結果は、こちらが押し返されるというもの。つまるところは力負け。

 とはいえ、それはこちらも織り込み済み。

 古き竜と比す相手に、無策での殴り合いは難しい。そんなことは身をもって知っている。

 となれば、如何いかにするか?

〈──っ!〉

 答え: 乱戦という状況を利用する。

 刹那の殴り合いの間に、フォカロルは神獣の裏をとっていた。
 俺より神獣の方が厄介と感じたのだろう、予想通りの行動である。しめしめ。

「む!」

 気配を感じたのか、それとも獣の勘が働いたのか。神獣は黒爪が振り抜かれるその前に、振り返って魔神の前肢を掴み取る。

 それすなわち、俺を前にして背を晒す愚行である。

 掴み合いから大魔法合戦に移行する只中へ迷いなく突っ込み、震脚ッ! からの、肘打ちッ!

ッ!〉
「ぐッ!?」

 体当たりの如き八極拳はっきょくけん小八極しょうはっきょく頂心肘ちょうしんちゅうがベヒモスの背に突き刺さり、障壁までぶっ飛ばし──。

〈消えろっ!〉

 ──それに合わせてフォカロルが挟撃。

 むしばむ黒風が空間内で吹きすさび、神獣の左腕を食い千切る!

「む……うんッ!」

 ところがどっこい。

 自慢の巨腕が消し飛んだかと思いきや、神獣は気合の一声で腕部を再生。生えた腕部で水平チョップをおまけして、魔神の黒風と俺の障壁とを真っ二つにしてみせた。

〈っ!? 当然のように超速で再生してくれちゃって!〉
〈あれでも攻め切れないって、やっぱり一筋縄じゃいかないか。一応消耗はしたみたいだけど……〉

 空間魔法のおりが壊れたことで俺たちの距離は開き、一度水入りの形となる。

 足場を創って構えをとれば、他の二柱も準備万端。三者三様に睨み合う。

 俺は半降魔ごうま状態と同じように、筋肉や骨を有する攻撃的な触腕を創り出し。
 フォカロルはじわりじわりと影の魔力を侵食させ、周囲の環境を闇夜の如く塗り替えて。
 神獣は銀毛をなびかせたまま静かに構え、節々の口部を見せつけるようにして不動となる。

 そのまましばしの時が流れ、もう間もなく神獣に影の魔力が接触する──そのタイミングで問いかける。

〈ところでさ、フォカロル。お前、ウィルムたちはどうした?〉
〈どうなってるんだろうねー? 向こうの方にいって、確かめてみ──!〉

 得意になって遠方の一角を指し示そうとした魔神は、神獣が一撃を前に言葉を中断。

〈くっ、のっ! 当たるもんか!〉

 しかし彼女は影のように相手の裏をとり、これを見事に回避する。

 それはこちらが思い描いた通りの動き。再び挟撃きょうげきの形が完成だ。

 神獣の攻撃からフォカロルの影移動まで見越していたこちらは、意識が背後へ向いた神獣へ肉薄。

 創り変えた触腕でもって、獣の間合いに殴り込む!

「むん!」

 意識を後に向けたまま、神獣が放つ神殺しの回し蹴り。

〈──ッ!〉

 下から触腕を添えるようにしてその軌道を逸らし、更なる至近距離へと接近する。

〈うわっ!?〉

 蹴りの余波でぶっ飛ぶ魔神を尻目に、震脚。からの中段突き。

 回し蹴りから一回転してフックに繋げる神獣と、全力で拳をぶつけ合う!

ァッ!〉
「ぬう!?」

 漆黒と白光のぶつかり合いは、数分前と変わらぬ光景。

 さりとて、その後は互いに体を残すという異なる結果。

 筋や骨を備える触腕でもって発勁を成し、極限の一撃を相殺したが故である。

〈俺も、やるもんだろ!〉

 咆えながらも触腕を伸ばし、神獣が肉体を捕食せんとした──その瞬間。

〈ッ!?〉(ロウ!?)

 こちらが伸ばした触腕が、かじられた様にえぐられた。

「我が関節の口部……飾りと思うたか?」

〈ぐ……むしろ、存在そのものを忘れてたっつーの!〉

 驚愕の種明かしを受けつつ、迫る猛攻と真正面から向かい合う。

 鉤打かぎうちから次ぐ逆手のアッパーカットをひらりと躱し──躱しざまに肘打ちを叩き込み。

 その肘打ちを手の平で受け止められ──止められついでに関節口部で捕食され。

 捕食されるも下がお留守だと股間へ膝蹴り──からの、逆足による飛び前蹴り。
 陳式ちんしき太極拳たいきょくけん小架式しょうかしき二起脚にききゃくの変則型でもって、陰部とあごを蹴り飛ばす!

「ぐッ……」
〈はぁ……〉

 相手のドたまを蹴り飛ばして打ち勝ったと言いたいところだが……神獣の捕食は魔力ごと食らうらしく、こちらの消耗も大きい。現状は痛み分けか、むしろ負け越したとも言えるかもしれない。

 されどもやっぱり想定内。
 これは挟撃であり、俺一人で打ち勝つ必要などないのだ。

 ベヒモスの吹き飛ぶ先には、既に魔力を爆縮させているフォカロルの姿。
 その魔力の波動は、神獣の腕を食い千切った魔法以上!

〈まとめて、死ねっ!〉

〈俺ごとかよ!〉
(それはそうでしょう……)

 増悪滲む言葉と共に、影の世界が空を侵食。

 俺の空間変質魔法「常闇とこやみ」にも似た漆黒の空間が、魔力と肉体を蚕食さんしょくする!

〈転移は……できねえか! なら、権能でぶっ飛ばすッ!〉

 雄叫びに虚無を乗せれば闇を漆黒が払いのけ、ひとまず周囲の安全が確保された。そこを足掛かりに行動領域を広げていく。

〈っ! 私の『無間泡影むげんほうよう』を魔力だけで吹き飛ばすなんて……君の権能、一体何なの?〉
〈さあて、何だろうな?〉

 軽口を叩きながら炎や光で周囲を照らすも、影から影へと移動するフォカロルをとらええることは叶わない。この空間にいる限り、あいつの優位は絶対的か。

〈影の空間……大魔法でぶっ飛ばすか?〉

(権能を帯びた魔法であればはらえるかもしれませんね。ただ……私の憑依状態もそう長くもちません。憑依が解けた後のことを考えれば、この空間で神獣を討つか力を削いでおく必要があると思うのです。ロウならばこの空間もさほど脅威となりませんし)
〈なるほど。ならとりあえずは保留か──!〉
「──あちらの魔神かと思えば、汝であったか」

 噂をすればなんとやら。影の空間を白光がつんざき、渦中の人物が顕れる。

〈お出ましか。しかしあんた、結構傷だらけだな〉
「ふ。この程度は傷になど入らんぞ? 魔神ロウよ」

〈へっ? 魔神、ロウっ!?〉

 互いに牙を剥き魔力を研ぎ澄ませていると、間抜けな声を上げてフォカロルも顕れた。

「ふん!」〈せいッ!〉

 対し、示し合わせたかのように殴り掛かる俺と神獣。

〈うわあっ!? ちょっと、何するの!〉

「影に隠れる者が姿を現したのならば、狙わぬ道理がない」
〈そういう訳だ。纏めて死んどけ! バーカ!〉

 動じる阿呆にさっきのお返しだ触腕をぶん回す。が、吹っ飛んだのはベヒモスだけだった。惜しい。

〈当たらねえか。影の移動、マジで面倒だな〉

「ぬう、共闘の芽があるかと思えばこれか。害悪め」
〈もう! ちょっと待ってよ、お兄ちゃん!〉

〈は?〉

 影に隠れた魔神を追うよりはと、神獣へ魔法の追撃を仕掛けていれば──いきなりのお兄ちゃん発言である。

(やはりロウの兄妹だった、ということですか。いやですが、年下っぽいロウがお兄ちゃん……)

〈そういや姉弟の可能性あったんだっけ。ってお前、俺のこと知ってて襲ってきたのかよ〉
〈違うって。知ってたけど、君がそうだっていうのはたった今知ったんだよ。だって、名乗りもしてないじゃん〉

 手の平を返したように殺意を霧散させて近寄ってきたフォカロルだったが、思い出したかのように殺気を放つ。

〈ねえ。君って本当にバロールにくみしてるの? だとしたら、肉親でも容赦しないよ〉
〈与してるって訳じゃねえよ。友好関係にはあるけどさ。というか何でお前、そんなに目のかたきにしてるんだ?〉
〈そんなもの──っ!〉

 核心に迫るも、魔拳の横やりで話は中断。戦闘中に事情を聞くのは難しそうだ。

〈後で詳しく聞かせろ。今はあの馬鹿をぶっ飛ばす。いいな?〉
〈……仕方がないね。神獣を追い払ってそのまま逃げる、なんて真似はさせないから〉

 しっかり釘を刺されたところで連合締結。

 魔神二柱による獣狩りの始まりだ。

◇◆◇◆

 同盟が組まれると同時に、妹(?)は影なる移動で神獣の背後へ回り込む。

 正面から向かう俺に、背後から攻めるフォカロル。憑依状態の限界も近いし、この攻めで決めておきたいところだ。

「結託したか。纏めてちりとしてくれる」
〈俺一人圧倒できなかったってのに、強がるもんだな。いいからさっさと土下座しろ!〉

 罵倒ばとうしながら空間生成。三度目となる閉鎖空間を創りだす。

〈バラっバラにしてあげる!〉

 その空間の内側で、黒爪がひらめき黒風が躍る。

 影から影へと移動しベヒモスを切り刻んでいく様は、俺の入る余白さえない攻撃密度。視界が残像と斬線で埋め尽くされるほどだ。

「──ふ」

 対するベヒモスは、位置取りに腕と体の捌きを合わせ、最小限の動きで応じてみせる。

 攻撃や迎撃ばかりしてきた彼からは想像できないほどに、その動きは緩やかで滑らかだ。緩慢かんまん軽捷けいしょうの重なる動きは、太極拳たいきょくけんの演武にも似る。

 そこから導き出される彼の意図は、狙いすましたカウンター。流れを変える、研ぎ澄まされた一撃である。

〈っ!?〉
「能力にかまけた魔神など、恐れるに足らぬ」

 俺がその考えに至ると全く同時。
 手刀が前肢を切り離し、翼刀が黒翼を切り捨てる。

 つまるところ、ベヒモスがフォカロルを完全に捉えたのだ。

〈ぐっ……!?〉

 トドメとばかりに放たれた前蹴りを、影なる移動で回避した魔神は──しかし、回避先で二本の尻尾に絡めとられる。

「裏をとるということが分かっていれば、対処することなど造作もない。我がかてと──」
〈──なるのは、あんただよッ!〉

 尻尾の口部で魔神を食っていた神獣へ、竜をも食らう捕食攻撃!

「フッ。当たると思うたか?」
〈ハッ。近づけりゃ十分なんだよ〉

 上半身を反らして避けて、不敵に笑うベヒモス。

 対し、こちらも笑みを返して下段前蹴り。膝でうごめく口部目掛け、八極拳・斧刃脚ふじんきゃくを叩き込む!

「その蹴りはもう見たぞ? 魔神ロウ!」

 どっこい、神獣は膝を上げてひらりと回避。

 そのままこちらを抱え込むようにして、膝蹴りを──。

ァッ!〉
「ごッ!?」

 ──放つ直前に、我が肘打ちが胸部を打ち抜いた。

 空ぶった蹴り足で震脚を行い、渾身の発勁でもって打ち込んだのは、八極拳小八極しょうはっきょく頂心肘ちょうしんちゅう。こいつにぶちかますのは二度目となる、全身でねじ込む一撃である。

〈──ぐッ!〉

 しかしやはり、相手は神獣。
 その間合いに入って無事に済もうはずがない。

「拳の間合いは口部の間合い。もう忘れたか?」

(異形の口部……! ロウ、この距離は危険です!)

 上の口から血反吐を吐き、関節の口部で俺の肘を咀嚼そしゃくするベヒモス。

 全身至る所にある口部での捕食。守りであり攻撃でもあるそれは、至近距離を得意とする俺を迎撃するにはうってつけだろう。黒刀の言う通り、今の間合いは絶対的に不利と言える。

 しからば、どうするか?

 答え: 文字通り手を増やし、一打使い捨ての連続攻撃でぶっ潰す。

 食われる前に叩き潰せば、何の問題もあるまいて。

(大ありですよっ!?)

 突っ込みを無視して死地へ突貫。
 血を吐き終えて構えを正した神獣と向かい合う!

「愚かなり。食らい尽くしてくれよう」
〈やれるもんならやってみろってなァ!〉

 突貫と同時に拳が交差。白き魔拳と黒き巨拳がぶつかり合い、空が弾けて燃え上がる。

 当然、直後の捕食で俺の触腕は無残に抉られた。

「力は大したものだが、芸がない──!?」

 余裕の言葉が続くその前に、股関節と腰部ようぶを連動回転。
 逆側の触腕中段突きでもって、うるせえ馬鹿を黙らせる!

〈──おんッ、どッ、りゃあッ、ァッ!〉

 そこから先は食らい合い。

 触腕を突き込み、食い散らされ。
 横合いから殴りつけ、噛みちぎられ。
 捨て身で踏み込み肘を見舞い、肩口丸ごとかじり取られ。

〈──ッ!〉

 腕を失い魔力を失い、ついに優位を奪い取る。

「グッ……」

 捨て身の頂心肘ちょうしんちゅうで守りが崩れ、黒血をぶちまけたベヒモス。

 そこに締めの追撃。
 全身の捻じれを解き放つ、水平チョップ気味の鉄槌打ちを叩き込む!

是烎呀せいやァッ!〉
「ガ、ハッ!?」

 力の全てを集約した一撃により、神獣はお空の彼方へぶっ飛んだ。

 クソッタレにしこたまぶち込んでやったのは、八極拳六大開ろくだいかいとう”・猛虎硬爬山もうここうはざん。尾に捕らわれていたフォカロルがいかりの代わりとなったため、随分と上手いこと決まったぜ。

〈逃がさないよっ!〉

 トドメの横打で尻尾がちぎれ、星となった神獣だったが──体を再生させていたフォカロルがここを猛追。影の移動で背後をとる!

「……!?」

 繰り出されたのは魔神の身による超速連斬。

 黒爪黒翼が幾度となく十字を描き、細切れとなった神獣が宙に舞い──。

〈消え失せろっ!〉

 ──最後の最後に、全てをむしばむ影なる烈風。天空が塗りつぶされたような黒に染まり、あらゆるものを食い尽くす!

〈って、また俺ごとかよ!〉

(やはり彼女は信用ならないのです。……しかしロウ、本当に強くなりましたね。「神獣」はあの古き竜たちに勝るとも劣らない、最強というに相応しい相手でしたのに)
〈俺も何やかやで成長してるのさ! とはいえ本来の姿じゃないみたいだったし、本気の本気ってわけじゃなさそうだったし、慢心は禁物だけど……っと、もう晴れたか〉

 前と同じように虚無の魔力でやり過ごせば、今度はすぐに影が晴れた。

 雲海の上に残っているのは異形の魔神、フォカロルだけである。

 とりあえずはこれにて戦闘終了、か。

◇◆◇◆

〈──ふぅ。神獣、噂に違わない強さだったけど、まさか倒せるとはね。……お兄ちゃん、最後のアレ、何だったの?〉

〈凄いだろ。あれが年の功ってやつだよ〉
〈何それ。パパから十歳って聞いてたんだけどー?〉

 山羊頭やぎあたま牛頭うしあたまから溜息を吐いた異形の魔神は、振りまいていた深紅の魔力を引っ込め、青白い偃月刀えんげつとうを出現させて人型に戻る。

 憑依状態に加え、降魔ごうま状態の解除。これも彼女なりの意思表示だろうか。

 警戒しつつもそれにならい、こちらも降魔を解いて憑依も解除する。

 しかし服を着ている彼女と異なり、俺はすっぽんぽん太郎である。やだ恥ずかしい。

「実際のところ、倒せちゃいないと思うけどな。お前の魔法が決まる前、あいつは空間魔法構築してたし」

「えっ!? ちょっと、それなら早く教えてよ!」
「俺の相棒がやられた分くらいはぶん殴ってやったし、もういいかなって。撃退できたし十分だろうよ」

 一応情報の共有を行っていくが、この魔神とは未だ敵対関係にある。

 果たして何から話したものか──と考えていれば、金なる魔力を知覚した。竜たちである。

 そういえばいたね君たち!

【──ロウ! やい、何を呆けている!?】
【むう。神獣の姿が見えぬ。まさかあの者を退けたのか?】

「もう私の『無間泡影むげんほうよう』を破ったんだ? もうちょっとかかるかと思ってたけど」
「結構傷だらけだな、君らも。戦ってないのは、こいつが俺の妹……? みたいでさ、とりあえず話を聞いてみるかってなったんだよ」

 飛来して早々いがみ合う阿呆どもを放置して、回復魔法を構築。ひとまず竜たちの傷を癒していく。

「ちょっとお兄ちゃん? 私は治療してくれないの?」
「さっきまで殺し合ってたし、そもそもお前傷ないじゃん」
「酷っ。殴られたり蹴られたりで、内臓ぐちゃぐちゃなのに……」
「んなこと言っても魔神だし、すぐ再生できるだろ。とりあえず話聞くから、俺の空間にこい」

 ぶーたれる褐色少女との会話を無理やり切り上げ、異空間を開門する。

【ぬうう。ロウよ、この魔神までも迎え入れるのか?】
【ふんっ。ルキフグスの娘など一思いにくびってしまえば良い】

「はいはい。分かったから君たちは先に入りましょうねー」

 熱風や冷風を吹き散らす竜たちを押し込んだ俺は、怪訝な表情を浮かべるフォカロルを伴い、異空間の門を潜るのだった。
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