異世界を中国拳法でぶん殴る! ~転生したら褐色ショタで人外で、おまけに凶悪犯罪者だったけど、前世で鍛えた中国拳法で真っ当な人生を目指します~

犬童 貞之助

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幕間劇

魔術大学の日常

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 国内外から優れた素養を持つ者がつどい、各々が勉学に励み研究に明け暮れる学術機関──アレクサンドリア魔術大学。

 その学生寮の個人用浴室で、二人の少女がタオル一枚のまま向かい合っていた。

「──ねえヤームル。貴女、どうやってロウさんが転生者だと見抜いたの?」

 問いを発したのは、豊かなバストやヒップが異性の目を引いてやまない、色気溢れる象牙色の少女エスリウ。

 視線の先にいる栗色の少女に対し、今しがた己が人ならぬ存在──魔神であると吐露とろしたばかりである。

「そ、それは……」

 彼女に問われ目を泳がせるのは、成長途上のなだらかな肢体が美しい栗色の少女、ヤームル。

 目の前の友人が魔神であることを隠してきたことと同様に、この少女もまた隠し事があった。

(うぅ。完全に疑われているわね、これは。私としたことが、あんなこと口走っちゃうなんて~!)

 今問い詰められている転生者の話題。そのものずばりだ。

 異なる世界の記憶・知識を持つという事実は、友人はおろか親にすら話していない。彼女にとっての秘中の秘である。同郷の疑いが濃かったあの少年以外に話すつもりもなかったし、墓場まで持っていくつもりでさえあった。

 だというのに、露見したのである。

(ああもう。それもこれも、全部ロウ君が竜相手に暴れまわったり日本からの転生者だったりするから……。って、よくよく考えてみれば、エスリウさんが魔神だってことに比べたら、私が転生者って全然大したことじゃないかも?)

 八つ当たり気味な方向へ頭を回転させていたヤームルだったが、ふと現在の状況を思い返し冷静さを取り戻す。

 転生者であるという事実を漏らせば、虚言癖きょげんへきと見られるか狂人扱いか、信じられたとしても見世物となるのが関の山。

 故にヤームルはこの事実をひた隠しているが、エスリウが打ち明けた内容は彼女とは比べようもないほどの大問題だ。

 魔神。かつてこの大陸を席巻せっけんして人をしいたげた魔族、その祖にして首魁しゅかい。紛れもない人族の敵対者である。

 神と敵対しているのは当然で、人族にとっても接触は禁忌きんき。関係を持とうものなら、当人のみならず家族丸ごと処刑される。それが貴族であれば、親戚にも波及はきゅうすることだろう。

 それを当然に知る公爵令嬢のエスリウが自分へ打ち明けるのに、一体どれほどの覚悟が必要なのか──ヤームルはその点に思い至ったのだ。

「……こほん。ロウさんのことを転生者だと判断できた理由は単純で、私もそうだというだけですよ。今まで言いそびれていましたが、彼とは同郷なんです」

「! 貴女が、ロウさんと同じ……。知識が豊富だったり、年上の女性のような落ち着きを感じることはよくありましたけれど、そういうことでしたか。同郷というと、異なる世界でも友人だったのですか?」
「この世界へやってくる時は一緒だったと思いますが、知り合いだったということではないですよ。それでも同じ電車事故……ああ、こちらに来る原因となったものですね。それを経験して、同年代の子供になって。運命みたいなものを感じはしますね。ふふふ」

 友人の勇気に敬意を表し、ずり落ちたタオルを引き付けながら己の秘密を告げるヤームル。

 しかしながら自分語りの最中、若干乙女気質がにじみ妄想の世界へ旅立ってしまったことで、真面目な宣言が台無しである。

「あらあらまあまあ。貴女も彼に運命を感じていたのね? うふふ、同志を見つけたようで嬉しいわ」
「そこまでは言いませんけど……って、“も”ってなんですか! あれですか、同族だからってことですか?」
「それもありますけれど、彼もワタクシも人と魔神を親に持っていますから。会って間もなくとも特別な親しみを感じるのです」

 口元に指をあてるエスリウはあでやかに微笑む。
 対し、ほんのりジト目となるのはヤームルだ。

「特別な親しみですか。エスリウさんがロウさんにご執心しゅうしんなのは理解してましたけど。そういう事情があったんですね。……もしかして、ロウさんを魔神と知ったのは魔導国への道中ですか?」

「はい。自分では上手く誤魔化せていたと考えていたのですけれど、お見通しでしたか」
「違和感はありませんでしたよ。ただあの時以降、エスリウさんが増してロウさんにベタベタするようになったなあと感じただけで。そういった意味では、何かあったと勘ぐったのは私だけでは無いかもしれません」
「うふふ、かせちゃったかしら? ごめんなさいね、ヤームル」

 じっとりと射抜くも、全く堪えない。魔神と暴露した後も変わらない友人に、栗色の少女は安堵と呆れの入り混じる息を吐く。

「はぁ。別に付き合ってるわけじゃないですし、いいですけどね。それにしても魔神……ロウさんといい、意外と人の世にいるものなんですか?」

「ワタクシやロウさんが特殊な例というだけですよ。魔神が人と子をなすようなことでもない限り、人に興味を持ちませんから。人の世で生活するなど考えないでしょう」
「なんとも魔神らしい語りですね。エスリウさんが泰然とした態度なのも納得できましたよ」
「ふふっ。ワタクシとしては、貴女やロウさんが転生者だったということに得心しましたけれど。ねえヤームル、貴女がいた世界について少し話してくれないかしら?」

「エスリウさんにはずっと隠していましたし、仕方がありませんね。何もかもが違う世界なので、どこから話すか迷いもしますが──」

 好奇を覗かせる象牙色の少女に、まんざらでもない様子で語る栗色の少女。浴室に彼女たちの楽し気な声が反響する。

[……──]

 そうやってかしましく会話を楽しむ少女たちを、天井から観察する漆黒の流体。魔神エスリウの感知さえもあざむく、ロウの眷属けんぞくエボニーである。

 かれこれ一時間ほどガールズトークを眺めていた彼だったが、他の護衛対象に不穏な動きがあったためここで中断。

 後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。

◇◆◇◆

 エボニーが浴室を離れたころ、学生寮から少し距離を置いた位置にある屋内訓練場では。

「──随分調子に乗る平民だな。そこまで言うならいいだろう。その新入生たちの前で恥かくが良い!」

「口ばっかりのお前なんかに負けるか!」
「レルヒ君、刺激しちゃだめだよう」「あわわわ」「……」

 ロウの友人にしてエボニーの護衛対象が、剣呑けんのんな空気の只中にいた。

 護衛対象の面々はロウと同性同年代のレルヒ、精霊使いのアイラ、猫耳少女のカルラ。そして、少年少女を監督する使用人フュンだ。

 同じく使用人で普段彼らを見守っているアイシャは、寮の浴室前で見張りについているためこの場にいない。

「坊ちゃまの絡み癖にも困ったもんですねえ」
「気を抜くなサフィー。あちらの女性は只者ではない。何があっても割って入れるよう準備しておけ」

 対するは、昨日エボニーが遭遇した偉そうな少年アリムに、その従者の男性たち。直接いがみ合っているのは主の少年だけだが、フュンを見据える従者たちもただちに動ける構えである。

「レルヒ様、それにアリム様。学生同士の手合わせは禁じられていませんが、立会人を双方から選出し、互いを尊重し重大なけがを負うことの無いよう行わなければなりません。同意していただけますか?」

「当然だ。僕が加減を間違うなどあり得ない」
「ムカッ。そんなに自信があるってのか。フュンさん、魔法薬で治せる傷って、どれくらいなんでしたっけ?」
「切断された四肢の結合さえも可能ですが、こうなると手合わせの範囲を超えています。既に私たちがご用意していますが、あくまで不測の事態に備えているだけですので。学生同士、のりえることのないようお願いいたします」

「うッ。はい……」「いいだろう」

 やり過ぎないよう釘を刺すフュンの言葉に両者が頷いたところで、アリムの従者ジャラールが彼女の傍へと歩み寄った。

「坊ちゃまの側からはこの私が。用意した魔法薬の鮮度もありますし、なるべく早く始めたいところですが。もうよろしいでしょうか?」

 狼のように鋭く隙のない青年が確認をとると、問題ないと頷く少年たち。

「う~。レルヒ君、大丈夫かなあ」
「怪我を治す薬がありますし、心配いりませんよー。そちらの従者さんも、大怪我するようなのは無しだって念を押してましたし」
「わっ。そうですよね、ええと……」
「紹介が遅れました。アリム様の従者、サフィーです。お見知りおきを、可愛らしいお嬢さんがた」

 もう一方の青年が少女たちに粉をかけ始めた頃合いで、全ての準備が整う。

 距離を置いて睨み合う少年たちは、既に魔法陣を浮かべいつでも動ける構えだ。

 軽口を叩いていた時と異なり、いずれの表情も年齢に見合わぬほどに鋭い。彼らが魔術大学の学生であることを示す一面である。

「それでは──始め!」

 両者を見やったフュンは澄んだ声で合図を告げる。
 美声が反響すると同時に、向かい合う両者が術式を解放。

 少年たちの戦いの幕が、切って落とされた。
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