ショートショートアンソロジー

食べ残しの秘密

　都市の片隅に「残菜ビストロ」という小さなレストランがある。店主のリリアンは、客が残した食べ物からその人の心の状態を読み取る特技を持っていた。

　ある冬の夜、若い男性が一人でレストランを訪れ、彼は特別なコース料理を注文したが、ほとんど手を付けずに残した。

「何かお気に召さなかったですか？」リリアンが彼に尋ねる。

「いえ、料理は素晴らしいです。ただ、最近食欲がなくて…」

　リリアンは残された料理を見つめながら、彼の心の重さを感じ取った。彼が何を抱えているのか、その一部を理解した彼女は、ある決断をする。

「少し特別なデザートをお作りしましょう。少しでも気持ちが軽くなるように」と言い、キッチンに戻った。

　数分後、リリアンは「希望のケーキ」と名付けたデザートを彼の前に置いた。見た目はシンプルなチョコレートケーキだが、一口食べると、彼の表情がぱっと明るくなった。

「これは…」

「はい、私が心を込めて作った特別なレシピです。食べると、心に温もりが広がるんです」

　男性はケーキを食べ終えると、久しぶりに心からの笑顔を見せた。

「ありがとうございます。久しぶりに、何か前に進めそうな気がします」

　リリアンは微笑みながら彼を見送った。