戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

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第3章 収穫祭=仕事でしょ

3-9 結局のところ

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「なんとなくっすけど、総帥が納得いかないと言ったのは、ライアス様に対してだと思います」
「どういうこと?」

 リアナーレは護衛のエルドとメイドのルーラを座らせて、薔薇園でお茶をしていた。

 誘拐事件以降、セヴィリオの過保護具合は一層強まり、聖女様の相談会ですら総帥の執務室で行うよう制限されている。
 全く気に留めない、鋼鉄の心臓を持つリアナーレの実兄を除き、相談数は急激に減ってしまった。

 退屈な日々に逆戻り。いや、以前にも増して暇なのである。

「リアナ様、もう一杯いかがですか」
「ああ、ありがとう。お願い」
「俺も! ルーラちゃんの淹れてくれた紅茶、美味しいんだよなー」

 屋根のつきのテラスで、優雅に紅茶を飲み、ルーラが用意してくれたお菓子を摘む。

 薔薇園は亡き王妃様が個人の時間を過ごすために作られた場所だ。
 閉鎖的な空間の中は開放的で、ここで使用人たちと過ごす時間が、リアナーレにとっては数少ない慰めとなっていた。

 王子の妃がテーブルを囲んで使用人と対等にお喋りをしているなど、城の関係者に見つかったら厳しく叱られるだろう。
 それでも、退屈で死ぬよりはましだと思うので、大目に見てもらいたい。

「えっと、私たち何の話をしてたっけ」

 リアナーレと元部下は顔を見合わせた。

「リアナ様が誘拐された件のお話をされていましたよ。旦那様が事件の顛末に納得されていない、という話です」
「あー、そうだ、そうだ。流石ルーラちゃん」

 あまりにも暇すぎて、先日の一件について蒸し返していたのだった。

「納得がいかないのは、大臣の処遇についてだと思ってたけど」
「絶対ライアス様のことについてですってば。だって、おかしいと思いません? 何であの人が急に首を突っ込んできたんすか?」
「それは、誘拐現場付近に居合わせたからでしょ」
「それも偶然かどうか…。俺には上手いこと、大臣に罪をなすりつけただけのように思えますけどね」

 エルドは腕を組み、背もたれへとのけ反る。

 確かに、薄汚れて王宮に戻ると、まるで当事者のように第一王子が話に加わっていた。
 祭りの視察に出ていた先で、誘拐現場近くに居合わせたと聞いている。

 ライアス王子に話しかけられ、護衛対象から目を逸らしていた、というエルドの話はどうやら事実のようだ。

「殿下が背後にいたということ?」
「あり得なくはないと思います。企てたのは大臣かもしれないっすけど、成り行き任せなチンピラ達だけで、隊長を攫えるとは思えません」
「うーん、酔っ払ってなければ抵抗できたと思うけど……悪運が重なったみたい」

 結局のところ、恋人同士を狙った事件が相次いでいたのは本当らしい。
 こちらの犯人確保は、マルセルが手柄を上げたようで、マリアンから送られてきた手紙に、活躍の詳細が書かれていた。
 彼女はその一件ですっかりマルセルに惚れたようだ。めでたし、めでたし。

 リアナにお酒を飲ませたのは、完全なるセヴィリオの失態。
 彼にしては珍しく、聖女様が極度にお酒に弱い体質だということを、失念していたらしい。

 女性の叫び声がしたのは、ただの引ったくりだったらしいが、犯人は捕まっていない。
 
 お酒、ひったくり、ライアスの登場。これらが重なって、誘拐が成功してしまった。
 運が悪かったとしか言えないが、リアナーレは、ふと、男たちが小屋で話していたことを思い出す。

「最初に話を持ちかけたのが大臣で、二人目の依頼主が別にいた?」

 目的は分からないが、大臣の後にライアスが重ねて依頼をし、手を貸したのだとしたら。
 完璧超人の第一王子なら、必然を偶然と装うくらいきっと簡単だ。

「もしかして、私、ライアス様に狙われている……?」
「何かしたんすか」

 エルドは疑いの目でリアナーレを見る。
 元部下はいつもそうだ。男絡みで何かがあると、リアナーレに原因があると考える。
 
「私は何もしてない! けど、リアナの時に何かあったのかも」
「ライアス様と……特に関わりはなかったと思います。ただ、私がお仕えするようになったのは、リアナ様がご結婚されてからなので、それ以前のことは分かりません」

 ルーラは淹れたての紅茶を配膳しながら言う。

 リアナーレも、聖女様がいつ、どのような経緯で王宮にやって来たのか、詳しく知らなかった。
 なにせ、彼女の存在を認知したのは、セヴィリオとの急な結婚が決まった時だ。

 非の打ち所のない可憐な女性が、セヴィリオの伴侶に選ばれたと知った時。リアナーレは隠れて泣いた。

 それももう数年前の、懐かしい話である。

「結局、よく分かんないっすよねー。何のために隊長を攫って、どうするつもりだったのかも見えてこない」
「ライアス様が関与しているとしたら、単なる嫌がらせかも」
「だとしたら殿下って相当性格悪いっすね」

 元部下は大袈裟に顔を引きつらせる。

 ライアスは昔から、何を考えているのか分からない秀才だった。
 彼が聖女様を気にしているのには、何か理由があるのかもしれないし、ただの暇つぶしかもしれない。

「ちょっと、食べすぎ!」

 エルドが本日三個目の焼き菓子に手を伸ばしたので、リアナーレは横から奪って、食いっぱぐれているルーラに渡した。
 自分がルーラに渡すつもりだったと、彼は文句を言う。本当かどうか。

「とにかく、うっかり後ろから刺されるなんてこと、ないようにしなくちゃね」
「それ、ホント洒落にならないんで。気をつけて下さい」
「護衛が何言ってるの、命をかけて守りなさいよ」
「日々の護衛業務だけで命がけですってば」

 セヴィリオから強くあたられているエルドは、愚痴を漏らすのだった。
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