戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

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第3章 収穫祭=仕事でしょ

3-10 悪夢で会えたなら

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 冬場は日が落ちるのが早い。三人で話し込んでいるとあっという間に日が傾き始める。

 薔薇園を引き上げる準備をしながら、ルーラは突然リアナーレに尋ねた。

「そういえば。完全無欠の戦女神様は、どうしてお亡くなりになられたのですか?」
「あー、それは……私が勝ったと思って気を抜いていたというか……」

 リアナーレは天を仰ぐ。完全無欠というのは言い過ぎだが、自分でもあの時のことは不思議なのだ。

 多少、心に緩みがあったかもしれない。それでも、戦場に立つ時は、すり減るほどに神経が研ぎ澄まされているものである。

 特にリアナーレは人並み外れた気配察知力を誇っていた。重たい鎧を纏わぬ理由もそこにあり、慢心故の死と言えばその通りだ。
 ただ、胸を貫通するほど深く刺されるまで、背後の気配に全く気付かないことがあるだろうか。

 あの時のリアナーレは、殺気どころか人の気配すら感じていなかった。空間を突き破り、唐突に現れた鋭い塊に貫かれた。そんな感覚だ。

「そのことについて、隊長と話してなかったすね。あまり話さない方が良いかと思っていたんすけど、どうしますか?」
「ルーラには刺激が強いと思うから、後で聞く」
「といっても、大したことは分かってないんすけどね」

 エルドは大きな欠伸をした。それにつられて聖女様もはしたなく欠伸をする。隣国と戦争を繰り返しているとは思えぬ、平和な黄昏時だった。

◇◆◇

 気づくと、リアナーレは荒れた大地に立っていた。亡骸がそこかしこに転がり、ところどころ火の手が上がっている。

 見慣れた戦場の景色だ。

 強い風が吹きぬける。リアナーレの短い朱色の髪は散らばって、視界を遮った。髪を掻き上げると、いつの間にか目の前に男の影がある。
 
 夢だ。現実ではない。

 リアナーレは自らに言い聞かせるが、目覚めることができない。

「リアナ」
「セヴィー……」

 冷たい目、死人のように硬直した表情。リアナーレがよく知る、軍事総帥を務める第二王子、セヴィリオ=シャレイアンがそこにいる。

「何故生きている?」

 彼はリアナーレに尋ねる。ただの疑問ではなく、存在を否定する言葉に思えた。
 全身から嫌な汗が吹き出して、戦女神の体を濡らす。

「私が生きていてはいけないの?」
「ああ。お前は国にとって目障りだ。神聖視されすぎた」
「本来民に崇められるべきは、聖女様だものね。大人しくて、美しい、王国の傀儡人形として」

 聖女様、という言葉に彼の眉がぴくりと動く。 

「分かっているのなら、何故死ななかった。死なせるために連合軍討伐を任命したというのに。生き延びることのないよう、刺客を紛れ込ませたというのに」

 やはり、リアナーレは不要だったのだ。女としても、軍人としても、王国セヴィリオに切り捨てられた。

「そんなに死んでほしいのなら、貴方の手で殺して頂戴」

 リアナーレは両手を広げ、無防備な体を晒す。

「そうだな。今すぐ、屠ってやろう」

 セヴィリオは剣を構える。それは、収穫祭でリアナーレが見つけた剣だった。
 
 もう、どうでも良くなった。

 国のためと思っていたが、どうやら国は必要としていないらしい。愛する人にも望まれていない。

「言い残すことはあるか」
「……何もない」

 剣が迫る。衝撃と共に、鋭い先端が体内を貫いた。体が動かず、息もできない。

「……っ、……!」

 リアナーレは自分の唸り声で目を覚ました。
 やはり夢だったのだと言い聞かせても、しばらくは胸の動悸が治まらず、ぴくりとも動くことができなかった。
 汗でシーツがぐっしょりと濡れている。

「リアナ、大丈夫?」

 隣で寝ていたはずのセヴィリオは、異変に気づいたようだ。寝ぼけた声で、聖女様を気遣う。

「え、ええ、大丈夫」
「怖い夢を見たんだね」
「そうかもしれない」

 愛する人に殺される、恐ろしい夢だった。

 やっとの思いでリアナーレが寝返りを打つと、セヴィリオは背後から汗まみれの体を抱き締め、鼻先を首に擦り寄せた。

「大丈夫、全部夢だから。君のことは今度こそ、僕が護ってみせる」

 ――貴方は私がリアナーレだと知っても、同じように抱き締めてくれますか。

 声にならない問いが、闇の中へと消えていく。

 戦女神は胸を貫かれて即死だった。至近距離から的確に、心臓を狙って刺されていた。実行犯は味方に紛れていた刺客だろうと、お茶会の後にひっそりエルドが教えてくれた。

 但し、リアナーレを殺した何者かは、その場で自死したらしく、あくまで推測でしかないという。
 
 エルド曰く、死体の上腕には蛇が絡み合う文様が刻まれていたらしい。

 蛇の文様。リアナーレが思い当たるのは、シャレイアン王家の紋章だけである。
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