戦女神の別人生〜戦場で散ったはずなのに、聖女として冷酷王子に溺愛されます!?〜

藤乃 早雪

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第5章 貴方の目で見る世界

5-8 また会いましょう

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 ぼんやりした意識のまま、リアナーレは朝食をとる。新鮮な卵と牛乳で作られたスクランブルエッグは格別で、口に含むとようやく目が覚めた。
 一生懸命準備してくれたのであろう村人たちに感謝する。
 
 朝食を取り終えると、総帥はエルドを呼び出し、今すぐ聖女を連れ帰るよう命じた。
 周りに聞こえるよう告げたのはわざとだろう。一刻も早くお帰りくださいと、兵士たちが揃って口にする。事実上の強制送還だ。

 エルドはすぐに帰されることになると予想していたようで、特に文句を言うこともなかった。あっという間に馬の準備を終え、リアナーレを迎えに来る。

 見送りに来たセヴィリオは、自身の首から下げていた銀のネックレスを外した。チェーンに通された細身の指輪が朝日に煌めき、揺れる。

「これをリアナに受け取ってもらいたい」
「これって…」

 何本もの線が重なり合う精巧で緻密なデザインの指輪には、澄んだ青色の宝石がはめ込まれている。ダイヤモンドのように強い輝きを放つそれは、ひと目で希少なものだと分かった。

「母の婚約指輪。形見なんだ」
「大事なものでしょ? 私がもらっていい物なの?」
「ずっと、リアナに渡そうと決めていたんだ。ようやく渡せる」

 セヴィリオはリアナーレの髪を持ち上げると、首にネックレスをつけてくれる。
 幸せそうに目を細める彼に、いつから渡そうと決めていたのかは聞かなかった。きっと、昨日や一昨日でなく、随分前から考えていたことなのだろう。

「ありがとう」

 リアナーレは薄く唇を噛んだ。そうでもしなければ感極まって、また涙が滲みそうだった。

「無事帰れるよう、お守り」
「お守りなら、セヴィーが持ってるべきじゃない?」
「僕には、リアナがくれた手作りのレースがある」

 彼は胸ポケットから赤い塊を取り出した。
 製作者にすら、大きな糸くずに見えるそれを、リアナーレは今すぐ捨てるよう頼むが、セヴィリオは大切そうに仕舞い込む。

 やはり渡すべきではなかったのだ。恥ずかしい失敗の証が、末永く残されてしまう。

「ご武運を」
「リアナも、気をつけて」

 糸くずがお守りになるとは思えないが、他に渡せる物もないので仕方ない。
 リアナーレは後ろ髪を引かれながらも、彼にしばしの別れを告げた。

◇◆◇

「いやー、末永く語り継がれそうなシーンでしたね。手作りの糸くず…ふっ…」
「うるさい、黙って」

 リアナーレは馬を走らせる護衛の背中を殴る。

「痛っ! もう少し労ってくださいよー」
「代わろうか?」
「却下します」

 この体でも乗馬ならできるのだが、エルドは頑なだった。
 可愛らしい聖女様の後ろにしがみつく軍服の男。という構図になってしまうので、プライドの問題に違いない。

「それにしても、嫌な予感がする」
「戦女神の勘っすか?」
「勘というか、そう上手くはいかないだろうっていう不安」

 リアナーレの立てた作戦は単純なものだ。川を北上してくるであろうオルセラの援軍に気づかぬふりをして、正面からプレスティジの本隊とぶつかる。これに関して、地の利は自国シャレイアン側にある。

 オルセラの援軍に対しては、川岸の森に小規模な伏兵団を配置しておく。余裕があるのなら、罠を仕掛けておくのも良い。茂みの影から多少卑怯な手を使ってでも、奇襲をかける。そうでなければ規模の差で負ける。

 シャレイアン側はかき集めた傭兵や、近隣の村人を足しても戦力不足だ。敗退を遅らせることはできても、敵を押し返すことは難しい。 

 あとは、レクトランテの支援頼みだ。第一王子ライアスからは、数日の差で援軍が到着するはずだと聞いているが、彼の言うことはあてにならない。
 王都陥落はさせないだろうが、それまでにどれだけ遊ぶつもりか。どれだけ駒を捨てるつもりなのか。

「悪いけど、王都に戻る前に寄りたいところがある」
「何かあるんすか?」
「敵を迎え撃つのに最適な場所」
「隊長…もしかして一人で戦う気っすか?」
「そんなことできるわけないでしょ」

 エルドの中での戦女神像は一体どうなっているのだ。リアナーレは呆れながらも、戦女神時代なら、例え一人でも迎え撃ったかもしれないと思う。

「ここから東に半日進んだところにある集落、覚えてる?」
「ああ、はい。過去にも何度か、補給に寄らせてもらったところっすね」
「とりあえずそこに向かって」

 その集落のそばにある谷間の細い一本道は、王都に入るために通過しなければならない地点だ。敵の王都侵入を防ぐ、最後の砦のような場所である。 

 推測でしかないが、確かめて損はない。未だ事情を察していないエルドに何の説明もなく、リアナーレは集落に滞在させてもらうことにした。

「やっぱり」

 夜更けに到着し、二人が体を休めた翌日の夕方。レクトランテの軍人たちが、シャレイアンの小隊に先導されて集落を訪れた。補給のためではない。根城とするためだ。

 ざわつく村の様子を見て、エルドは呟く。

「これは一体…本隊との合流地点が上手く伝わってなかったんすかね」
「いや。彼らは正しく行動してると思う。ライアスの指示に則ってね」

 前線は待てど暮らせど援軍が来ない。じきにここまで敗走してくるだろう。
 勝利に油断した敵軍を、ここでレクトランテの援軍が叩き、王都への進軍を防ぐ。

 シャレイアンの本隊は大打撃を受けることになるが、その犠牲を払ってまでライアスがしたいことは何か。

 逆恨みによる、弟いじめではないかとリアナーレは思うのだ。
 一国の王となる人物がこれでは、シャレイアン王国の未来は暗い。

「行きましょ」
「えっ、あっ、ちょっと!?」

 シャレイアンの小隊に見知った顔を見つけた。彼が全体のまとめ役だろう。リアナーレは屈強な男たちの集団へと、歩みを進める。

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