あちらの悪役令嬢は、前世が猫だったようです。

藤 都斗(旧藤原都斗)

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そのときどうしてた?

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 ​───────それに気が付いた時には、もう遅かった。

 大好きな王子様。
 小さな頃から憧れて、誰よりも大切で、私の初恋の人。

 婚約者に選ばれた時は、本当に嬉しかった。
 大好きなクマのぬいぐるみを抱き締めながら、ベッドで飛んだり跳ねたり、転がって喜んだ。

 金色の髪で蒼い瞳の、とても優しくて美しい王子様。
 王位継承権第一位の王子として、プレッシャーに押し潰されそうになっていたか弱くて繊細な人。

 その人を支える為に、寄りかかられても平気になる為に、私はとても頑張った。

 苦手なダンスも、お裁縫も、礼儀作法も、政治や統治の事だって、私に出来る限界まで頑張ったの。
 相応しくあれるように、釣り合うように、凄く凄く頑張ったの。

 だけど、彼の心は私からどんどん離れていった。
 何をしたら良かったのか、分からない。

 ワガママを言ったり、贈り物をしたり、優しい言葉を掛けたり、色々やったの。
 本当に色々考えて、頑張ったの。

 だけど、全部空回りしてしまった。

 だからせめて、外見だけでも釣り合うように、少しでも王子に好かれるように、磨きに磨いたわ。

 全部、無駄な時間になってしまった。

 王子の隣で、笑う女。
 私に無いものを全て持っている女。

 癖のない、綺麗な色の髪。
 丸くて優しげな目元。
 ふわふわしたパンケーキみたいな、甘やかな外見。

 王子が、私の見た事の無い笑顔で、女を見ていた。

 でも、婚約者は私。
 だから大丈夫。
 必死にならなくても、大丈夫。

 そう自分に言い聞かせていたのに。


 「クロエリーシャ・フォルトゥナイト! まさか貴様がエトワールに嫌がらせをしていた首謀者とはな......、そんな女に王太子妃など言語道断!、今日をもって、貴様との婚約は破棄させてもらう!」

 卒業パーティの真っ只中、王子は私にそう言い放った。
 背後に、あの女を連れながら。

 その後も王子が何か言っていたけれど、全然頭に入って来ない。

 あの女は、必死な顔をして王子に何か言ったあと、私を見て笑った・・・

 にぃやりと、悪魔のような笑顔で、私を嘲笑った。

 ​───────あぁ、私、嵌められたんだ。

 それを理解した瞬間、私は全てに絶望した。
 周りの人間達が全て、悪意のある眼差しで私を見ているようにしか、感じられなかった。

 誰も私を知ろうとしない。
 誰も私を必要としない。
 誰も私を信じてくれない。

 私には誰も、居ない。

 なら、もう、こんな人生───────









 知らないニンゲンがいっぱいいる。
 凄く変な目であたしを見てる。

 知らない匂い。
 知らない場所。

 なんかよく分からないけど、いきなり前足を掴まれた。

 怖い。

 だからあたしは、そいつをひっかいて、逃げようとした。

 だけど、ニンゲン達があたしを囲んでて、逃げられそうにない。

 やだよ、こわいよ、ここはなんなの?あたしはどこにいるの?おうちに帰りたいよ。


 「クロ!」


 聞き覚えのある、響きが聞こえた。

 あたしの名前。

 声のした方を見るけど、知らないニンゲンだった。

 やだよ、こわいよ、かえりたいよ。

 必死で叫ぶ。

 「大丈夫だよ、俺だよ、ほら」

 知らないニンゲンがあたしに前足を出した。
 知らないニンゲンな筈なのに、知ってる匂いと声と気配が重なる。

 知ってる匂い。
 いつも聞いてた声。
 いつも一緒だった気配。

 タカユキだ。

 なんでいなかったのかと思ったらこんなとこにいたのね!
 だいぶ大きいのに迷子なんて、世話の焼ける子なんだから!
 いつものように頭を撫でてくれてるけど、誤魔化されないんだからね!もう!

 知らない場所だからまだちょっと怖いけど、この子と一緒なら安心出来る。
 あたしは、タカユキに顔を擦り付けたのだった。

 




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