あちらの悪役令嬢は、前世が猫だったようです。

藤 都斗(旧藤原都斗)

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そいつぁ困った

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 何度も何度も王子に会いに行ったけど、会う事が出来なかった。

 婚約者でも会えないなんて、やっぱり王子って凄く忙しいんだろうな。
 でも、少しくらい会わせてくれたって良いと思うのよ。酷いわよね。

 でも私はヒロインだから、そんな事で怒らないのよ。
 会えないのは寂しいけれど、わたしには素敵なお友達がいるんだから。

 そう思っていたのに。

「うちの坊ちゃん達なら修道院に入ったよ」

 ラン君もライ君もいなかった。

「は? お前みたいなのが会える訳ねぇだろ、アポくらい取れ」

 ルディ君にも会えなかった。

 ジャス君も、セン君も、どこにいるのか分からなかった。
 噂話でさえ知らない。知る事が出来ない。

 彼ら以外のお友達も、知り合いもいなかったから。

 お義父さまとお義母さまに聞いても、知らないって。

 途方に暮れていた時、街中でジャス君を見掛けた。
 粗末な鎧を着て小汚い男達と並んで歩いていたけど、あの整った顔と綺麗な赤毛は見間違いようがなくて、わたしは彼に駆け寄った。

「ジャス君!」

「……エトワール、様」
「もう! ぜんぜん連絡が取れないから、すっごく心配したのよ!」
「はぁ、それは、申し訳ございません」
「それで、一体なにをしていたの?」

 歯切れの悪いようなジャス君の言葉に少しの違和感を感じたけど、その時は気のせいだと思った。

「見廻りです」
「王子の護衛はどうしたの? だめよ、サボりなんかしちゃ!」

「…………いえ、これが今の俺の仕事です」
「えっ?」

 聞き間違いかと思ったから、わたしは改めて確認するように言う。

「あ、分かった、王子が忙しいからよね」
「本当に何も知らないんですか?」

 見た事もない、冷たい目だった。

「どうしたのジャス君、怖い顔して」

「あれだけの事をしておいて……あなたという方は……」
「待ってジャス君、どういう事?」

 唇が震える。
 それでも問い返した時、別の所から声がかかった。

「おいヒヨッコ、さっきから何してんだ? ナンパか?」
「お前顔だけは良いもんなぁ、お嬢さん、騙されちゃいけませんぜ、こいつはただの兵士、貴族とはもうなんの関わりもねぇんだから」

「えっ?」

「天下の悪女、男爵令嬢エトワール・ライアンの策略で、出世とは程遠い所に送られちまった可哀想な男さ」
「それって王子の玉の輿に乗ろうとして、公爵令嬢を前世返りにまで追い込んだ極悪人だっけ?」

「怖ぇ怖ぇ、欲に眩んだ女は何するか分かんねぇな!」
「本当にな! お嬢さんもそんな女にならねぇよう気を付けろよ!」
「おいそれは失礼だろ! すまねぇな、こいつは口が悪いんだ、気にしねぇでくれ」
「い、いえ……」

 彼等の言葉は、わたしの混乱に拍車をかけただけだった。

 呆然と立ち竦む私に、ジャス君の冷たい視線だけが突き刺さっているような気がした。

 わけがわからない。
 どうして、わたしの名前が『天下の悪女』としてこんな所まで広まっているの?

 それは、『クロエリーシャ・フォルトゥナイト』の設定でしょ?
 どうして? なんで?

 一体何が起きてるの?

 ふと、王子の決意に満ちた言葉が頭を過ぎる。

『王子だからこそ、この国の為にも、あの女を何とかしなきゃならない……』

 そっか……、こういうやり方をしてくるのね、あの女は。
 地位が高いから、周りの人達を使ってわたしを追い詰めようとしてくるなんて、凄く卑劣。

「そっちがその気なら、わたしにだって考えがあるんだから……!」

 怪しい者を見るみたいな周りの目なんか気にならなかった。

 だってわたしは『エトワール・ライアン』
 この物語の主人公で、無敵のヒロインなんだから!


 
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