ひなとDoctors 〜柱と呼ばれる医師たち〜

はな

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懊悩

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ひな「ケホ、ケホッ……」


五条「大丈夫か?」





病室のベッドに戻るとまた咳が出て、五条先生が背中をさすってくれる。





ひな「大丈夫……ケホッ、ケホケホッ!」





確かにココアのせいだったのに、これじゃあ嘘をついていたみたい。





ひな「なんでだろ、ケホッ、急に……ケホケホッ!!」


五条「無理にしゃべるな。ただの寒暖差かもしれんから」





言われて、咳を出すだけ出していたら、





五条「落ち着いたか?」


ひな「はい、すみません……」


五条「水飲め」


ひな「はい……」





発作にもならず数分で治まってくれた。





ひな「すみません、五条先生。もう本当に大丈夫です。ありがとうございました」





そろそろ仕事に戻らないといけないだろう。

仕事中だっただろうに、長い時間付き合わせてしまった。

そう思って言うと、





五条「なぁ、ひな?」





五条先生はベッドサイドの丸椅子に座り、





五条「何か考えてることあるだろ?何悩んでる?」





って。





ひな「えっ?いや、別になにも……」





五条先生の真剣な表情にすべてを見透かすような瞳。

急になによ……と視線を逸らすと、





五条「ひなずっと悩んだ顔してる。屋上行きたかったのもそのせいだろ。夜寝れてるのか?食欲ちゃんとあるか?かわいい顔が疲れてんだ……」





って、目の下のクマをなぞるように、わたしの頬に手を添える五条先生。





ひな「……」


五条「ん?」


ひな「……」


五条「どした?」





言葉が出てこなくて、ただ五条先生を見つめることしかできなくて、五条先生の手の温もりが頬をじんわり温めて、優しい声が心を溶かして、





ひな「……もう、やめようかなって……。医者、やめる…………」





思いと涙が溶け出した。





五条「ひな……」





五条先生が、今度は両手でわたしの頬を包む。





ひな「ぅっ、ヒック、うぅっ……ヒック、ヒック」





一度溢れ出すともう止まらない。





五条「ひな」





しゃくり上げて泣くわたしをぜんぶ、五条先生はベッドに腰掛けてすっぽり包む。





ひな「ぅ、グスッ、ヒック、ヒック、ううっ、グスッ、ヒック、ヒック……うっ……」


五条「大丈夫、大丈夫……」





五条先生は背中を優しく撫で続け、





五条「つらいな。大丈夫だから」





頭も撫でてくれて、





ひな「ヒック、ヒック、っ、ヒック……」





スクラブがびしょびしょになっても、胸に顔を埋めて思いっきり泣かせてくれた。










***



*五条side





五条「どうして、医者やめたいと思った?」





ようやく落ち着いたひなに、まずは尋ねてみる。





ひな「……治らないから」





つぶやくひな。





五条「治らないっていうのは、何が治らないから?不整脈は治っただろ?この前の検診も、豪先生問題ないって」


ひな「不整脈"は"でしょ。他が悪くなった。喘息も貧血もまだ不安って言われて、安静にしてるのになぜかよく熱が出て、ずっと院食なのに便秘になったり下痢になったり、生理もまた止まった……。ひとつ良くなっても、別のどこかが悪くなる。というか最初から悪い。全部、もう治らない……」


五条「ひな……」





うつむくひなの肩をさする。



ひなの言うとおり、ひなの体調は不安定で、退院の許可を出せるほど回復していない。

婦人科にもかかるようになったので、メンタルがやられて余計に調子が戻らないのもわかっている。

それでも、





五条「治らないことないだろ。ひなこんなに頑張ってるんだから。全部治らないって言うけど、ひなは今まで全部乗り越えてきたんだぞ?だから大丈夫」





なのに、





ひな「大丈夫じゃない……」





投げやりに言い捨てる。





五条「……ひな?」





垂れた髪を耳にかけるように頬を包んで、ひなの顔を上げさせて、





五条「ひなは、本当に医者をやめたいのか?もう一度聞くけど、どうして医者やめたいと思ったんだ?やめたいんじゃなくて、自分には向いてないからやめた方がいいって、そんな風に思ってないか?」





ひなの目を見ながら聞く。





ひな「……向いてないんだから、やめた方がいいんだよ……」





ゆらっと揺れるひなの瞳。





ひな「すぐに体調崩して、入院して、退院するのにも時間かかって……。何回も何回も、研修医になってまでまだ繰り返して……。こんな病弱な、自分の身体も治せない人間が、医者になるべきじゃない……」





瞳に迷いを宿しながら。

ひなは言葉を並べるが、やはり煮え切らず、





五条「ひと言も言わないな。"やめたい"って。取って付けたように理由並べて、やっぱり、医者やめたいわけじゃないんだろ?」


ひな「……だって……」





ひなは目にまた涙を滲ませ、





ひな「やりたくてもできないじゃん……。わたしは医者のはずなのに、今患者なんだよ……現に医者やれてないの……病気の人間に医者は無理なの……グスッ」





と。





五条「ひなそれは違う。持病を抱える医者は山ほどいるんだ、無理なんかじゃない。ひなと同じ、心疾患でドクターやってる人もいるし、りさ先生が喘息なのはひなも知ってるだろ?りさ先生も、決して軽くない喘息抱えながら医局長やってんだ。身近にもそんな人がいるのに、どうしてひなだけ諦めるんだ……」


ひな「りさ先生はすごい人じゃん……でもわたしは違う……。仕事できないし、すぐ倒れるし、迷惑かけるだけで、わたしみたいな医者いない方がマシ……」


五条「ひーな。誰もそんなこと言ってないだろ?」


ひな「言わないだけで、みんな内心思ってる……」


五条「こら。ひなそれは怒るぞ?ひなに医者やめろなんて言う人いないだろ。むしろ、みんな応援してくれてる。だから、先生方もひなに寄り添ってくれてるし、夏樹と傑だって、ひなの調子どうかって、昨日も心配してくれてたぞ」


ひな「心配じゃなくてうれしいんだよ。ライバルが減ってうれしいでしょ……」


五条「ひ~な?口から出まかせ言うのやめなさい」


ひな「……グスッ、グスン」





俺の腕を払って、胸を押し退けて、大粒の涙を落としながら顔を背けるひな。

俺は心の中でひとつ深呼吸をして、





五条「医者、続けたらいいんだぞ。休み休みだっていい。人と比べず、自分のペースで働けばいいんだ。同期と足並み揃わないと不安になるんだろうが、心配しなくてもひなは良い医者だし、この先さらに良い医者になれるから。それでもやっぱり辛いなら、ひなが後悔しないなら辞めたらいい。でも、ひなにとってそれが幸せじゃないのなら、俺は、ひなにやりたいこと諦めて欲しくない」





ぽんぽん……










五条「ひな、少し寝な。しんどいのに寝不足だから余計なこと考えるんだ。いつから寝れてなかったんだ?眠剤もらうか?」


ひな「いい……。今そんなの飲んだら変な時間まで寝ちゃう……」


五条「今は寝られるだけ寝たほうがいいと思うけどな。食事より睡眠取るほうが良さそうだぞ」


ひな「ごはん食べずに点滴増えるのは嫌……」


五条「じゃあ、とりあえず夕飯までは寝な。な?外の風にも当たったし。ほら」





そう言って、まだグスグスするひなを横にならせて布団を掛け、ひなが寝付いてから仕事に戻った。










***



その後のひなは……





ひな「グスッ、グスッ、ヒクッ……」


藤堂「ひなちゃん、落ち着こう。ね?」


ひな「もうやだっ……、また熱出たっ……」





術後の経過観察が終わり、豪先生と工藤先生の手から離れて内科に移動。

まずまずといった調子だったが、また急に発熱して、それがショックだったのか点滴を抜去しようとしたのを、藤堂先生が慌てて制止。





藤堂「お熱出たのは仕方ないから、早く治そう」


ひな「治らないっ……」


藤堂「治る治る。先生が治すから大丈夫」





幸いと言っていいのか、回診中に藤堂先生の目の前で抜去しようとしたもんだから、大事には至らず。

藤堂先生のおかげでひなもすぐに落ち着いたが、





藤堂「ひなちゃんしんどいね。今呼吸苦しい?」


ひな「フリフリ……」


藤堂「呼吸は大丈夫?眠れそうかな、ちょっと寝苦しい感じする?」


ひな「コクッ……」


藤堂「身体熱いもんね。嫌じゃなかったら脇にも氷当ててみよっか。祥子ちゃん」


祥子「はい。ひなちゃん腕ごめんね、ちょっと動かすね」


藤堂「ひなちゃんどう?氷あるの嫌な感じない?寝られそう?」


ひな「コクッ……」


藤堂「うん、よかった。もう熱は上がり切ってるから、たくさん寝るのを頑張ろうね。お熱は高いけど他は悪くなってないから、大丈夫だからね」





数日間高熱にうなされて、その後も良くなったり悪くなったりを繰り返し、退院して仕事に復帰できたのは、手術から3ヶ月経った頃になった。


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