246 / 262
懊悩
しおりを挟むひな「ケホ、ケホッ……」
五条「大丈夫か?」
病室のベッドに戻るとまた咳が出て、五条先生が背中をさすってくれる。
ひな「大丈夫……ケホッ、ケホケホッ!」
確かにココアのせいだったのに、これじゃあ嘘をついていたみたい。
ひな「なんでだろ、ケホッ、急に……ケホケホッ!!」
五条「無理にしゃべるな。ただの寒暖差かもしれんから」
言われて、咳を出すだけ出していたら、
五条「落ち着いたか?」
ひな「はい、すみません……」
五条「水飲め」
ひな「はい……」
発作にもならず数分で治まってくれた。
ひな「すみません、五条先生。もう本当に大丈夫です。ありがとうございました」
そろそろ仕事に戻らないといけないだろう。
仕事中だっただろうに、長い時間付き合わせてしまった。
そう思って言うと、
五条「なぁ、ひな?」
五条先生はベッドサイドの丸椅子に座り、
五条「何か考えてることあるだろ?何悩んでる?」
って。
ひな「えっ?いや、別になにも……」
五条先生の真剣な表情にすべてを見透かすような瞳。
急になによ……と視線を逸らすと、
五条「ひなずっと悩んだ顔してる。屋上行きたかったのもそのせいだろ。夜寝れてるのか?食欲ちゃんとあるか?かわいい顔が疲れてんだ……」
って、目の下のクマをなぞるように、わたしの頬に手を添える五条先生。
ひな「……」
五条「ん?」
ひな「……」
五条「どした?」
言葉が出てこなくて、ただ五条先生を見つめることしかできなくて、五条先生の手の温もりが頬をじんわり温めて、優しい声が心を溶かして、
ひな「……もう、やめようかなって……。医者、やめる…………」
思いと涙が溶け出した。
五条「ひな……」
五条先生が、今度は両手でわたしの頬を包む。
ひな「ぅっ、ヒック、うぅっ……ヒック、ヒック」
一度溢れ出すともう止まらない。
五条「ひな」
しゃくり上げて泣くわたしをぜんぶ、五条先生はベッドに腰掛けてすっぽり包む。
ひな「ぅ、グスッ、ヒック、ヒック、ううっ、グスッ、ヒック、ヒック……うっ……」
五条「大丈夫、大丈夫……」
五条先生は背中を優しく撫で続け、
五条「つらいな。大丈夫だから」
頭も撫でてくれて、
ひな「ヒック、ヒック、っ、ヒック……」
スクラブがびしょびしょになっても、胸に顔を埋めて思いっきり泣かせてくれた。
***
*五条side
五条「どうして、医者やめたいと思った?」
ようやく落ち着いたひなに、まずは尋ねてみる。
ひな「……治らないから」
つぶやくひな。
五条「治らないっていうのは、何が治らないから?不整脈は治っただろ?この前の検診も、豪先生問題ないって」
ひな「不整脈"は"でしょ。他が悪くなった。喘息も貧血もまだ不安って言われて、安静にしてるのになぜかよく熱が出て、ずっと院食なのに便秘になったり下痢になったり、生理もまた止まった……。ひとつ良くなっても、別のどこかが悪くなる。というか最初から悪い。全部、もう治らない……」
五条「ひな……」
うつむくひなの肩をさする。
ひなの言うとおり、ひなの体調は不安定で、退院の許可を出せるほど回復していない。
婦人科にもかかるようになったので、メンタルがやられて余計に調子が戻らないのもわかっている。
それでも、
五条「治らないことないだろ。ひなこんなに頑張ってるんだから。全部治らないって言うけど、ひなは今まで全部乗り越えてきたんだぞ?だから大丈夫」
なのに、
ひな「大丈夫じゃない……」
投げやりに言い捨てる。
五条「……ひな?」
垂れた髪を耳にかけるように頬を包んで、ひなの顔を上げさせて、
五条「ひなは、本当に医者をやめたいのか?もう一度聞くけど、どうして医者やめたいと思ったんだ?やめたいんじゃなくて、自分には向いてないからやめた方がいいって、そんな風に思ってないか?」
ひなの目を見ながら聞く。
ひな「……向いてないんだから、やめた方がいいんだよ……」
ゆらっと揺れるひなの瞳。
ひな「すぐに体調崩して、入院して、退院するのにも時間かかって……。何回も何回も、研修医になってまでまだ繰り返して……。こんな病弱な、自分の身体も治せない人間が、医者になるべきじゃない……」
瞳に迷いを宿しながら。
ひなは言葉を並べるが、やはり煮え切らず、
五条「ひと言も言わないな。"やめたい"って。取って付けたように理由並べて、やっぱり、医者やめたいわけじゃないんだろ?」
ひな「……だって……」
ひなは目にまた涙を滲ませ、
ひな「やりたくてもできないじゃん……。わたしは医者のはずなのに、今患者なんだよ……現に医者やれてないの……病気の人間に医者は無理なの……グスッ」
と。
五条「ひなそれは違う。持病を抱える医者は山ほどいるんだ、無理なんかじゃない。ひなと同じ、心疾患でドクターやってる人もいるし、りさ先生が喘息なのはひなも知ってるだろ?りさ先生も、決して軽くない喘息抱えながら医局長やってんだ。身近にもそんな人がいるのに、どうしてひなだけ諦めるんだ……」
ひな「りさ先生はすごい人じゃん……でもわたしは違う……。仕事できないし、すぐ倒れるし、迷惑かけるだけで、わたしみたいな医者いない方がマシ……」
五条「ひーな。誰もそんなこと言ってないだろ?」
ひな「言わないだけで、みんな内心思ってる……」
五条「こら。ひなそれは怒るぞ?ひなに医者やめろなんて言う人いないだろ。むしろ、みんな応援してくれてる。だから、先生方もひなに寄り添ってくれてるし、夏樹と傑だって、ひなの調子どうかって、昨日も心配してくれてたぞ」
ひな「心配じゃなくてうれしいんだよ。ライバルが減ってうれしいでしょ……」
五条「ひ~な?口から出まかせ言うのやめなさい」
ひな「……グスッ、グスン」
俺の腕を払って、胸を押し退けて、大粒の涙を落としながら顔を背けるひな。
俺は心の中でひとつ深呼吸をして、
五条「医者、続けたらいいんだぞ。休み休みだっていい。人と比べず、自分のペースで働けばいいんだ。同期と足並み揃わないと不安になるんだろうが、心配しなくてもひなは良い医者だし、この先さらに良い医者になれるから。それでもやっぱり辛いなら、ひなが後悔しないなら辞めたらいい。でも、ひなにとってそれが幸せじゃないのなら、俺は、ひなにやりたいこと諦めて欲しくない」
ぽんぽん……
五条「ひな、少し寝な。しんどいのに寝不足だから余計なこと考えるんだ。いつから寝れてなかったんだ?眠剤もらうか?」
ひな「いい……。今そんなの飲んだら変な時間まで寝ちゃう……」
五条「今は寝られるだけ寝たほうがいいと思うけどな。食事より睡眠取るほうが良さそうだぞ」
ひな「ごはん食べずに点滴増えるのは嫌……」
五条「じゃあ、とりあえず夕飯までは寝な。な?外の風にも当たったし。ほら」
そう言って、まだグスグスするひなを横にならせて布団を掛け、ひなが寝付いてから仕事に戻った。
***
その後のひなは……
ひな「グスッ、グスッ、ヒクッ……」
藤堂「ひなちゃん、落ち着こう。ね?」
ひな「もうやだっ……、また熱出たっ……」
術後の経過観察が終わり、豪先生と工藤先生の手から離れて内科に移動。
まずまずといった調子だったが、また急に発熱して、それがショックだったのか点滴を抜去しようとしたのを、藤堂先生が慌てて制止。
藤堂「お熱出たのは仕方ないから、早く治そう」
ひな「治らないっ……」
藤堂「治る治る。先生が治すから大丈夫」
幸いと言っていいのか、回診中に藤堂先生の目の前で抜去しようとしたもんだから、大事には至らず。
藤堂先生のおかげでひなもすぐに落ち着いたが、
藤堂「ひなちゃんしんどいね。今呼吸苦しい?」
ひな「フリフリ……」
藤堂「呼吸は大丈夫?眠れそうかな、ちょっと寝苦しい感じする?」
ひな「コクッ……」
藤堂「身体熱いもんね。嫌じゃなかったら脇にも氷当ててみよっか。祥子ちゃん」
祥子「はい。ひなちゃん腕ごめんね、ちょっと動かすね」
藤堂「ひなちゃんどう?氷あるの嫌な感じない?寝られそう?」
ひな「コクッ……」
藤堂「うん、よかった。もう熱は上がり切ってるから、たくさん寝るのを頑張ろうね。お熱は高いけど他は悪くなってないから、大丈夫だからね」
数日間高熱にうなされて、その後も良くなったり悪くなったりを繰り返し、退院して仕事に復帰できたのは、手術から3ヶ月経った頃になった。
35
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる