りさと3人のDoctors

はな

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治療がこわい

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蒼「りさ、ベッド動くね」





りさはこの日も治療室のベッドの上だった。

治療を再開してから3回目の治療になる。

再開した日は蓮に治療をやってもらったが、それ以降は今まで通り蒼がやっている。





蒼「りさ、今日も指1本入れるの頑張ってみようか」


りさ「はい……」





前は入るようになっていたのに、今はまた指1本すら入らなくなっている。

傷はすっかり治っているので、処女膜の状態は決して悪くないのだが、りさは指を入れられることの恐怖心がまだ消えていない。





蒼「そしたら、まずいつもみたいに深呼吸するよ。吸って~……」


りさ「すぅ~……」


蒼「はい、吐いて~……」


りさ「ふぅ~……」


蒼「うん、そうそう。力抜けてるよ」





力む癖がついてしまったりさのために、蒼は最初にりさをリラックスさせるようにしていた。

蒼の優しい声と一緒に深呼吸するこの時間は、りさも心地よく感じて自然と体の力が抜けていった。





蒼「じゃあ、そのまま呼吸続けててな」





りさの力が抜けたことを確認すると、蒼は呼吸に合わせて指をゆっくりとりさの中に沈めていく。





りさ「んんっ……痛い……っ」





まだ半分も入る手前だが、指が入った瞬間にりさは体をこわばらせ痛がって、蒼はすぐに指を抜いた。

1ヶ月治療できなかったとはいえ、これまでに頑張っていた分、ちゃんと力を抜いていれば、本当は痛みなく指1本入る状態なのだが、どうしても恐怖心がりさを邪魔をして痛みすら与えてしまう。

またできなかったという罪悪感でりさは涙を流した。





蒼「りさ、泣かないで。また来週頑張ってみよう、ね」


りさ「先生、ごめんなさい……」


蒼「こら、謝らない。蓮にも言われたでしょ?先生こそごめんな。今日も痛い思いさせちゃったな」





蒼の治療を頑張りたいのに頑張れない。

なかなか前に進むことができない治療に、りさは心が折れかけていた。





りさ「先生……?わたしのこと嫌いになってない……?」


蒼「りさ……」





そうか……前にもこうやって聞いてきたのは俺のこと好きだったから不安だったんだな……。





蒼は思わずりさを抱きしめた。





蒼「嫌いになんかなってないよ。いつもりさは頑張っててえらいし、かわいいし、むしろ俺りさのこと好きだよ」


りさ「ぇ……?」





りさは蒼の好きが本気だとは思ってない。

でも、蒼の口から好きという言葉が出てきただけで、ドキドキでうれしかった。





りさ「せ、先生、苦しい……」





頑張るりさにこんな苦しい思いをさせてると思うと、蒼も胸が苦しくて、思わず勢い余って強く抱きしめすぎていた。





蒼「あ、ごめん……」










***



治療後、りさを一旦家まで送って医局に戻った蒼は、ため息をついて自分のデスクに向かった。





豪「蒼、大丈夫か?珍しくため息なんかついて……」


蓮「りさのこと?」





豪と蓮が蒼を気にかける。





蒼「あぁ……どうしてあげたらいいのかなって」


蓮「今どんな感じなの?」


蒼「力は上手に抜けるようになってるんだけど、指入れられるのがどうしても怖いみたいで、入れた瞬間痛がる。本当は痛くなく入ってもおかしくないなんだけど、よっぽどトラウマなんだろうな……」


蓮「あの時最初にみた傷の感じだと、恐らくこわばる体にいきなり指2本突っ込まれてたからね。りさが走って帰ってきたのが信じられないくらい、相当痛かったと思うよ……。しかも汚い場所で汚い手だったせいで、しばらく炎症も起こしてたし」


豪「何度考えても許せない。一発殴らせて欲しい……」


蒼「豪?気持ちは同じだけど、もう退学になったし、やつらに怒りを向けるよりもりさのこと考えよう」





そう言って、蒼はりさにもらったボールペンを手に取って眺めた。





蓮「蒼兄、大丈夫……?相当ダメージ受けてるように見えるけど……?」





蒼はしばらく考えて、自分の気持ちを吐露した。





蒼「正直、りさの治療してると嫌われないか怖くて仕方ないんだ。痛いって泣かれると胸が苦しい」


蓮「それはきっとりさも同じだろうね。今日もできなくて先生に嫌われちゃうって」


蒼「あぁ。今日、言われたよ。『先生、わたしのこと嫌いになってない?』って……。そんなことりさに思わせたくないのにな」


蓮「う~ん。2人とも恋しちゃって……って言ってる場合じゃないよな……。ねぇ蒼兄、今度ちょっとりさと2人で話していい?」


蒼「あぁ、別に構わないけど。って、いちいち俺に許可取らなくても普通に今まで通りしたらいいだろ……変な気遣うなよ」


蓮「一応聞いとこうと思って。了解。じゃあ、今度家帰るときにりさと話すよ」





蓮は珍しく自分の気持ちも素直に漏らす蒼の様子に、これはなんとかしなければと思っていた。










***



——数日後





蓮「りさおかえり~」


りさ「あれ、にぃに今日帰ってきてたの?ただいま~」





学校から帰ってくると、家に蓮がいてりさはうれしそうに笑った。





蓮「学校平気だった?」


りさ「うん。ゆきちゃんと一緒だし、帰りも途中まで一緒に帰ってきたの」


蓮「そうか、ゆきちゃんいたら安心だね。りさ、手洗って着替えておいで。温かいもの作っとくから」


りさ「はーい」










10分後、りさは部屋着に着替えて蓮の待つリビングに降りてきた。





蓮「りさ~、おいで~」





蓮は作っておいたココアをりさに渡して、一緒にソファーへ座った。





りさ「あ、ココアにマシュマロいれてくれたの?ありがとう」





りさは甘い物が大好きで、普段は砂糖を取り過ぎると、特に蒼から……怒られる。





蓮「特別ね。蒼兄には秘密で」


りさ「へへっ。にぃにありがとう」





蓮の今日の目標は、りさの治療に対する恐怖心をなくすこと。

いきなり治療の話はできないので、まずは少し雑談してから本題に入った。





蓮「あ、そうだ。りさ、最近治療はどう?にぃにが診てから3回くらいしたでしょ?」


りさ「うん……」





治療の話をした途端、りさの表情は明らかに暗くなった。





蓮「突然暗い顔してどうしたの。治療つらい?痛いのがやだ?」


りさ「うーん……」





りさは蓮に打ち明けるのを悩んでいるようだった。





蓮「りさ?悩みがあったらにぃにに相談しておいでって前に行ったでしょ?話してごらんよ。蒼兄もさ、この前の治療の後なんて、りさとお揃いのボールペンずーっと眺めて悩んでたんだよ……」


りさ「え……?ちょっと待って、にぃになんでボールペンお揃いのこと知ってるの……?」





蓮はりさが口を開かない時、蒼の話をすれば反応することを知っている。

こういう時のために、ボールペンがお揃いだとは全く知らないフリをしていた。

ボールペンの話にりさが反応したのは作戦通りだ。





蓮「ふふっ。なんでか話したらりさも話す~?」





ずるい……。

いつもそう思うのに蓮には敵わない。

りさは渋々頷いた。





蓮「ほら、前にりさの部屋で蒼兄が好きって打ち明けたとき。あの時、りさの机の上にボールペン飾ってたからさ。蒼兄がお土産でもらったって見せてくれたボールペンと同じだったから、りさお揃いにしたんだ~って思ってた」


りさ「見ないでよ……恥ずかしい……」


蓮「あんな大事に飾られてたら見えるでしょ。蒼兄には秘密にしとくからさ。さぁ、そしたら今度はりさの番だよ」


りさ「わかったよ……」





りさはゆっくりと話始めた。





りさ「治療ができないの。怖くて、全然進まないの……」


蓮「治療はなんで怖いの?どう怖い?」


りさ「痛いのが怖い。指が入ってくるとき、あの時みたいに痛いかもと思っちゃって……もし痛かったら、あのことも思い出して今度はまた先生まで怖くなったらどうしようって、それもまた怖くて治療が受けられない……」


蓮「う~ん、ということは、もし、蒼兄の指が入って痛くなかったら大丈夫?」


りさ「たぶんだけど、大丈夫だと思う。とにかくあのことを思い出したくないだけなの……でも、すごく痛かったから……痛みが思い出すきっかけにならないかなって不安で……」





蓮は微かに震えるりさの手を握った。





蓮「なるほどね……あの時はりさが怖がると思って言わなかったけど、傷も酷かったからすごく痛かったのはにぃにもわかるよ。そりゃ怖くなるよね」





蓮は考えながら言葉を繋いでいった。





蓮「ねぇりさ、ひとつアドバイスしてもいい?」


りさ「なに?」


蓮「もっと蒼兄を信じてごらん」





キョトンとした顔でりさは蓮を見つめた。





蓮「りさは、蒼兄の治療が乱暴だとか、りさのことなにも考えずにやってるって思う?」





りさは首を横に振った。





りさ「そんなことない……先生はいつもすごく優しくて、わたしのこと考えてくれる。どんなにできなくても、頑張ろうって励ましてくれるの……」





りさの目から涙が溢れ出した。





蓮「うん、そうだよね?りさの大好きな蒼兄は、いつでもりさのこと考えてくれてるよね。治療の時も、りさが少しでも痛くないようにしてくれてるよね。そしたらさ、あの時りさに手をかけた、あんな乱暴で最低な奴らと一緒にしないで、蒼兄のこともっと信頼してごらん。蒼兄なら大丈夫だって、身を委ねてごらんよ。そしたら恐怖心もなくなるんじゃないかな」





にぃにの言うとおり……本当にそのとおりだ。

『あんな奴らと一緒にしないで、蒼兄を信じてごらん』

って、わたし、全然先生のこと信頼できてなかった。

治療だってあんなに優しくしてくれてたのに、いつまでもわたしが怖がって、わたしが先生のこと拒否し続けてた。

先生は最高の人なのに、最低な人間と一緒にしちゃって、わたしバカだ。



先生に会いたい……

治療も頑張りたい……

ごめんなさいって謝りたい……



大好きな先生のこと、もっとずっと信じたい……。





蓮のアドバイスを聞いて、りさはなにも言えずただただ泣いていた。





蓮「りさ~、ほらまた泣いたらかわいい顔が台無しでしょ?蒼兄は笑顔のりさが好きなんだよ?もちろん、にぃにも笑ってるりさが好きだな~」


りさ「うん……ごめんなさい。でも、先生のこと信じれてなくてわたし自分が最低で涙が出るの……」


蓮「こら、またそうやって自分を責めないの。にぃにそんなつもりで話したんじゃないよ。これで次の治療は少し前向きに頑張れそうでしょ?そう思えただけでいいんだよ」


りさ「うん。にぃにありがとう……なんでにぃにはそんなにわたしのことわかるの?うぅ、うわ~ん……」


蓮「も~、りさなんで泣くの~(笑)ほら、ぎゅーする?あ、でもぎゅーは蒼兄としたほうがいいか……」


りさ「ううん……にぃにともするぅぅ」





りさは天然の小悪魔だな……。

惚れない男いないだろこりゃ。





蓮「いいよ、ほら、おいで~?」





蓮が手を広げると、りさは蓮の胸に顔を埋めて子どもみたいに泣き続けた。


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