Pastel !

なぎ

文字の大きさ
3 / 5
Pastel (0)

二、荷物

しおりを挟む
 玄関の木製のドアが、コンコン、と二度かわいた音を立てた。古い日本家屋にもかかわらず、この家にはよくある引き戸ではなくて開き戸が据え付けられていた。
 件の老夫婦に洋風趣味があったそうで、玄関も板敷きも板壁も、簡素ながら和装建築のそれではない。
 ドアにも銅でできた小さなノッカーが取り付けられていた。

「ん? 珍しいなあ。約束はないはずなんだけど」

 今は夏休みの期間に入っていて、とくに日曜日はゆっくり家で過ごす習慣にしていたから、ドアの前にいるらしい人物に心当たりはなかった。
 そうこう考えているうちに、二度目のノッカーが、同じように二回、コンコン、と今度は少し大きく部屋に響いた。

「うーん、出るしかないよね」

 水菜はそう呟くとしぶしぶ玄関に向かう。のぞき穴の類いはないので、ドアの把手を握って数センチの隙間からそっと外を見回す。

(……うん、誰も……いないよね)


 ドアをもう三十センチばかりあけて、外を眺め回してもやはり誰もいない。道行く人もいなければネコの子一匹見当たらない。

「ピンポンダッシュとかいうのは昔聞いたことあるけど、ノッカーダッシュっていうのは知らないなあ」

「ま、いいけど」

 水菜はドアが開きすぎないように押しささえていた左手の緊張をほどくと、右手でドアを押し開けた。むせかえるような暑さだが、屋外の風は心地よい。

「日曜だけど、ちょっと外出てみようかな」

 もう少し身体で風を浴びたくて、ドアをおもいっきり開け放つ。玄関前のポーチに出てようと身体が勝手に思ったのか無意識に動いていた。

 そう思った矢先、右足のつま先に何かがぶつかるのを感じた。

「あれ?」

 視線を落としてみると、そこには小さな茶色の小包が置かれていた。ガムテープで一直線にだけ封がされている。

「郵便屋さん……だったのかな? でも印鑑もサインも私してないけど?」

 膝を落として視線の先にある小包をよく見てみる。

「えーっと、送り先、水無水菜様。送り主は……書いてない……?」

 普通の郵便物なら、送り主が書いていないなんてことはあり得ない。

「おまけに受け取りのサインも何もしてないんだから」

 誰かから変な目でみられていないか周囲を確認すると、水菜はもう一度小包をじっとみつめる。

「やっぱり何にも書いてない。でも、これって私宛の荷物だよね。それ以外なさそうだし。だけど中身が爆弾とかカビたパンとかいうことはないのかな」

 前者の可能性を想像してちょっと怖くなった水菜は、ブンブンとまた頭を振って、嫌な想像をかき消す。周囲をもう一度見回してから、

「よし」

 そう自分を説得し終えると、心を決めて茶色い小包をさっと懐に抱え込む。

 ドアを内側に閉めると、作業台に小包を置く。


【受け取りました。I have received it】


 と小さな紙切れに鉛筆書きして、ドアの外側にテープで留めておいた。


「誰から何を受け取ったか分かんないけど、一応ね。外国からかもしれないし、一応」

 水菜らしい行動だった。

「まあ、何を受け取ったのかは開けてみれば分かるんだし」


 作業台に置かれた小さな小包は、ちょこんと座って、水菜に開封されるのをただじっと待っているようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...