黒翼の巨人

興味sinsin

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第3羽 許されざる過去

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誰が読んでくれた絵本だったろうか、真っ暗な中を浮遊しているような感覚で悠は考えた。

そうだ、お母さんだ。
最後のところでお兄ちゃんと泣いたっけ。

自分より弱い小人の住む場所を奪った巨人は悪いが、力を手に入れ戦うことを止めることができなかった小人も悪いんだよ、とお母さんが教えてくれた。

そして戦いを止めるために戦わなかった巨人はとても勇気があったんだね、とも言った。

それから兄は巨人のマネをするようになった。

テレビのバトルがあるアニメを見ながら「戦っちゃだめだ。戦ったら、また戦いがおこる」とつぶやいたり、小学校で同級生同士のケンカを止めに入ったり。

そんな兄を私は誇りに思っていた。
だが、あの出来事以来、兄は陰惨な攻撃に耐える巨人となってしまった。

日帰りの結婚記念日旅行に出かけた両親はトラック事故に巻き込まれ、亡くなった。

一人っ子だった母方に親戚は無く、父方の親戚達が負担を分担するため私たちを別々に預けられるところを「それだけは許してください」と兄は泣きながら頭を下げた。

結局、兄一人預かるところを私まで背負い込んでしまった父の兄である賢三叔父さんだったが、優しく迎えてくれた。
だが、叔父の妻、兄と私の新しい母である尚美は違った。

兄より二歳年上の息子、背が大きく高校のサッカー部では司令塔という新しい母自慢の息子、その召し使い役を私たちに任せたのだ。

この遼という名の息子、外面の良い人間で、スマホで友達と話しているときと私たちと話している時の口調や態度はまるで違っていた。

尚美と遼は掃除、洗濯あらゆる家事、雑用を命令してきた。

それでも兄は私を連れ込んだ負い目の為か、文句一つ言わず黙々とこなし、私が風邪をこじらしたときはその分までやってくれたのだ。

奴隷制度による苦痛は“こういうものだ、なぜなら私たちは養われているのだから”という一種の思考停止状態に追い込む。

こうして二年が過ぎ、私が兄と同じ市立高校へ入学して間もなく事件が起こった。

国立大学にすべり、三流大学に入ったことがよほど屈辱だったのか、連日の夜遊びなど荒れた生活が続いていた遼は度々兄に暴力を振るっていた。

ところがある日、見るに見かねて止めに入った私を蹴りつけたのだ。

だがその次の瞬間、耐える巨人だった兄が遼に殴りかかった。

反抗したことのない奴隷の行動に遼は完全に動揺し、猛然と殴りかかる兄にただなす術も無く殴られた。

いま思い出すと、私はあのとき笑っていたかもしれない。

だが、戦ったら、また戦いがおこる、という巨人の言葉通り、私たちは身をもってそれを知ることになる。

まず尚美が賢三叔父さんに兄の暴力を訴えた。

叔父の問いに兄は無言を貫いたが、その後叔父の兄に対する態度は冷たくなってしまった。

また、学校から帰ると家中に鍵がかけられ、しかたなく兄と二十四時間営業のハンバーガーショップで夜を過ごすこともあった。

これは叔父が出張で泊まりに行ったときなどは必ず行われた。

もともと寡黙だった兄は更に押し黙るようになってしまった。

でも、私がそのことを心配すると、にこりと笑い、低い声で学校の出来事を面白おかしく話してくれるのが救いだった。

そして私たちの運命を決定付ける日がやってきた。


つづく
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