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番外編その1 木澤彰吾、禁煙を決意する
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「結婚してくれ」
先週、会社帰りに食事を共にしたとき、プロポーズした。
「もう1分も1秒も花梨と離れていたくない」
花梨は頬を真っ赤に染めて、それでもしっかり頷いた。
「うれしいです、彰吾さん……。わたしも……ずっと一緒にいたい」
はにかんだその顔を見たとたん、ぐわっと身体の内側から何かが突き上げてきた。
後悔した。
家に帰ってからにすればよかった。
そうすれば、すぐにでも抱きしめられたのに。
だが、彼女は俺のそんな、でれでれ気分に冷水を浴びせた。
とてつもない難題を突き付けて……
「でも彰吾さん、ひとつだけお願いがあります」
「うん? 新婚旅行に行きたい場所でもあるのか? どこでもいいぞ。南極だろうが、ガラパゴスだろうが、月だろうが、どこだって連れてってやるよ」
「そうじゃなくて……あの、怒られるかもしれないけど」
「なんだ?」
花梨は黒目がちな真ん丸な瞳をいっそう丸くして俺の目を見た。
そして……言った。
「禁煙してほしいんです」
はっ?
「禁煙? おまえ、本気で言ってるのか」
「もちろんです。ずっと言おうと思ってたんです。とにかく吸い過ぎです、彰吾さんは。このままじゃ、肺ガンへの道、まっしぐらです」
「いや、しかし……それは」
俺は抵抗した。
いくら、花梨の頼みとはいえ、こればっかりは。
なにせ大きな声じゃ言えないが、学生服の来ている時分からの長い付き合いだ。
とてもじゃないが煙草が吸えない生活なんて考えられない。
「それは……無理だな。肺より先に心が病む。無理だ」
すると、花梨は悲しげな顔で最後 通牒を突きつけた。
「わたしと煙草とどっちが大事なんですか?」と。
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