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第8章 千秋楽の夜

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 わたしは彼の肩に頭を預けた。
 左手で髪を弄びながら、彼は話を続けた。

「でもさ、舞台に上がる直前、俺はいつも郁美の笑顔を思い浮かべてる。そうすると、すっと気持ちが落ち着くんだ。郁美に最高の演技を観てもらいたい、そう思うと勇気が湧いてくる」

「宗介……」
 その言葉は、どんな愛の告白より、わたしの心を震わせた。

 そして、少し心配にもなった。

 わたしはちゃんと、これだけの想いに応えられているんだろうか。

 この愛と等価のものを、彼に与えられているんだろうか。

 でも彼はそんなわたしの心配を一蹴する、心からの笑みを浮かべて愛の言葉を重ねた。

「郁美に会えてよかった。心からそう思う」

 この、細胞の隅々にまで満ちている好きの感情を、どうやって彼に伝えればいいんだろう。

 とても言葉にはできず、わたしは彼の頬に口づけした。

「宗介、大好き」

 それから彼にまたがって、唇を深く重ねた。

「そういう積極的なのも、いいな」

  彼は立ち上がり、わたしを抱き上げ、寝室に向かった。

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