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第6章 甘い計略

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「ああ。そうだよね、ごめん。でも……」

 彼は手を伸ばして、わたしの手を取り、まるで壊れ物を扱うように、そっと両手で包み込んだ。

「外見とか家柄とかそういうものじゃない、ぼくの内面をよく知ってもらってから……」

 わたしを見つめる彼の瞳が輝きを増す。
「その上でぼくを選んで欲しかったんだよ。エリカ、きみとちゃんと恋がしたかったんだ」

 一般家庭の子と大富豪の御曹司。
 子供のころ、両方の立場を経験した彼は、人というものが信用できなくなったんだ、と言った。

「大金持ちの息子になって、痩せて可愛らしくなったら、いままでぼくをばかにしていた人たちが、手のひらを反すようにちやほやしだしたんだよ。ぼくの中身は何ひとつ変わってなかったのにね」

 さらに、〝麗しの美少年〟から〝水も滴る美青年〟に成長した彼の周りには、花に群がる蝶のごとく女性たちが次から次へと寄ってくるようになった。

「でも、彼女たちが欲しがっていたのは、芹澤家の妻の座じゃないかと思ってね。自分のことを本当に愛してくれているのか、いつも不信感が拭い去れずにいたんだ」

 親指で、わたしの手の甲を優しく撫でながら、話を続けた。
「だから、今回の政略結婚の話が出たとき、何が何でもぼくの全てを好きになってくれる女性と結婚したいと思ったんだ」

 そして……
 そのころちょうど、彼はわたしがチョイ役で出ていた映画を観たそうだ。
 彼は一目で、それが初恋相手の〝イチゴちゃん〟だと見抜いた。

「それできみのことを思い出して。そしてピンときたんだ。イチゴちゃんなら、きっと、ぼくの外見だけじゃなくて、内面もちゃんと見てくれるんじゃないかなって」

 だから、と芹澤さんは少し前屈みになった。

「最初から幼なじみの〝中田宗太〟だよって名乗ってしまったら、エリカがぼくのことを本当に好きなのか、それとも財産目当てなのか判断できないと思った。だから隠してたんだ」
 
 それほど、人が信用できないということか……

 子供のころの宗太さんは、年下のわたしでも驚くほど、人を疑うことを知らない純情な子だったのに。

 それにこんな計略を立てたところで、わたしが彼を好きにならないことだってありえた。  
 無駄になるとは思わなかったんだろうか。
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