4 / 59
第一章 樹下の接吻
四
しおりを挟む
「私の動きに合わせて、ワン、トゥー、スリー、そうお上手ですよ」
まるで音楽が流れているかのように、天音は正確にリズムを刻んだ。
二人で息を合わせてステップを踏み、天音のたくみなリードに身をまかせているうちに、この恋はやはり運命なのだと、桜子は強く思った。
桜子が見つめると、天音はその視線を受けとめ、柔らかく微笑む。
彼もきっと、同じことを考えているに違いない。
わたくしにはわかる。
二人の心は確かに通い合っている。
もう離れたくない。
このまま、時が止まってしまえばいい。
そう思っていたとき、天音が突然、踊るのをやめて立ち止まった。
「どうなさったの?」
彼は答えず、無言で桜子の手を強く引き、大樹にその背を添わせた。
そして彼女の姿を隠すように目の前に立ち、両脇に手をついた。
顰めた声で、天音が言う。
「あちらにちらちらと動く明かりが見えたので。守衛の見回りかもしれない」
「まあ、どうしましょう」
「大丈夫、少しの間、じっとしていてください」
踊っていたときよりも、さらに二人の距離は近くなった。
恥ずかしくて、とても顔は上げられないけれど、彼の息遣いを間近で感じる。
桜子の心臓が激しく打つ。
天音に聞こえてしまうのではないか。
そう心配になるほど。
「ああ、こっちまでは来ないようだ。もう平気ですよ」
桜子は離れようとする天音の腕を掴んだ。
「天音……わたくし」
もうこれ以上、気持ちを隠していることが耐えきれなくなった。
それに、この機会を逃したら、いつまた二人きりになれるかわからない。
「天音、貴方をお慕いしているのよ。もうずっと前、初めて横浜でお会いした日から」
「桜子様……」
天音は困惑したのか、何も答えずただ桜子を見つめていた。
わたくしの独りよがりだったのかしら。
天音もわたくしを想っていてくださるとばかり、考えていたけれど。
桜子は前言を撤回しようと、あわてて言い添えた。
「そんなことを言われても困ってしまうわね。どうか忘れてちょうだい」
まるで音楽が流れているかのように、天音は正確にリズムを刻んだ。
二人で息を合わせてステップを踏み、天音のたくみなリードに身をまかせているうちに、この恋はやはり運命なのだと、桜子は強く思った。
桜子が見つめると、天音はその視線を受けとめ、柔らかく微笑む。
彼もきっと、同じことを考えているに違いない。
わたくしにはわかる。
二人の心は確かに通い合っている。
もう離れたくない。
このまま、時が止まってしまえばいい。
そう思っていたとき、天音が突然、踊るのをやめて立ち止まった。
「どうなさったの?」
彼は答えず、無言で桜子の手を強く引き、大樹にその背を添わせた。
そして彼女の姿を隠すように目の前に立ち、両脇に手をついた。
顰めた声で、天音が言う。
「あちらにちらちらと動く明かりが見えたので。守衛の見回りかもしれない」
「まあ、どうしましょう」
「大丈夫、少しの間、じっとしていてください」
踊っていたときよりも、さらに二人の距離は近くなった。
恥ずかしくて、とても顔は上げられないけれど、彼の息遣いを間近で感じる。
桜子の心臓が激しく打つ。
天音に聞こえてしまうのではないか。
そう心配になるほど。
「ああ、こっちまでは来ないようだ。もう平気ですよ」
桜子は離れようとする天音の腕を掴んだ。
「天音……わたくし」
もうこれ以上、気持ちを隠していることが耐えきれなくなった。
それに、この機会を逃したら、いつまた二人きりになれるかわからない。
「天音、貴方をお慕いしているのよ。もうずっと前、初めて横浜でお会いした日から」
「桜子様……」
天音は困惑したのか、何も答えずただ桜子を見つめていた。
わたくしの独りよがりだったのかしら。
天音もわたくしを想っていてくださるとばかり、考えていたけれど。
桜子は前言を撤回しようと、あわてて言い添えた。
「そんなことを言われても困ってしまうわね。どうか忘れてちょうだい」
0
あなたにおすすめの小説
十年前の事件で成長が止まった私、年上になった教え子の〝氷の王〟は、私を溺愛しつつ兄たちを断罪するようです
よっしぃ
恋愛
若くして師範資格を得た天才香薬師のルシエル(20)。
彼女は王家の後継者争いの陰謀に巻き込まれ、少年リアンを救う代償に、自らは十年間もの昏睡状態に陥ってしまう。
ようやく目覚めた彼女を待っていたのは、かつて教え子だったはずのリアン。
だが彼は、ルシエルより年上の、〝氷の王〟と恐れられる冷徹な国王(22)へと変貌していた。
「もう二度と、あなたを失わない」
リアンは、世間では「死んだことになっている」ルシエルを王宮の奥深くに隠し、鳥籠の鳥のように甘く、執着的に囲い込み始める。
彼が再現した思い出の店、注がれる異常なまでの愛情に戸惑うルシエル。
失われた記憶と、再現不能の奇跡の香り《星紡ぎの香》の謎。
そして、〝氷の王〟による、彼女を陥れた者たちへの冷酷な粛清が、今、始まろうとしていた。
※一途な若き王様からの執着&溺愛です。
※じれったい関係ですが、ハッピーエンド確約。
※ざまぁ展開で、敵はきっちり断罪します。
極上の彼女と最愛の彼 Vol.3
葉月 まい
恋愛
『極上の彼女と最愛の彼』第3弾
メンバーが結婚ラッシュの中、未だ独り身の吾郎
果たして彼にも幸せの女神は微笑むのか?
そして瞳子や大河、メンバー達のその後は?
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
声(ボイス)で、君を溺れさせてもいいですか
月下花音
恋愛
不眠症の女子大生・リナの唯一の救いは、正体不明のASMR配信者「Nocturne(ノクターン)」の甘い声。
現実の隣の席には、無口で根暗な「陰キャ男子」律がいるだけ。
……だと思っていたのに。
ある日、律が落としたペンを拾った時、彼が漏らした「……あ」という吐息が、昨夜の配信の吐息と完全に一致して!?
「……バレてないと思った? リナ」
現実では塩対応、イヤホン越しでは砂糖対応。
二つの顔を持つ彼に、耳の奥から溺れさせられる、極上の聴覚ラブコメディ!
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる