使い捨て勇者にされた俺が元魔王と一緒に、利用してきた国を飛び出して自由な冒険者を始めた話

安佐ゆう

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第六章 過去に触れる

第76話 遺跡攻略イージーモード

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 最後に俺が魔法陣に乗って、大広間へと出た。先に転移した皆は、思い思いに広間の中を歩き回っている。
 転移したとたん、前回と同じように魔力を吸われる感じはあるが、その感覚のすぐ後に、今度は腕輪からそっと魔力が補充されはじめた。

「一人で離れても動き回れるのは、ありがたい」
「ああ、カリンは前回大変だったものな」
「言うな!……あの時は世話になったけれど……」

 そっぽを向きながら礼を言うカリンと、その背中をバシバシたたきながら笑うアルは、そんなことを言いながら一緒に仲良く並んで歩いている。
 西の鳶はきょろきょろしながら歩き回る。それも四人全員ばらばらだ。
 残りは俺が来るのを魔法陣の側で待っていた。
 ヨルマが今日何度目かの呆然とした表情で立ちすくんでいる。

「ここは一体、何なんだ……」
「この場所についての話は、そこの柱に書いてあるのじゃが……読めぬか。ふむ」

 広間の天井を支えている四本の大きな柱には、古代文字がびっしりと掘られている。前回来たときにも見たが、俺達には到底読むこともできない文字だった。

「簡単に説明しようかの。
 ここは賢き獣の城。かつて……千年の昔に現れた巨大な魔獣を、勇者たちが地下に封じ込めた。封じ込めたというよりも、地下に逃げ込まれたと言うべきか。滅することがかなわなかったその魔獣じゃが、その逃げ込んだ地を丸ごと封印することはできた。そしてその封印を見張り続けるそのために作られたのが、この城じゃ。勇者の一人であるイリーナと、そのパートナーだった賢き獣がこの城に住んでおった。
 二人がまだ若い頃は、普通にこの城で生活をしていたようじゃな。しかし、いつしか彼らは先のことを思い悩むようになった。イリーナの寿命はいつかは尽きる。そしてその死後に、この場所の封印は解かれてしまうだろう」

 次の柱に歩み寄る。

「死期を少しでも伸ばすため、イリーナはこの城の中で眠りにつくことにした。城には常に賢き獣から魔力が送られ、イリーナはその魔力だけで眠りながら、今も生きながらえている。
 賢き獣は人に比べてずいぶんと長生きな種族ではある。けれどももちろん永遠に生きるわけではない。やがて月日が流れ、獣が先に死んでしまった。
 しかしこの城に魔力を流すことは、今も賢き獣の子孫に伝えられておる。ルーヌ山の私の一族の一部がその責務を負っているようだ」

 さらに次の柱へ。

「イリーナは封印を維持すると同時に、新しい勇者を探すことにした。自分の死後、解放されるであろう巨大魔獣を倒すことのできる者を。
 協力者達によって住居であった城は改築され、試練を課す遺跡となった。魔獣を倒すのに必要な武器を餌にしてな。強力な武器の噂にひかれ、冒険者がひっきりなしにここを訪れていた時代もあるようじゃ。
 しかし時は無常。人の命は短く、この遺跡の持つ意味は伝承の奥底に消えてしまった。イリーナの想いは忘れ去られ、やがてこの場所も忘れられた。そして結局試練をやり遂げ新しい勇者になった者は、これまで全く居なかったようじゃの」

 そう言うとリリアナは最後の柱に歩み寄る。
 いつしかその周りに皆が集まって、黙って聞いていた。

「この城に書かれた文字は、今では読める者も少ない。そのために途中所々で示唆されている罠の外し方も、気が付かぬ者が多かった。そのことはこの遺跡の試練を一層難しくしてしまっている。
 巨大な魔獣に対抗するには多くの人々が力を合わせることが必要じゃ。できることなら古の勇者たちのように、人々が種族の隔たりなく手を取り合ってこの城を上まで登って行ってほしい。試練にはそんな願いも込められておる。そしてその案内を務めるのが、この言葉を今も受け継ぐ私の役目であると。
 賢き獣の信を得る者こそが、新しき勇者になるだろう。そして、遺跡の試練を乗り越えた後には、各々に渡すべき報酬がある。そうして新たに手にした力をもって、封印が解かれたときには巨大魔獣を討ち果たしてほしい。ここにはそう書かれてある。この柱に文字が刻まれたのは、今からおよそ五百年以上前のようじゃ。刻んだのは、管理をしておった私の一族であろうな」

 リリアナが語り終わると、幾人かがふーっと大きく息を吐いた。

「と言うことは、石のドラゴンを倒すと俺たちが勇者になるのか?」
「勇者になるというよりも、勇者の責を負う、と言えばよいかのう」
「それって、ちょっと危険な報酬じゃない?」

 ゾラが眉間にしわを寄せた。

「うむ。そうじゃな。ただ、巨大な魔物は災厄ゆえ、力なきものは命を失うであろう。ここで得られた力は結局のところ、自分の命を守るために使われる。もっとも魔物と対峙せずに、その力を使ってとことん逃げ切るという手もあるかもしれぬな。魔道具を渡した後のことについては、イリーナは何も強制できぬ。そうも書かれておるよ」
「そう……か」

 それ以上は誰も何も言わない。
 そして俺たちは階段を上った。

 ◆◆◆

 二階は前回来た時に見た通り居住空間で、寝室や書庫、武器庫もあるが、ここでの戦いに必要なものは置かれていない。
 そのまま三階に上り、ピカピカに磨かれた木の扉の前に立った。

「この部屋は確か、モンスターハウスだったな」
「モンスターハウスだと!?」
「うむ。この扉を開くもの、数多《あまた》の魔物と対峙すべし。弱き者も集まれば脅威となりぬべきことなり。急ぎ通り抜けんとするならば、左右の扉に魔力を流すべし」
「開ける前に扉に魔力を流せばいいのか?」
「そのようじゃな。ただ、かなり多くの魔力が必要なようじゃ。私か森の民でなければ無理かもしれぬ。もしくは皆で一斉に流すか……」
「では右の扉は私が流します」

 クリスタが前に出た。

「じゃあ左は俺だな」

 アルが左の扉に手を添える。クリスタも同じように右の扉に手を添え、魔力を流した。しばらくすると両方の扉に青白い魔法陣が浮かび上がる。

「ほー、これは、これは」

 思わず感嘆の声を上げたのは、ヒューだ。
 そのまま扉を押し開いても、魔法陣は消えずに薄く輝いている。
 食いいるように魔法陣を見つめるヒューを、エリアスが引っ張って室内に入った。

「さっさと行こうぜ。いつまで効果が続くか分からん」
「そうね」

 中は人が百人は余裕で入れるような広い部屋だ。前回来たときはあちらこちらで転移の魔法陣が起動して魔物があふれ出したが、今回は無事解除出来ていて、奥に進んでも床に変化はなかった。
 まっすぐに通り抜けた先は通路になっていて、ここも罠がいくつも設置されているんだが、やはり同じように壁に古代語の注意書きが見つかった。

「ここの罠を止めるのは、床の真ん中と左右の壁の三か所に魔力を流せばいいようじゃ。人族でも足りるとあるが」
「あ、じゃあ僕が床を」

 シモンが一歩前に出ると、続けてヨルマとレーヴィが左右の壁を受け持つ。

「ヨルマさん、巻き込んですまないな。石のドラゴンと戦う時は安全なところで待っていてくれてもいいぞ」
「ここまで来て今更だな。興味深い歴史の話も聞かせてもらったことだし、私もできることはしよう」

 罠が解除されたあとは、普通の通路となんら変わらない。俺とアルとカリンの三人は前に来た時の大変さを知っているが、他のメンバーは拍子抜けしている。
 いっそ罠解除せずに、前回の大変さを教えてやろうか?
 いやいや、どんな魔物が出てくるか分からない転移陣は、起動したら本当に怖いからな。
 そんなことを思いながら、ただ長いだけの通路を上へ上へと上っていった。
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