38 / 113
旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
突然の暗闇①
しおりを挟むナハトと拗ねたフィルに、マッサージと称した酷い焦らしプレイをされた後、ヴィクトリアはその火照った身体のまま、いつも通り学園に来ていた。
(うう……身体の奥が熱い……)
平静を装い、何とか下半身に力を入れて、背筋を伸ばして教室へ向かうけれど、一度も達する事が出来なかったヴィクトリアは未だ悶々としていた。
この熱を発散させてしまいたいけれど、学園で、しかも自分の手で慰めるというのは気が引ける。
(何だか視線を感じるような……?)
そうしてヴィクトリアは、今朝はいつも以上に周囲から視線を感じていた。通りすがりの他の学生達が、チラチラとヴィクトリアを盗み見ていたからだ。
しかし、ヴィクトリアは小さく頭を振った。きっと気のせいだろうと思ったから。今の自分は悪女ではないのだから、きっと考え過ぎだ。自意識過剰だと、そう思い直した。
実際には、本当に視線を浴びているのだが、ヴィクトリアは気付かずに、そのまま次の授業の魔法実技が行われる訓練場へ向かう為、廊下を進んだのだった。
……………………
…………
「……おい、今日のアルディエンヌ嬢は色気が一段と凄くないか?」
「ああ」
「エリック殿下が溺愛するのも分かる気がするな。昔はあんなにアルディエンヌ嬢を毛嫌いしていたけど」
「まぁ昔から美人だったし、あの性格だって病弱だった身体を隠す為の虚栄だったんだろう?今じゃ、すっかり変わって、従者にさえ優しくしてるし」
「あのサラサラな髪に触れてみたい……」
男子生徒達の熱い視線をめちゃくちゃ集めまくってしまっていることを、ヴィクトリアは全く知らない。
そして、そんな男子生徒達を見かける度に――――
「……ねぇ。今、僕のリアの髪に触れてみたいって言ったのは誰かな?」
にっこりと笑顔を浮かべながら牽制する、魔王のようなエリック達が降臨するのであった。
「ひっ?!」
「え、エリック殿下?!」
「僕達は何もっ」
「ご、御前を失礼致します!!」
バタバタと慌てて走り去っていく男子生徒達を見て、エリックは苛立ちながら溜め息を吐いた。
「全く、身の程知らずも甚だしい。リアに触れたいだなんて……」
そう零すと、エリックと共に居たジルベールの額にも青筋が浮かんでおり、眉根を寄せながら眼鏡を指で押し上げる。
「全くです」
次いでレオンハルトも同意する。
「いくら彼女が魅力的だとしても、口に出すのはいただけないな。想いは胸に閉まっておくべきだ」
「…………」
エリックはそんな二人の友人を見ながら、お前達が一番厄介なんだが?と思わず片手で自身の頭を押さえた。
ちなみに何故レオンハルトがここに居るのかと言うと、次の魔法実技の授業が他クラスとの合同授業だからだ。
アベルは学年が違うので、当然この場にはいない。
魔法実技の訓練場へ向かいながら、エリックは友人二人をチラリと盗み見て、暫し逡巡する。
(最近では、ジルがリアにちょっかいをかけている様子は無い。レオンに至っては、あの日の記憶を消されている筈だ。しかし……)
二人のリアを見つめる熱の籠もった瞳を見れば、未だ想いを寄せているのだと、自分にはすぐに分かる。
今の彼女の身に起きている事情を知っているからこそ、彼等は危険な存在だ。何故なら、彼等は喜んでリアに精気を差し出すだろうから。
それに、ひとつ気掛かりな事があった。
(レオンは本当に、あの日の記憶を消されているのだろうか?)
――――どう見ても、ヴィクトリアを見つめる彼の瞳は熱を帯びている。
しかし、二人はエリックと友人であり、ジルベールに至っては側近でもある。
どれだけヴィクトリアに恋い焦がれようとも、今のところ、二人は大人しく見つめるだけで手を出そうとはしていない。
ならば、想うくらいは目を瞑るべきだろう。
エリックはそう思いながら、訓練場の扉を開いたのだった。
……………………
…………
(これは一体どういう事……?)
魔法実技の授業が始まり、特別講師であるルカから出された課題に取り組んでいる最中、突然訓練場内が闇に包まれた。
一体何が起こったのだろうか?
ヴィクトリアがその場から動かずに、じっとしている中、近くからエリックの声が耳に届いた。
「リア、居るかい?」
「エリック様」
「ああ、良かった。取り乱していないところは流石だね」
「いえ。それより、一体何が起きたのでしょうか……?」
「分からない。だが、今は迂闊に動かない方がいい。妙な気配を感じる」
「妙な気配?」
ヴィクトリアが首を傾げていると、エリックの近くに居たらしいジルベールとレオンハルトの声も聞こえてきたので、そちらの方へ一歩近付く。
するとヴィクトリアは、ぽすっと誰かにぶつかってしまった。
「わぷっ」
「……っと。この声はヴィクトリア嬢か?」
頭の上の方からジルベールの声が聞こえて、ドキリと心臓が跳ねる。
「す、すみませんっ」
「いや、大丈夫だ。……前が見えないから仕方がない」
気のせいか、ジルベールの声が少し和らいだように思った瞬間、ギュッと身体を抱き締められる。細身だが、しっかりした男性らしい身体つきで、サラリとした髪が額を頬を擽った。
(ちょっ……いくら見えないからって、すぐ傍にエリック様も居るのに……?!)
ヴィクトリアがジルベールの胸を押して、慌てて離れようとするけれど、ガッチリとホールドされてしまい、ジルベールの腕の中から逃れる事が出来ない。
それでも諦めずに抵抗していると、耳元に腰が砕けてしまいそうな甘い低音ボイスで囁かれてしまった。
「他意は無い。誰の姿も見えない状況では、離れている方が危ないかもしれないから。……今だけ、このままで。」
「……やっ……」
止めて下さい!
何で無駄に甘い声で囁くの?!
(……でも、ジルベール様の言っている事は一理あるかも。本当に右も左も見えない真っ暗闇だもの)
納得しつつ抵抗は諦めたけれど、ジルベールのヴィクトリアの腰を抱く腕に力が籠もっていて、こんな時なのに頬に熱が集まるのを感じた。
「リア?……ジルベールがリアにぶつかったのかい?」
訝しむようなエリックの声。
「い、いえ、違うんです。私の方がぶつかってしまって……」
まるで不貞を働いてしまったかのような気持ちになって、思わずギクリと肩を揺らすヴィクトリアだったが、エリックが再び質問してくる前に、レオンハルトが声を掛けてきた。
「おい、皆無事か?エリックはそこに居るのか?」
「レオン?」
「ああ。その声はやっぱりエリックか」
「そうだよ。……あれ?」
そうして、エリックはある違和感に気付いた。
自分達以外の生徒達の声が全く聞こえてこないのだ。
まるで自分達だけしか、この空間に存在しないかのように。
「殿下。これは恐らく……」
「分かってる、ジルベール。今はとにかく落ち着いて、早いとこ脱出する方法を見つけよう。嫌な予感がする」
――――残念ながら、エリックの嫌な予感は的中してしまう。
謎の美女、“ディペ”によって。
* * *
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。