悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

はる乃

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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)

突然の暗闇①

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ナハトと拗ねたフィルに、マッサージと称した酷い焦らしプレイをされた後、ヴィクトリアはその火照った身体のまま、いつも通り学園に来ていた。

(うう……身体の奥が熱い……)

平静を装い、何とか下半身に力を入れて、背筋を伸ばして教室へ向かうけれど、一度も達する事が出来なかったヴィクトリアは未だ悶々としていた。
この熱を発散させてしまいたいけれど、学園で、しかも自分の手で慰めるというのは気が引ける。

(何だか視線を感じるような……?)

そうしてヴィクトリアは、今朝はいつも以上に周囲から視線を感じていた。通りすがりの他の学生達が、チラチラとヴィクトリアを盗み見ていたからだ。
しかし、ヴィクトリアは小さく頭を振った。きっと気のせいだろうと思ったから。今の自分は悪女ではないのだから、きっと考え過ぎだ。自意識過剰だと、そう思い直した。

実際には、本当に視線を浴びているのだが、ヴィクトリアは気付かずに、そのまま次の授業の魔法実技が行われる訓練場へ向かう為、廊下を進んだのだった。

……………………
…………

「……おい、今日のアルディエンヌ嬢は色気が一段と凄くないか?」
「ああ」
「エリック殿下が溺愛するのも分かる気がするな。昔はあんなにアルディエンヌ嬢を毛嫌いしていたけど」
「まぁ昔から美人だったし、あの性格だって病弱だった身体を隠す為の虚栄だったんだろう?今じゃ、すっかり変わって、従者にさえ優しくしてるし」
「あのサラサラな髪に触れてみたい……」


男子生徒達の熱い視線をめちゃくちゃ集めまくってしまっていることを、ヴィクトリアは全く知らない。

そして、そんな男子生徒達を見かける度に――――


「……ねぇ。今、僕のリア・・・・の髪に触れてみたいって言ったのは誰かな?」


にっこりと笑顔を浮かべながら牽制する、魔王のようなエリック達が降臨するのであった。

「ひっ?!」
「え、エリック殿下?!」
「僕達は何もっ」
「ご、御前を失礼致します!!」

バタバタと慌てて走り去っていく男子生徒達を見て、エリックは苛立ちながら溜め息を吐いた。

「全く、身の程知らずも甚だしい。リアに触れたいだなんて……」

そう零すと、エリックと共に居たジルベールの額にも青筋が浮かんでおり、眉根を寄せながら眼鏡を指で押し上げる。

「全くです」

次いでレオンハルトも同意する。

「いくら彼女が魅力的だとしても、口に出すのはいただけないな。想いは胸に閉まっておくべきだ」
「…………」

エリックはそんな二人の友人を見ながら、お前達が一番厄介なんだが?と思わず片手で自身の頭を押さえた。
ちなみに何故レオンハルトがここに居るのかと言うと、次の魔法実技の授業が他クラスとの合同授業だからだ。
アベルは学年が違うので、当然この場にはいない。

魔法実技の訓練場へ向かいながら、エリックは友人二人をチラリと盗み見て、暫し逡巡する。

(最近では、ジルがリアにちょっかいをかけている様子は無い。レオンに至っては、あの日の記憶を消されている筈だ。しかし……)

二人のリアを見つめる熱の籠もった瞳を見れば、未だ想いを寄せているのだと、自分にはすぐに分かる。
今の彼女の身に起きている事情を知っているからこそ、彼等は危険な存在だ。何故なら、彼等は喜んでリアに精気を差し出すだろうから。

それに、ひとつ気掛かりな事があった。

(レオンは本当に、あの日の記憶を消されているのだろうか?)

――――どう見ても、ヴィクトリアを見つめる彼の瞳は熱を帯びている。
しかし、二人はエリックと友人であり、ジルベールに至っては側近でもある。
どれだけヴィクトリアに恋い焦がれようとも、今のところ、二人は大人しく見つめるだけで手を出そうとはしていない。

ならば、想うくらいは目を瞑るべきだろう。

エリックはそう思いながら、訓練場の扉を開いたのだった。


……………………
…………


(これは一体どういう事……?)

魔法実技の授業が始まり、特別講師であるルカから出された課題に取り組んでいる最中、突然訓練場内が闇に包まれた。

一体何が起こったのだろうか?

ヴィクトリアがその場から動かずに、じっとしている中、近くからエリックの声が耳に届いた。

「リア、居るかい?」
「エリック様」
「ああ、良かった。取り乱していないところは流石だね」
「いえ。それより、一体何が起きたのでしょうか……?」
「分からない。だが、今は迂闊に動かない方がいい。妙な気配を感じる」
「妙な気配?」

ヴィクトリアが首を傾げていると、エリックの近くに居たらしいジルベールとレオンハルトの声も聞こえてきたので、そちらの方へ一歩近付く。
するとヴィクトリアは、ぽすっと誰かにぶつかってしまった。

「わぷっ」
「……っと。この声はヴィクトリア嬢か?」

頭の上の方からジルベールの声が聞こえて、ドキリと心臓が跳ねる。

「す、すみませんっ」
「いや、大丈夫だ。……前が見えないから仕方がない」

気のせいか、ジルベールの声が少し和らいだように思った瞬間、ギュッと身体を抱き締められる。細身だが、しっかりした男性らしい身体つきで、サラリとした髪が額を頬を擽った。

(ちょっ……いくら見えないからって、すぐ傍にエリック様も居るのに……?!)

ヴィクトリアがジルベールの胸を押して、慌てて離れようとするけれど、ガッチリとホールドされてしまい、ジルベールの腕の中から逃れる事が出来ない。
それでも諦めずに抵抗していると、耳元に腰が砕けてしまいそうな甘い低音ボイスで囁かれてしまった。

「他意は無い。誰の姿も見えない状況では、離れている方が危ないかもしれないから。……今だけ、このままで。」
「……やっ……」

止めて下さい!
何で無駄に甘い声で囁くの?!

(……でも、ジルベール様の言っている事は一理あるかも。本当に右も左も見えない真っ暗闇だもの)

納得しつつ抵抗は諦めたけれど、ジルベールのヴィクトリアの腰を抱く腕に力が籠もっていて、こんな時なのに頬に熱が集まるのを感じた。

「リア?……ジルベールがリアにぶつかったのかい?」

訝しむようなエリックの声。

「い、いえ、違うんです。私の方がぶつかってしまって……」

まるで不貞を働いてしまったかのような気持ちになって、思わずギクリと肩を揺らすヴィクトリアだったが、エリックが再び質問してくる前に、レオンハルトが声を掛けてきた。

「おい、皆無事か?エリックはそこに居るのか?」
「レオン?」
「ああ。その声はやっぱりエリックか」
「そうだよ。……あれ?」

そうして、エリックはある違和感に気付いた。

自分達以外の生徒達の声が全く聞こえてこないのだ。
まるで自分達だけしか、この空間に存在しないかのように。

「殿下。これは恐らく……」
「分かってる、ジルベール。今はとにかく落ち着いて、早いとこ脱出する方法を見つけよう。嫌な予感がする」



――――残念ながら、エリックの嫌な予感は的中してしまう。


謎の美女、“ディペ”によって。



* * *
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