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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
ディペの憎悪
しおりを挟む時空の間にある、アスモデウスの居城。
この居城では、人間や魔物達が住む世界とは違った時間が流れている。
魔法により、窓の外には永遠と終わらない夜空が広がっており、城の内部はさながら迷路のようになっていた。
そんな居城にあるガラス張りの温室では、ディペが自らの主人でもあるアスモデウスを探していた。
花や木々の代わりに、この温室内にはクリスタルで出来た花や木々が生い茂り、キラキラと月の光を反射しながら煌めいている。
「あっ!アスモデウス様!」
ディペが目当ての人物を見つけて、嬉しそうな笑みを浮かべながら走り寄る。
アスモデウスは温室の奥に設置されている、柔らかで質の良い、ふかふかのソファーに寝そべっていた。ディペの声に一度だけ金色の混じった真紅の瞳を開けたけれど、すぐに興味が失せたかのように、また瞼を閉ざした。
「アスモデウス様、起きて下さいまし。そろそろお腹が空いたのでは?どうぞ、私をお召し上がり下さい」
「……今週はお前が勝ったのか?」
「はい!皆、アスモデウス様に精気を捧げたく、ギリギリまで命懸けの戦いを繰り広げました」
「何人殺った?」
「今回は三人ですわ。アスモデウス様」
ディペはうっとりとした顔をして頬を薔薇色に染め、寝ているアスモデウスの上に跨がる。アスモデウスの美しさは悪魔の中でも群を抜いており、配下であるディペもまた、アスモデウスに主人としての敬愛だけでなく、思慕の念を抱き、その美貌の虜となっていた。
衣服が開けて露になっている厚い胸板や割れた腹筋に指を滑らせ、甘えるようにアスモデウスの身体に身を寄せる。
早く早く抱かれたい。
美しい主人とひとつになりたい。
「アスモデウス様」
服の上から、アスモデウスの情欲にそっと触れる。それだけで、ディペの秘処は蜜を溢れさせてしまう。
しかし。
「止めろ」
再び開かれたアスモデウスの瞳は、恐ろしく冷たいものだった。
今までそんな目で見られた事が無かったディペは、身体を硬直させ、血の気が引いていく。
「あ、アスモデウス様……?」
「今はそんな気分じゃない。失せろ」
ここですぐに引けば、ディペは未だ配下の中でも優位な位置に立てただろう。
けれど、前に何度も精気を捧げる為に抱かれ、至福の快楽を身を以て知ってしまっている彼女は、諦め切れずに食い下がってしまったのだ。
「ですが、先週も先々週も精気を摂っていらっしゃらないのでしょう?アロやジェラでは満足出来なくとも、私なら……」
自身の秘処を擦りつけるようにアスモデウスの上で動くと、次の瞬間、ディペは突然呼吸が出来なくなる。
「かはっ……?!」
アスモデウスに片手で首を締められたからだ。
「いつから主人に意見できる程偉くなった?私は“失せろ”と言ったのだ。……この雌豚がっ!」
端正な顔が苛立ちで歪み、その瞳は血のような真っ赤で、ディペは魚のようにはくはくと口を動かしながら、己の最期を覚悟した。
ミシミシと軋む骨。
あと少しアスモデウスが力を加えたら、ディペの首はポキリと折れてしまっていただろう。
だが、アスモデウスは殺すことはせずに、青褪めて血の気の失せたディペを、ソファーの下へと放った。
「………っぁ?!」
「次は無いぞ、ディペ。今すぐ私の前から消えろ。……私が抱きたいのはヴィクトリアだけなのだから」
――――“ヴィクトリア”?
アスモデウスは眉根を寄せ、切なく焦がれるような瞳で天を仰ぐ。
「嗚呼、ヴィクトリアが欲しい。私の虜にならなかった者はヴィクトリアだけだ。……どうすれば手に入るのか、今の私には分からない。……彼女以外、欲しくない。彼女を……」
“彼女を抱きたい”。
そう小さく零すと、アスモデウスは再びソファーに寝そべってしまった。
閉ざされた瞳。
以前は、精気を捧げる時だけ、甘やかに惑わすような魅惑的な瞳を向けて下さったのに。
ディペはゆらりと静かに立ち上がり、温室から出ていく。
その胸に、激しい憎悪を抱いて。
「ヴィクトリア……?アスモデウス様が興味を持たれて、二度程この城へ招いたという半端者か」
アスモデウスが気紛れに喚び出す者の事は、配下の数人がチェックしている。
喚び出された者は人間にしろ魔物にしろ、アスモデウスと契約した場合、ある意味ではその時点で自分達と同僚になるからだ。実際には、その者がアスモデウスに飽きられた後、自分達強者の玩具となるわけだが。
“半端者”。
人間からサキュバスへ転化したものの、魂が異質で、魔物になり切れなかった女。
(そんな半端者がアスモデウス様の御心を惑わせるだなんて……)
許せない。
ディペはアスモデウスの居城から飛び出し、人間達の世界へ向かった。
主人である愛しのアスモデウスに元に戻ってもらうには、原因となった者を消してしまえばいいと考えたからだ。
存在自体が無くなってしまえば、アスモデウスも興味を無くし、再び自分を見てくれるだろう。
その頃にアスモデウスの空腹がピークに達していたならば、獣ように激しく抱いてくれるかもしれない。
ディペは口端を上げて、黒い翼を羽ばたかせながら、自身の濡れそぼった蜜口に指をつぷりと挿れて掻き混ぜる。
その顔は自分を抱くアスモデウスを想像して恍惚としていた。
「ああっ、アスモデウス様……!今すぐ貴方を惑わせる雌豚を、このディペが排除して参ります!……アスモデウスさまぁ♡♡」
こうしてディペは、ヴィクトリアの居るリリーナ魔法学園へ向かったのだった。
* * *
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