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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
オレリアの対価
現れた色欲の悪魔、アスモデウス。
彼の表情は怒りに満ち満ちていた。
そうして――――
『……ディペ。そんな深傷を負って、一体どうした?可哀想に。美しい顔も身体も台無しだな』
『嗚呼っ……!愛しいアスモデウス様!!』
ディペはアスモデウスの言葉に、感極まったかのように涙を滲ませた。
少し離れた位置でヴィクトリアを守る様に抱き締めていたエリック達は、アスモデウスの纏うただならぬ禍々しいオーラに戦慄する。ナハトやフィル、ルカも更なる戦闘に備えて身構えた。
しかし。
『だが、おかしいな?……誰が私のヴィクトリアに手を出して良いと言った?』
アスモデウスは額に青筋を浮かべて怒りに満ちていた。
それは、ディペを傷付けたナハトや、空間を壊したシュティ、人間でありながら悪魔に抗ったエリック達にではなく……
『え?……アスモデウス様……?』
ヴィクトリアに手を出した、ディペに対する怒りだった。
……………………
…………
訓練場から少し離れた所にある救護部屋。この部屋からは、訓練場の様子が見学出来るようになっていた。そして今、室内には二人の生徒の姿が在る。
オレリアとアベルだ。
「これが君の言っていた見せたいもの?」
「あっ……それは、その……」
「だとしたら、酷い仕打ちだね。俺に何か恨みでもあるの?」
「ち、違います!私はアベル様の為に……っ!こんな筈じゃなかったんです!!」
オレリアの顔色は酷く青褪めており、身体は僅かに震えていた。
人懐っこい笑みがトレードマークのアベル。けれど、今の彼は口元に笑みを浮かべていても、その瞳には色濃い侮蔑の色が籠められていた。
ヴィクトリアの痴態を見せつければ、彼は――――アベルは彼女に失望すると思った。
当初のディペの話では、魔物が放つ媚薬によって快楽に溺れたヴィクトリアが、婚約者の前で、婚約者ではない男と夢中になって身体を重ねるという痴態を見せ、更には彼女の正体を明らかにし、彼女が魅了の力で無理矢理彼等の心を掴んでいた事実をその場で明かすと言っていた。
それなのに。
ディペの創った空間を眺められるように魔法が掛けられた窓から見えたのは、無理矢理身体を暴かれた哀れなヴィクトリアが、婚約者達に助けられ、突如現れたアスモデウスがディペを無理矢理連れ帰り、今は静けさを取り戻した訓練場にて婚約者や従者達に慰められている。
「君はリアに何が起こるのか分かってて放置した挙げ句、俺から彼女を救う為の時間を奪った。見ているだけで何も出来なかったなんて、騎士として最低最悪だよ」
「違うわ!だって、彼女は……」
「君がそう仕向けた。俺が好いた女性さえ護れない無能な騎士になるように。……酷い人だ」
「本当に違うの!!お願いだから、私の話を聞いて下さい!あの女には救う価値なんて無いの!あの女はサキュバスで、魔物で、ヒロインでもないのに、ずっとずっとアベル達を魅了の魔法で操って――――」
「黙れ」
オレリアの肩がビクリと揺れた。
アベルの眼差しはあまりに冷たくて、そこにオレリアが知る優しいアベルの姿は欠片も無かった。
オレリアが知っているのは、自分がヒロインとなってプレイしていた、画面の向こうの優しいアベルだけ。
ゲームの中の悪役令嬢ヴィクトリアにさえ、アベルはそこまで冷たく接してはいなかった。むしろ、ひたすら一途にエリックを想い続けるヴィクトリアに同情さえしていた。だから、オレリアは知らなかった。
アベルが自ら“敵”と見なした相手に対し、彼がどんな眼差しを向け、どんな態度を取るのか。
「あ、アベル……さま……」
カタカタと肩を震わせる彼女の横を通り過ぎ、救護部屋の扉に手を掛ける。
「へぇ。さっきまではどんな事をしても開かなかったのに。全てが終わったら、こんなにアッサリ開くんだね」
眉根を寄せて、口元に浮かぶ嘲笑。
アベルは振り返らずに、苛立ちを含ませた声音でオレリアにハッキリと告げた。
「君のこと、絶対に許さないから」
その言葉を最後に、アベルは救護部屋から出て行った。
バタバタと駆け出した足音を聞いて、アベルがヴィクトリアの元へ向かったのだと分かった。
大好きな、最推しのアベル。
もう彼の柔らかな人懐っこい笑みを見る事は出来ないだろう。
「違う……違うの。私はただ、貴方の目を覚まさせてあげたかっただけなの。だって、ヴィクトリアは悪役令嬢なのよ?なのに、あんなに他の攻略対象者達を侍らせているなんておかしいじゃない。だから……」
ディペに、ヴィクトリアがサキュバスで魅了の力を使っているのだと教えられた時、酷く納得した。
ゲームではそんな設定無かったけれど、オレリアの知らない裏設定や、ボツになった話があったのかもしれない。そう考えて納得し、ヴィクトリアを憎んだ。
これ以上、あんな淫魔にこの世界を好き勝手されたくなかった。
この世界を
攻略対象者達を
攻略…………
………………………
…………
「あれ……?私、何をしていたのだったかしら……?」
突然、プツリと何かが事切れた。
オレリアは、不思議そうに周囲を見渡す。
切れてしまったのは、ディペとの繋がり。
悪魔と契約を交わせば、当然対価として身体と魂を縛られる。だが、ディペとの繋がりが切れた事で、対価として魂までは奪われなかったのだ。
しかし、今日までの対価は支払われた。
オレリアの大切にしていたもの。
それは、この世界を生き抜いていく為の、前世の記憶や、それに纏わる記憶だ。
オレリアが首を傾げていると、誰かが扉をノックして室内へ入ってきた。ゲーム続編で登場する攻略対象者達だ。
三人は既に、彼女に攻略されてしまっている。
「あれ?皆、どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。僕達の愛しいオレリア」
「ずっと探してたんだよ?」
「今日こそは、いつもより深く仲良くなっても良いだろう?」
「え?」
三人のイケメン攻略対象者達は、蕩けるような眼差しでオレリアを見つめ、救護部屋のベッドにオレリアを押し倒した。
「ま、待って!本当に皆どうしたの?!止めて!!」
「ふふ。可愛らしい抵抗だね、オレリア」
「大丈夫だよ、オレリア!うんと気持ち良くなるだけだから!」
「今日こそは観念して、俺達の中で誰が一番好きなのか選んで欲しいところだな。俺を選べ、オレリア。……死ぬほどヨクしてやるから」
「やっ………?!」
オレリアの悲鳴はキスに呑み込まれ、いつもより特別深く愛する彼等には余念がなく、救護部屋の扉には鍵と音声遮断の魔法が掛けられていた。
前世の記憶と、それに纏わる記憶を対価として奪われてしまったオレリアは、彼等を攻略した事さえ分からない。
彼女の記憶には、ただ彼等と仲良くなった、という事しか残っていないのだから。
そうしてこの日。
記憶があった時のオレリアがギリギリでキープしていた彼等との距離が崩壊し、一線を超えてしまった。
放課後の救護部屋で、オレリアの処女は儚く散ったのだ。
* * *
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