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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
蜜月の始まり
しおりを挟むヴィクトリアがアスモデウスに陥落してしまってから、月日が流れ――――
留学生だったレオンハルトは母国へ帰国し、ヴィクトリアやエリック達は無事にリリーナ魔法学園を卒業した。
そして、卒業と同時にエリックは自ら王太子の座を返上して弟へ託し、ヴィクトリアの生家であるアルディエンヌ公爵家に婿入りという形で結婚。
ジルベールは宰相補佐兼、アルディエンヌ公爵家お抱えの筆頭魔法師となり、アベルもまたアルディエンヌ公爵家お抱え騎士団へ入団を果たした。
「リア、大丈夫かい?ごめん。昨日の夜は、無理させ過ぎちゃったね」
こうして迎えた蜜月。
昨夜はまさしく初夜だった。
(ぜ、全然眠れなかった……ほぼ一睡も……)
ヴィクトリアが朝食の席で、姿勢は美しく保っているものの、疲労によりぐったりしていると、フィルとナハトが傍へと歩み寄り、心配そうに眉尻を寄せた。
「ヴィクトリア様。体調が優れないのであれば、すぐにお部屋で休まれた方が良いかと……」
「フィル。心配してくれてありがとう。だけど、私は大丈……っ?!」
そう微笑みながら話すヴィクトリアを、ナハトが問答無用でお姫様抱っこした。
あまりの出来事に呆然とし、室内の端に控えていた使用人達も驚いて「お嬢様!」と声を上げる。
しかし、それらは一瞬の事で、ナハトの魔力が室内に広がると、すぐにまた静かになった。使用人達は、まるで何事も無かったかのように、元の定位置でぼんやりとした虚ろな目をしながら控えている。
その様子を一部始終見ていたエリックが、「君達は相変わらずだね」と、やや溜め息混じりに声を漏らした。
「淫魔特有の幻惑魔法。以前にも見た事があるけれど、全く大したものだ」
「黙れ。この色ボケ王太子」
エリックの呆れたような声に、ナハトがすかさず言い返して、ギロリと殺気を込めた眼差しで睨み付ける。
「形式上、昨日は貴様に譲ったが、これからはそうはいかない。俺達のヴィクトリアに、こんなに無理をさせて……」
「僕はもう王太子じゃない。これからは僕がこの屋敷の主で、君達の御主人様の伴侶だ。君達の方こそ、今後は今まで通りにはさせないよ」
二人の間でバチバチと散る火花。
ヴィクトリアは眉尻を下げ、自分を抱き上げているナハトを見上げる。
「ナハト、私は自分で歩けるわ。心配してくれるのは嬉しいけど、お願いだから降ろして?いくら幻惑魔法で誤魔化しているとはいえ、人前では……」
しかし、ヴィクトリアが最後まで言い切る前にハッとする。
ナハトがまるで捨てられた子犬のような瞳で、寂しそうに見つめてきたからだ。
幻覚なのか、しょんぼりと垂れた耳も見える。
「……どうしても駄目か?俺が嫌なのか?」
駄目じゃない。
駄目ではない。
嫌だなんてとんでもない。
ヴィクトリアは顔を真っ赤にさせながら、すぐに顔を左右に振った。
「ち、違うの、ナハト。あの、ナハトが嫌とかじゃなくて」
「ヴィクトリアは俺達のヴィクトリアだったのに、アイツと結婚したから、もう俺達のヴィクトリアじゃないのか?」
ヴィクトリアの胸をナハトの言葉が射貫く。
どうやらナハトは、以前よりもヴィクトリアに対して甘え上手になってしまったようだ。
ヴィクトリアはナハトの服をきゅっと掴みながら、早々に観念してしまった。
「わ、分かりました。……ナハト。私をこのまま部屋に連れて行って」
「勿論!」
ぱぁっ!と無邪気な笑顔を見せるナハトに、エリックが青筋を立てながら笑みを浮かべた。
「ちょっと待ちなさい。それなら、リアは僕が部屋まで運ぶよ。妻を運ぶのは夫である僕の役目だからね」
そう言って席を立とうとするエリックの前に、フィルが立ち塞がる。
「色ボケ若旦那様は、朝食後、領地のお仕事が待っておりますので、早々にそちらに取り掛かるべきかと存じます」
従者の鏡のようなアルカイックスマイルを浮かべながら、言外に『お前はお呼びじゃないから、さっさと飯食って仕事してこい』と伝えるフィル。
「本当に君達は、出会った当初から僕に対して容赦がないな……!ずっとヴィクトリアの傍にいられた君達と違って、僕はやっと一緒に居られるようになったばかりなんだよ?蜜月なんだよ?」
「だから初夜は二人きりにさせてあげたでしょう?早く仕事に行け、当主様」
「いやいや、当主に対してどれだけ無礼なのかな?!リアの父君に対してはそんな態度じゃなかっただろう?!」
エリックから投げ掛けられた疑問に、フィルとナハトは心底呆れ果てたような冷めた瞳で見つめ返した。
「旦那様はヴィクトリア様の父君。貴方様と一緒にしないでいただきたい」
「旦那様と、今は亡き奥様がいなければ、ヴィクトリアはこの世に生まれていなかった。つまり」
「旦那様と亡き奥様は、ある意味では神に等しいわけで」
「「要するに、お前と一緒にするな」」
ハモるフィルとナハト。
エリックからは殺気が漂い始め、ヴィクトリアは顔を青くした。
このままでは屋敷内で戦争が始まってしまう。
そう危惧した矢先、誰かがダイニングの中へ、まるで我が家同然にズンズンと入ってきた。
人間の貴族が着るような軽装に身を包んだ、最上位悪魔――――アスモデウスだ。
「まぁ落ち着け、糧共よ。でないと、ヴィクトリアは私が攫っていくぞ?」
* * *
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