悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

はる乃

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1巻

1-2

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 二人の手が、動けない私の身体に妖しく触れていく。フィルとナハトはインキュバスだ。彼らは自分たちの精気を与えることで、相手の身体を癒すことができる。つまり――

『ひゃんっ! だ、め……フィル、ナハト……! んぅっ』

 キスをするたびに、思考が鈍る。もっともっと触れてほしくなってしまう。インキュバスである二人の唾液には、催淫効果があるのだ。身体がどんどん敏感になり、フィルとナハトが、私の一番触ってほしい場所に優しく指を滑らせる。

『やぁん』

 耳に届く、くちゅりとした卑猥な水音。何度も何度も指で秘裂を上へ下へとなぞられて。たまらない快感に、私の口からは甘い喘ぎ声ばかりが零れ落ちてしまう。やがて、フィルが私の耳や首筋、胸へと舌を這わせ始め、ナハトがその端正な顔を股の間へと埋める。催淫効果のある唾液にまみれた舌で、ピンと勃つ双丘の頂きと、ぷっくりと存在を主張する花芽をぱくりと同時に舐められて、私の身体に電流のような甘い衝撃が走り抜けた。

『ひゃああああん! あっ、あっ、やぁああああっ』

 突き抜ける極上の快楽。二人はまるでむさぼるように、執拗に私の弱いところに吸い付いて、ちゅぽちゅぽと音を立て、転がし、いじめ抜いていく。

『らめぇぇ……! イクっ、イクイクっ、イッちゃうぅっ!』

 はしたなくプシャッと潮を吹き、絶頂を迎えてしまった。けれど、二人は全然止めてくれない。
 たっぷり唾液を絡ませた指が蜜壺の中にゆっくり挿入されると、目の前がチカチカ明滅し、腰が勝手に揺れてしまう。

『そんな淫らに腰を振って欲しがるだなんて、とても生娘とは思えませんね?』
『ち、違っ……! 欲しがってなんか……きゃあああん』
『またイってしまったのですね。お嬢様は、中のザラザラしたここが随分とお好きなようだ』
『フィル。それなら指を増やして、もっともっといっぱい触らなきゃ。ああ、お嬢様の蜜は甘くて美味いな。いつまでも舐めていられる』
『だ、だめ! 指、増やしちゃ……』

 じゅぼっ、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……
 レロレロレロレロ、ちゅうぅぅ……

『ひゃあぁあああああっっ』


   ***


 ……という、二人の献身のお陰で、私の身体は危機を脱した。
 フィルとナハトの想いに胸を撃たれた直後だっただけに、その衝撃は計り知れないものがあった。体調が良くなったのなら、結果オーライ。もう二人にあんなことやこんなことをされて、回復してもらう必要もなくなったのだから。なんて、その時の私は本当に馬鹿だった。恐らく、高熱が続いたことで、思考力が低下していたのだと思う。フィルとナハトはインキュバスなのだから、当然彼らの『食事』とは『精気』なのだ。ゲームの中のヴィクトリアは、ヒロインや使用人たちの精気をフィルとナハトの食事に充てていた。けれど、私はそんなことできない。ヒロインに二人をけしかけるだなんて危険過ぎてできるわけがない。それは勿論、使用人も同じ。故に、二人の食事となる精気は主である私の身体で済まそうと考えた。考えてしまった。だから――

『あっ、あっ、そんな、吸っちゃ……らめぇ!』

 今朝も当然、フィルとナハトの朝食は私でした。最後の一線だけは越えていないものの、精気は相手が気持ち良くなればなるほど美味しくなるそうで、フィルとナハトは食事のたびに、私をぐちゃぐちゃのドロドロに気持ち良くしてしまう。処女なのに。このままだと、処女のうちから淫乱な女になってしまうかも? いやいや、いくらR18設定の世界だからって、ヒロインでもない悪役令嬢の私が淫乱になるわけがない。
 二人は私を助ける時も、精気を与えてくれた。だから、は人命救助と同じ。それに二人はインキュバスであるじは私なのだから、彼らの食事だって私が責任を取らなくちゃ! 食事を与えるのは主として当然のこと。私は何度も自分自身にそう言い聞かせた。そうして朝からヘロヘロになった私は、何とか身支度を済ませて馬車へ乗り込み、入学式へと臨んだのである。


 入学式は滞りなく終わった。もともとゲームの主役であるヒロインの登場が入学式のあとなので、シナリオに関係ない入学式が何事もなかったのは当然と言えば当然なのだろう。入学式に間に合わず、遅れてやってきたヒロインは、同じく公務で遅れてやって来るエリック殿下と、出会いイベントを……

「ヴィクトリア嬢?」
「え?」

 聞いたことのある声音で呼び止められて、自分でも驚くほどにドクッと心臓が高鳴る。ゆっくり振り返ると、視界に飛び込んできたのは、柔らかそうな金色の髪に、訝しげに私を見つめる澄んだ空色の瞳と、整い過ぎた眉目秀麗な顔立ち。ゲームの中の悪役令嬢ヴィクトリアが一途に想い続けたメインヒーロー、王太子のエリック殿下がそこにいた。
 その事実を理解した瞬間、私の顔に一気に熱が集まった。最推しであるフィルとナハトは人間離れした超絶美少年だが、さすがメインヒーローなだけあって、エリック殿下も恐ろしいほどのイケメンである。私の心臓はずっとドクドクと高鳴りっぱなしで、身体もどんどん熱くなって……

(――あれ?)

 そこでやっと私は自分の身体の異変に気付く。どうして私の身体はこんなに熱いの? 治ったと思っていたけど、まだ本調子ではなかったのだろうか? 頭が、視界が、クラクラする。

「こんなところで一体何を? 今日、新入生は入学式だけで、校内見学や授業の詳しい説明は明日だったはずだ」

 そう。今日は入学式だけで、あとは家に帰るだけ。だけど、私は今日のうちに教室の場所や従者の待機部屋などの位置を確認したくて、学園に残っていたのだ。ちなみに従魔であるフィルとナハトの二人には、今日だけ留守番を言い渡してある。何せ入学式だけで終わりだったので。

「いえ、あの……教室の位置などを確かめ…っ」

 エリック殿下に理由を説明しようと口を開くが、身体に灯った熱はぐんぐん上がっていく。お腹の奥がうずいて仕方なくて、ドレスが肌と擦れる僅かな衣擦れにさえもゾクゾクしてしまう。私の身体は、一体どうなってしまったの?

「顔色が良くないな。具合が悪いのかい?」

 まさか、エリック殿下にそんなことを訊かれるだなんて、思ってもみなかった。さすが乙女ゲームのメインヒーロー。興味なんて欠片もない悪役令嬢ヴィクトリアにまで優しいなんて。だからこそ、ゲームの中のヴィクトリアも、エリック殿下に恋をしたのかな?

「いえ、その……、私は大丈夫ですので……」
「そんなに顔を真っ赤にさせておいてよく言うね。保健室まで送るから、僕の肩に掴まって」
「え、エリック殿下のお手を煩わせるなど、恐れ多いです。私は本当に大丈夫、ですので……っ。どうか私に構わず行って下さ……」

 エリック殿下と会話を交わしている間も、私の身体はどんどんおかしくなっていく。一体、私の身体に何が起きているの? まさか、朝食時に受けたフィルとナハトの唾液による催淫効果が残っていたのだろうか? 
 原因が分からないまま、私の身体は更に熱くなって、ますます敏感になっていく。お腹の奥が切なくてたまらない。会話の途中なのに不意に身体がふらりと傾ぐと、エリック殿下が危なげなく支えてくれたかと思ったら、突然私をお姫様抱っこして歩き始めた。

「ひゃっ⁉ で、殿下⁉」
「貴女は保健室へ行くべきだ。……不本意かもしれないが、我慢してほしい」
「なっ……」

 こ、これは惚れるわ。ヴィクトリアじゃなくてもイチコロだわ。こんなイケメンに優しくされて、お姫様抱っこまでされちゃうなんて。でも、私は小さく頭を振った。もしも以前の気持ちに引っ張られて、また彼を好きになってしまったらと思うと怖い。彼には運命の相手であるヒロインがいるのだもの。ヒロインが違う攻略対象者を選ぶ可能性もあるけど、だからといって婚約者候補で居続けるのは危険だ。何より、今の私には最推しであるフィルとナハトがいるのだし。
 保健室に辿り着くまでの道中、エリック殿下の腕の中で回避すべき物事をぐるぐると考える。けれど、私の身体は少し擦れるだけでゾクリと感じてしまい、既にドレスに隠れたショーツの中はぐしょぐしょに濡れそぼってしまっていた。


「今日、入学式のあとで、誰かと会った?」
「だ、誰とも……? えりっく殿下としか……! あんっ!」
「勿論、僕以外でだよ。……思考が働かなくなってしまったのかな?」
「ひぅっ、やぁああん」

 保健室のベッドへと寝かされた私は、エリック殿下にされていた。どうやらお姫様抱っこをしてくれた時点で、私の身体の異常に気付いていたらしい。保健医が不在だったのと、恐らく今の私の症状は誰かに危険な媚薬の類を盛られたのだと思ったエリック殿下は、私の身体を楽にする為に、仕方なく私に触れている――

(はずなのだけど……っ)

 エリック殿下は私に質問をしながら、ドレスの上からまろみある柔らかな双丘を優しく揉みしだき、ツンと尖ってきてしまった先端を指で挟んでクリクリともてあそぶ。そして、もう片方の手は愛液まみれのショーツが食い込む秘裂を繰り返し指でなぞっていた。そこはもうドロドロのぐちゃぐちゃにとろけていて、部屋に響く卑猥な水音に羞恥心と涙が込み上げてくる。

「だめ…だめなのぉ! 両方、いじっちゃ……あぁあっ」
「僕と会う前に、何か食べたり飲んだりした? ああ、そうだ。ヴィクトリア嬢の自作自演の可能性も考えないといけないね?」
「じ、さく……じえん……?」
「ハニートラップさ。僕を誘惑するために、自分から強力な媚薬を飲んだ、とかね」
「わ、わたし! そんなこと――」

 言いかけて、突然の強烈な快楽に私の身体がビクリと跳ねた。

「ひゃあああああんっ」
「ああ、すごいな。盛大に達してしまったね? 下着も恥ずかしい蜜でぐっちゃぐちゃだ。もう穿いていても意味を成していないし、脱いでしまおうか?」

 そのままするりと下ろされそうになって、私は思わず脱がされまいとショーツを掴んだ。

「ヴィクトリア嬢?」
「み、見ないでぇ……! 恥ずかし……から……っ」

 頭が朦朧とする。身体にも力が入らない。こんな恥ずかしいところは、見られたくない。既に食事としてフィルとナハトには見られてしまっているのだけど、だからといって慣れるわけではない。ささやかな私の抵抗に、エリック殿下の口元が僅かにほころぶ。

「両端についている紐をほどけば、すぐに脱げてしまうけど……?」

 今日の私は何故紐パンにした?

「一度達すれば少しは楽になるかと思ったが、まだ辛そうだね。……お遊び程度のものではなく、危険な媚薬の可能性が高くなったな。誰に盛られたか、心当たりはあるかい?」
「あっ、あぁっ、分からな……、そこ、らめぇっ!」

 ぷっくりと膨らんだ花芽を、エリック殿下がショーツの上からヌルヌルとこすり始めると、ゾクゾクとした快感が競り上がってきて、視界がチカチカと明滅し、再び高みへと押し上げられていく。

「分からないか。それなら、自分で飲んだのかな。正直に答えてほしい。……僕を、ハニートラップで陥れようとした?」
「し、してな……! あぁあっ、くるっ、きちゃうぅ……」

 しかし、達する直前でエリック殿下は、ピタリとその動きを止めてしまった。

「な、んで……? えりっ……」
「ほら、ちゃんと答えて。でないと、ずっとこのままだよ?」

 身体の奥が、ズクンと切なくうずいてたまらない。欲しくて欲しくて、ポロポロと涙が零れ落ちる。身体が熱い。辛い。苦しい。息も絶え絶えに、私は必死に否定する。

「陥れたりなんてしてないです! だからっ…」
「本当に? ……それがもし嘘なら、貴女には罰を与えなくてはいけなくなる。本当に違う? 信じていいんだね?」

 エリック殿下の言葉に、私は必死にコクコクと頷いた。すると、彼が何かの呪文を唱える。これは一体何の魔法……?

「ごめんね。少しの間だけ拘束させてもらうよ。原因は分からないけれど、様子を見る限り、まだ症状は改善していないようだ。だから、もう何回か達してみて様子を見ようと思う」
「な、何回かって……⁉」

 エリック殿下が唱えた先程の呪文は、彼が言った通り拘束魔法だった。目に見えぬ拘束具で、両手が頭の上で一纏めにされ、両足は否応なく秘処を晒した状態で左右に大きく開かされてしまっている。そうして、エリック殿下が私の両足の間に身体を入れて、ショーツの紐をほどいて脱がし、トロトロにとろけた秘処へその顔を埋めた。
 ぢゅうううううっ、レロレロレロ……
 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ、じゅぼじゅぼじゅぼ……

「あ~~~~っ、んぁっ、はぅうんん」

 拘束魔法のせいで抵抗できず、敏感になり過ぎている花芽を吸われ、ぬるりと温かい舌で舐め回されながら、蜜壺の中を指で掻き混ぜられて、強過ぎる快楽に襲われて達してしまう。

「中がうねって、何度も痙攣けいれんしているね。だけど、達する時は教えてほしいな。本当に達したのか分からない時があるから。この行為はヴィクトリア嬢の状態異常を治すのに必要なことなんだ。……いいね?」

 思考があまり働かないのに、羞恥心だけはしっかり残っていて。エリック殿下の問いに頷いて応えるが、毎回イクことを言わないといけないだなんて、恥ずかし過ぎて死ねることは理解できた。

「ひぅっ、だ、だめ……っ……」
「駄目? 違うよね? ほら、駄目じゃなくて。……何て言うんだっけ?」

 気のせいだろうか? エリック殿下の澄んだ空色の瞳が、獰猛な肉食獣の光を宿しているように感じられた。

「いっ……イク……っ、イッちゃうのぉ!」

 羞恥心でいっぱいになりながら、必死にそれを伝えると、エリック殿下は「可愛いな」と呟いてから、絶頂を迎えることを赦してくれた。

「イッていいよ。僕がいっぱいイカせて、ヴィクトリアを……リアを助けてあげる。今日から、リアって呼ばせてもらうね」

 エリック殿下に気持ち良くさせられている。その事実に、心の奥底で誰かが歓喜している。気持ち良くてたまらなくて、何度も絶頂を迎えたけれど、どうしようもなくお腹の奥が切なかった。婚約者でもないのに、最後の一線を越えることはできない。それは、分かっているのだけど。

「やぁああああっ……!」

 悲鳴のような嬌声を上げて、何度目かの潮を吹く。やがてエリック殿下が、苦しそうに顔を歪めながら、自身のトラウザーズの前をくつろげた。屹立した雄々しい男根は、立派過ぎるほどに長く太く大きくて。先走りの蜜を垂らした先っちょを、私の蜜口へグリグリと押し付けてくる。

「ひぁっ、ああっ」
「大丈夫、中にはれないよ。だけど、リアがあまりに煽情的過ぎて、我慢できなくなってしまった。トロトロにとろけたここにこすり付けることを許してほしい……っ」
「だ、め……そんなこと、殿下がなさっては……!」
「……貴女が僕を拒むだなんて、青天の霹靂へきれきだな。以前のリアと、今僕の目の前にいるリア。一体どちらが本当の姿なんだい?」
「ひぅっ⁉ だめ、ぐりぐりだめなのぉ! そんな、こすったら……! 気持ち良くなっちゃうからぁ……っ」
「……っ! リア!」

 待って。本当に待ってほしい。一体全体、どうしてこんなことに? エリック殿下が熱くたけった男根をしごきながら、蜜口へグリグリと押し付け、中へ入ってしまいそうになると、今度はその濡れた先っちょで花芽をグリグリ押し潰してくる。温かくて、お互いの蜜でヌルヌルなのが気持ち良くて、頭がおかしくなってしまいそう。

「いけない子だね、リア。入学したばかりの学園の保健室で、こんなに涎を垂らしながら男のモノをはしたなく欲しがるなんて」
「だ、だってそれはエリック殿下が……ああああああっ」
「こんなにヒクヒクさせて、なんていやらしいのだろう。ここの一番奥に突っ込んだら、さぞ気持ちが良いのだろうね?」

 想像するだけでお腹の奥がキュンキュンして、たまらなくうずいてしまう。確かに、この乙女ゲームは元々R18指定だ。ラッキースケベ的なものも普通にあったし、悪役令嬢にインキュバスであるフィルたちをけしかけられたヒロインが、今の私のように辛い状態になって、エリック殿下を始めとする他の攻略対象者たちに慰めてもらうシーンもあった。
 今、エリック殿下がしていることは、本来であればヒロインにすべきことであって、間違っても悪役令嬢であるヴィクトリアにするようなことではない。というか、入学式のあとに起こるはずだった、エリック殿下とヒロインの出会いイベントはどうなってしまったのだろうか?

「え、えりっく……でんかぁ……!」
「まるでお漏らししてしまったみたいに、シーツまで恥ずかしい蜜でびしょ濡れだね」
「もぉ……ゆるしてぇ……!」

 喘ぎ過ぎてかすれてしまう声で懇願する。シーツもドレスも愛液でドロドロのぐしょぐしょだ。とろけきった身体は痙攣けいれんしっぱなしで、もう嫌というほど達したのに、エリック殿下の言葉一つひとつに反応してしまう。

「……そうだね。まず、僕のことはこれから敬称なしで呼んでほしいな」
「え……?」

 何故? エリック殿下の言っている意味が、まるで理解できない。それを察したらしい殿下が、柔らかく微笑んで、私の頬をそっと撫でる。

「リアの様子から、今回の件はハニートラップではないと信じるよ。だから、あとはリアがこうなってしまった原因を突き止めようと思う。誰に媚薬を盛られたのか、もしくは何か別の方法でこうなってしまったのかは分からないけど。リアがまた狙われるかもしれないし、阻止する為には一緒にいた方が都合が良いと思うんだ。……だから、今後は敬称なしでいこう」

 どうしよう。途中まではエリック殿下の言っていることが理解できていたのだけど、最後の敬称なしというところだけは全く理解できない。いつの間にか盛られていたらしい媚薬か何かの効果がまだ抜けきっていないから、頭がまともに働かず、そのせいで理解できないのだろう。そう結論付けた私は、エリック殿下の言葉にコクリと頷いた。


 結果として、あのあと更に数回イカされてしまい、私はプッツリと意識を失ってしまった。気付いた時には、学園にある貴賓室にて学園で雇われている使用人たちに身体を清められていた。彼らには箝口令が敷かれており、万が一口にしようものなら、誓約の魔法によって死に至るらしい。
 学園の使用人たちは、契約書を交わす時、本人同意の上で誓約魔法をかけられるそうだ。非人道的にも見えるが、王族や高位貴族たちが通う学園なので、当然の措置と言えるだろう。身体を清めてくれているのは、当たり前だが女性の使用人たちだ。
 彼女たちは私に何も言わない。ただ、少しだけ同情的な視線を向けられていたので、恐らく媚薬の類を盛られた哀れな令嬢だと思っているのかもしれない。いや、正しくその通りなのだが。用意されていた新しいドレスに袖を通し、支度を終えた頃、タイミングを見計らったかのようにエリック殿下がノックをして室内へ入ってきた。

「体調はどうだい?」
「はい。今はもう何ともありません。お気遣いいただき、ありがとう存じます。エリック……様」

 淑女の礼をとりながら返事をすると、名前のあとに『様』を付けたことで、エリック殿下改め、エリック様がピクリと反応した。

「敬称はなしでと言ったよね?」
「いえ、あの、無理です。……王太子であるエリック様を呼び捨てるなんて不敬です」

 私を不敬罪で裁きたいのであれば別ですが。

「僕がいいと言っているのに?」
「無理です」

 私がキッパリとそう言い切ると、エリック様は困ったように苦笑しつつ溜息をついた。

「……本当に変わったね。以前のリアなら、躊躇ちゅうちょなく呼び捨てたと思うけど」
「三日間高熱で寝込んだ時に、これまでの自分がどれだけ愚かだったのか気付きましたの。どうかお許しください」

 ついでにこれまでの不敬もなかったことにして下さい。

「これからは、エリック様の臣下の一人として、及ばずながら尽くしていきたいと存じます」
「……臣下の一人として?」
「はい。以前の私はエリック様を、その……恋い慕うあまり、周囲に傍若無人な振る舞いをして、多大な迷惑を掛けてきました。そんな私に、エリック様の婚約者候補たる資格はございません。既に王宮へその旨をしたためた申請書類を送りましたので、まだ公爵家に連絡はありませんが、もう受理されていると思います。ですので、これからは分不相応な望みは持たず、慎ましく公爵家の令嬢として恥じない人生を送りたいと思っております」

 よく言った私。これで私は、もう婚約者になりたいだなんて思っていません、分相応に大人しく生きていきますと、アピールできたはず。そう思って、思わずにっこりと微笑みを浮かべると、エリック様は大きくその瞳を見開いて、私の頬にそっと触れた。

「エリック様?」

 距離が近過ぎると思うのですが。

「……確かに、その書類は確認した。だが、受理はしていない」
「……え?」
「リアは歴史あるアルディエンヌ公爵家の令嬢だ。身分を考えれば、僕の婚約者として申し分ない。それほど分不相応だとは思わないけど?」

 この方は一体何を仰っているのだろうか? よく分からないけれど、私はエリック様に自分の素直な気持ちを、その瞳を真っ直ぐに見据えながら告げた。

「いえ、間違いなく分不相応です。私はエリック様が幼い頃から民を想い、沢山の政策を考え、懸命に行ってきたことを全て覚えています」

 何せ以前の私はゲームに出てくる悪役令嬢ヴィクトリアそのまんまでしたので、貴方の行ってきたことはストーカーばりに全て存じ上げています。以前の私が変態過ぎて申し訳ないです。エリック様も私の告げた言葉に驚いているようで、僅かに戸惑っている様子が窺えた。

「……全て? 中には発案だけで、実現しなかったものもいくつかあるが」
「それも含めて全てです。実現しなかった案というのは、平民の子供たちを対象とした、無償で通える学校設立の件でしょうか? それとも、貧民地区の定期的な清掃事業の件? どちらもエリック様が十歳の時にお考えになったものですよね?」
「……そうだ」
「どちらもすぐに実現するには難しい案ですが、実現すればこの国は間違いなく更に豊かになるでしょう。私は国の為、民の為に、どこまでも真摯に努めるエリック様を心の底から尊敬しております。……だからこそ、私のような者がエリック様の婚約者にだなんて、候補でいることさえおこがましいのです。エリック様には、エリック様にふわしい方が現れるはず。ですから、私は辞退申し上げます」

 言いたいことは全て言えた。エリック様を尊敬している気持ちは、以前の私も今の私も変わらない。まぁ、以前の私はエリック殿下素敵! と思うだけで、民のことまでは全く考えてなかった。むしろ、そこまでエリック様に思われている民に嫉妬さえしていた。
 私より身分が低いくせに、エリック様に日々の生活やら周りの環境改善やら、将来のことまで考えてもらっているなんて贅沢過ぎますわ! みたいな的外れなことを考えて、余計に身分の低い人たちを敵視していた感じなのよね。本当にお馬鹿というか、お恥ずかしい限りです。あれ? エリック様の顔が赤くなっているような?

「……さっき、恋い慕うあまりと言っていたけど、もう僕のことは好きじゃないのかい? それとも、他に婚約したい相手でも?」
「へっ? あの、そういうわけでは。エリック様? 言っている意味がよく……」

 動揺し、戸惑っていると、エリック様が更に理解できないことをしてきた。その場で片膝をついてひざまずき、私の手を取って、その手の甲へ口付けたのだ。

「勝手なこと言うようでリアには申し訳ないけれど、このまま僕の婚約者候補でいてほしい。……思いがけず、リアが本当は可愛くて魅力的な女性だと知ってしまったからね。今まで、僕はリアのことを知ろうとしなかった。これからは、リアを知る為の努力を惜しまない。だから、もう一度チャンスをくれないだろうか。リアにもう一度好きになってもらえるように、努力することを許してほしい」


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