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本編
対となる者
しおりを挟む「魔力を吸収する魔導具?」
「はい。そういった物をこちらで扱っていませんか?もしくは、無ければ創っていただけませんか?」
「探してるって事は……あんた、対となる者は見つけていないんだね?」
「はい」
私とマリアムさんが朝食を食べ終えて、お茶で一息ついていた頃に、第二騎士団のクリストファー様が再びこの家を訪れた。
今朝は、その端正な容姿ばかり見てしまっていたけれど、今の彼の服装は恐らく第二騎士団の制服なのだろう。紺色を基調としており、ボタンは銀色。首元や袖口にある刺繍は、植物の形をしていた。
イケメンに制服。
眼福です。御馳走様です。
普段は腰の辺りで帯剣しているそうなのですが、私達に敵意が無いと示す為に、家の外で待機している信頼できる部下に剣を預けて来てくれたらしい。マリアムさんが「賢明だね」と言うと、クリストファー様はにこりと微笑んだ。
「間違っても魔女相手に剣を抜いちゃいけないよ。魔女は己の身を守る為に何重にも自己防衛の呪いを掛けているんだ。その呪いを発動させちまったら、何が起こるか分からないからね」
流石魔女。
まぁ、マリアムさんは自分の身が守れればいいから、身の丈に合わない呪いは掛けていないって言ってたけど。
魔女の中には、自分を襲おうとした者には容赦なく死の呪いが発動するように防衛魔法に仕込んでいる者も居るのだとか。
ただ、相手を死に至らしめる呪いはそれだけリスクを伴うそうで、呪いを掛けた魔女自身も何らかの強力な反動をその身に受ける事になるとか何とか…
怖いわ。
マリアムさんがそういった怖い系の魔女じゃなくて本当に良かった。
「魔力の吸収か。……ちょっと手を出してもらえるかい?」
「どうぞ」
マリアムさんが、クリストファー様の手に触れる。
それは瞬きする程の短い時間だったけれど、マリアムさんにはそれだけでクリストファー様の事情が分かってしまったみたい。流石は姉御。
「成程。恐ろしく規格外な魔力量だ。これはさぞかし辛かろう。今も相当無理してるんじゃないのかい?」
「もう慣れました」
「…………そうか」
――“対となる者”。
この世界には、一人の人間に対し、必ず“対となる者”が存在する。対となる者がいれば、魔力が安定し、膨大な魔力によって自身を内側から傷付けたり、暴走したりする事が無くなるそうだ。
近年ではそれほどまでに膨大な魔力量を保有している者は少なく、むしろ稀少になってきた為、殆んど者が“対となる者”を探す事は無い。通常の平均的な魔力量であるなら、自身が行う魔力操作で十分調節出来るからだ。
クリストファー様は近年稀に見る膨大な魔力量の保有者らしい。彼は“対となる者”が必要な人間だ。
しかし、対となる者が何処にいるかは分からない。例え出会っていたとしても、相手に触れないと分からないそうなのだ。
要するに、対となる者を探すには片っ端から出会った人達に触れていかないといけないわけで…
なんて非効率な羞恥プレイ。この世界の神様はちょっと……いや、かなり残念だよね?
私の魂だって、うっかりぬいぐるみに落としちゃったとか、そんな感じだったんじゃない?なんて、つい考えてしまう。本当のところは分からないし、神様がいるのかも分からないけど。
(妖精や魔女、獣人がいるなら、神様だっていそうだけど)
マリアムさんとクリストファー様にお茶とお菓子を出して、私は少し離れた位置に座る。
そうして二人を見守っていると、マリアムさんの視線が一度だけ私に向けられた。
何だろう?
お茶、渋かったかな?
「魔力を吸収する魔導具は過去に何度も作ろうと試してみた。けど、上手く出来た事はない。恐らく他の魔女や魔法使いも一緒だろう。だからこそ、この世界には“対となる者”が存在するんだ」
「そんな。……対となる者は、今まで散々探しました。ですが、見つからないのです。古い文献によれば、対となる者が遥か遠い異国の地に居た事もあるとか。そんなの見つけ出せる筈がありません。何より、僕にはもう時間が無いのです……!」
遥か遠い異国の地って……
ただでさえ触れなきゃ分からないのに、その文献に書かれていた人はよっぽど幸運だったのね。むしろ奇跡だよ。
だから見つかるか分からない“対となる者”を探すより、魔力を吸収する魔導具を開発してもらえれば、と思ったんだね。
確かに、顔も性別も不明で、どこにいるか分からない人を闇雲に探し回るより、魔導具開発の方がよっぽど希望が有りそうだ。建設的で現実的。
この先、クリストファー様と同じ様に困ってる人達が現れても、魔力を吸収する魔導具があれば、皆が助かるもの。
「時間が無い……?それじゃあ、あんた。仮に今すぐ魔導具開発に取り組んだとしても……」
「…………間に合わない可能性の方が高いです。ですが、僕はもう“対となる者”を探すのに疲れてしまった。騎士団での役割もある。休みの度に様々な場所へ赴いて探し回りました。けれど、見つからない。家族は、騎士団を退団して対となる者を探す事だけに専念した方が良いとまで言ってくれました。実際、成人までは学業もそこそこに、殆んどの時間を“対となる者”探しに充てていました。ですが、僕はもう嫌なのです。探しに行っては見つからず、また無理だったと言った僕を見て、落胆し、憔悴していく家族の顔を、もう見たくない。……楽にしてやりたいのです……」
「…………」
クリストファー様は、もう家族の皆さんに自分の事で心配して欲しくないんだ。
私はもう、前世の事は殆ど忘れてしまったから、家族のことも思い出せない。
だけど、今の私にはマリアムさんがいる。
マリアムさんに悲しい顔はさせたくないし、余計な心配もかけたくない。
だから、ほんの少しだけど、彼の気持ちが理解できた。
…何とかならないのかな。
こんなに家族想いで、仕事も頑張ってて、凄く良い人なのに。
しかもイケメン。
これが世に聞く、美人薄命ってやつなのか……
「エマ」
私がそんな風に思いながら二人の話を聞いていたら、突然マリアムさんに名前を呼ばれた。
マリアムさんと、クリストファー様の視線が私に注がれる。
お茶のおかわりですか?
しかし、マリアムさんから振られた話は、私にとって思いもよらぬものだった。
* * *
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