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本編
魔導具代わり
しおりを挟む「ここが貴女の部屋になります。何かありましたら、あそこにベルがありますので、鳴らしていただければメイドが来ますから」
「はぁ……」
広すぎる立派な部屋を見つめながら、私はどうしてこうなってしまったのだろうと首を傾げる。
あまりにも突然過ぎて、頭がついていかない。
でも。
「……っ」
「クリストファー様?」
隣にいるクリストファー様を見上げると、かなり顔色が悪かった。彼の深い緑色だった瞳が、だんだんと薄く変化していく。これは魔力が暴走を引き起こす前に、身体に現れてしまう前兆のひとつ。
「すみません……僕はこれで……っ、失礼させてもらいますね」
「だ、駄目です!こっち!今すぐ横になって下さい!」
失礼させてもらいますって、何処に失礼するつもりですか?!
私は無礼だと思ったけれど、クリストファー様の腕を掴んで、この部屋にあるベッドへとぐいぐい引っ張って連れていく。
クリストファー様は「離して下さい」「未婚の女性の部屋に入るのは」とか何やら色々言っているけれど、私には関係無い。
「私はぬいぐるみですから心配ご無用です!!」
そうして私は、クリストファー様を無理矢理ベッドに寝かせた。形で言うと、私が押し倒したかのような状態だけど。
「わ、私が何とかしますから!」
「エマ……さん……」
そう、これは仕事だ。
私が何とかしなければ。
「魔力を、食べるには……」
ごくりと唾を飲み込んで、私は意を決し、彼に覆い被さる。
そして、柔らかく冷たい唇に、自分の唇を重ねたのだった。
……………………
…………
どうしてこんな事になったのかと言うと、マリアムさんが原因だった。
『エマ』
『何でしょう?お茶のおかわりですか?』
『違うよ。あんたに仕事を頼みたいんだ』
仕事??
何だろう。また薬草採取かな?それとも回復薬作り?
まさか、裏にある謎の倉庫の掃除じゃないよね?
私が一人あれこれ考えていると、マリアムさんの口から飛び出た言葉は全く予想だにしていないものだった。
『あんたが魔導具になりな』
『はあああ?!』
『マリアム殿?一体何を……』
思わず私は素っ頓狂な声を上げてしまい、クリストファー様も驚きで目を丸くする。
けど、すぐに違和感を感じた。
マリアムさんは出会った当初からぬいぐるみの私を対等に、まるで人間のように扱ってくれた。
それなのに、どうして今、私を“道具”っぽく言うのだろうか?
『ちょうどいい。今やってる魔法薬の研究に大量の魔力が必要だったんだよ。だから、あんたが魔導具代わりになって、この男から魔力吸収しておいで。言っておくけど、一度や二度の吸収じゃ駄目だよ。きちんと魔力が溜まったら戻っておいで』
『ま、マリアムさん、何を言ってるの?それに私、魔力の吸収なんて』
『いつも私が魔力を練って、飴玉みたいにしてから食べさせていただろう?それと一緒さ。あんたがこの男の魔力を食べればいいんだ』
『ええええ?!』
『マリアム殿!僕には魔女である貴女のように、魔力を飴玉のようにする事は出来ません!それに、彼女を……エマさんを魔導具代わりにするとは、一体どういう……』
『うるさいね。ごちゃごちゃ言うんじゃないよ。エマは必要なものをまとめておいで。早くしな!』
『ひぃっ!』
マリアムさんから本気の怒気を感じて、私は慌てて立ち上がり、2階へと階段を駆け上がった。
必要な荷物を取りに行ったのだ。
その間、下から二人の声が聞こえたけれど、何を話していたのか、内容は聞き取れなかった。
あれよあれよと言う間に、私はクリストファー様が乗ってきた馬車へと詰め込まれ、真意が不明のままマリアムさんの家から出る事になってしまった。同乗するクリストファー様も、何やら難しい顔をしている。私が2階で荷物をまとめている間、二人は何を話していたのだろうか。
馬車へ詰め込まれる前に、マリアムさんが私の肩に触れて、こう言った。
『……無茶をして、怪我をするんじゃないよ』
いつもより素っ気ない言い方だったけど、眼差しはとても温かかった。いつもの、私が知ってるマリアムさんの眼差しだった。
なのに、突然どうして?
分からない。
分からないけど、私はマリアムさんが大好きで、彼女に少しでも恩返ししたいと思う気持ちは変わらない。
だから、彼女がクリストファー様の魔力を吸収して来いと言うのならば、私はそれに従う。
だって、マリアムさんは言ってたもの。
“魔力がきちんと溜まったら、戻っておいで”って。
* * *
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