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本編
ディアナの事情
しおりを挟む私の名前はディアナ・アーベントルト。
アーベルトルト公爵家の娘で、乙女ゲーム『ラブ♡ラビリンス』の悪役令嬢。
そう、私は最近のラノベでよく目にする『転生者』とかいうやつだ。
大好きな乙女ゲームの世界に転生出来たと知って、始めはめちゃくちゃ喜んだ。だけど、その喜びは秒で終わった。
だって、この世界はもう私の大好きだった2次元じゃない。
生身の身体がある、3次元だったんだもの。
「そりゃそうだよね。……転生したんだもん。身体が無きゃおかしいよね」
前世、私は男運が無かった。
びっくりするくらい無かった。
ギャンブル好きだったり、浮気男だったり、暴力を振るう男だったり、ストーカーだったり、お金だけ持って消える詐欺師だったり。
会社ではセクハラを受け、電車では痴漢に遭い。
その結果。
私は3次元の男が嫌いになった。
2次元の嫁達だけが全てになった。
2次元の嫁である推し達は、絶対に私を裏切らない。私から無理にお金を取ったりしないし(自主的に貢いではいたけど)、浮気の心配もなければ、殴ってくる事も無い。
私を騙したりしない。
優しくて、格好よくて、いつも傍にいてくれる。
……このゲームのメインヒーローであるリーンハルト殿下は、前世の私の最推しだった。
優しくて、格好よくて、少し繊細で。だけど仲間想いで。誰よりもこの国を、民を大切に想ってる。
最後にはヒロインの手を取っていたけど、他の乙女ゲームの攻略対象とは違って、婚約者だった悪役令嬢とも、頑張って向き合おうと努力する人だった。
ただ、リーンハルト殿下の説得も虚しく、悪役令嬢ディアナは嫉妬に狂うあまり、ヒロイン暗殺を企て、それを実行に移してしまった。
『残念だよ、ディアナ。僕の初恋は、間違いなく君だったのに。……さようなら』
そう言って、リーンハルト殿下は悪役令嬢ディアナを断罪し、ヒロインと結ばれる。
ただ、未遂だった事とリーンハルト殿下の恩情もあって、ディアナは極刑には処されず、修道院へと送られる事になる。そこで嫉妬に狂う前のディアナに戻り、心からリーンハルト殿下の幸せを願い、エンディングロールでは殿下とヒロインの幸せを願う場面がチラリと出てくるのだ。
ちゃんと悪役令嬢の気持ちにも向き合うなんて、衝撃だった。
リーンハルト殿下は、本当に優しい人だと思ったし、誠実な人だと思った。だって、ゲームの終盤でヒロインへの気持ちを自覚した殿下は、その時点でちゃんと悪役令嬢に謝ってたもの。
『すまない、ディアナ。全て僕に責任がある。君という婚約者がいてくれるにも関わらず、僕は君ではない女性に惹かれてしまった。彼女を愛してしまった。……全て、僕が責任を取る。父上達には、ディアナには何一つ非は無かったと伝える。だから、これ以上君の手を、こんな僕なんかの為に、罪に染めないでくれ……!!』
『どうしてなのですか?!責任を取るって、あんな女の為に王太子の座を自ら捨てるおつもりなのですか?!殿下程、この国を想う方はいらっしゃいません!!あの女は傾国の悪魔よ!!私は、私は絶対に認めないっ……!!』
『ディアナっ!!』
ホント、ヒロインは傾国の悪魔だわ。
急に湧いて出たヒロインにそれまで上手くいっていた関係を壊されてさ。確かにゲームの中のディアナはリーンハルト殿下を完璧な王太子だと思い込んでて悩みや弱音を聞いてあげたりとかしなかったし、王太子が一番辛い時も殆んど気付かなかったけどさ。
だけど、王太子が誰よりも国を想っている事を理解していたのはディアナだったし。
それに、リーンハルト殿下も初恋の君であるディアナに格好つけたくて、自分からも話そうとしなかったんだよね。それで結局一人で抱え込んで、もう限界って時にポッと出のヒロインに慰められて陥落しちゃうんだよ。
ヒロインさえ出てこなければ、ディアナも悪い事に手を染めたりしなかったのに。
……この世界にも、悪役令嬢の私が居るんだから、当然ヒロインだって居るだろうし、時期的にも、とっくに登場してる筈なんだよね。
侍女のマリーはリーンハルト殿下が私を慕ってるって言うけど、幼い時から悉く殿下を避け続けてきた私がゲームのように殿下の『初恋の君』になっているだなんて無いと思うし、今頃殿下は既にヒロインと恋仲なのではないかと思う。
私に会いに来る理由は、円満な婚約破棄がしたいからだろう。
だけど、私は前世の影響で今世では根っからの男嫌い。出来れば一生結婚なんてしたくない。
このまま殿下を避け続ければ、いずれは不興を買って無理矢理にでも婚約破棄させられるだろう。
そうすれば、私は問題有りと見なされて貴族とは結婚出来なくなる。
それが私の狙い。
だから、私はこのまま卒業まで殿下を避け続けるのだ。
3次元とはいえ、最推しである殿下の声は腰が砕けそうになるほど素敵で、聞くだけでドキドキしてしまう。いつもパーティーとかではボロを出さないように必死に表情筋を固めて、顔や態度には出さないように気をつけているけど。
年々艶を増して破壊力が凄まじい事になってるし、何とか卒業するまで頑張らなくちゃね!
「殿下にはヒロインがいるんだし」
学院でも避けてるからヒロインとの進行状況とか全然知らないけど、知ったら知ったで微妙にショック受けそうだし。
やっぱり、このままが一番よ。
「婚約破棄後は、恋愛小説でも書こうかな?……はぁ。……2次元が恋しくて堪らないよ……」
こうして私は、今日も殿下を避け続けるのであった。
「……そういえば、何でかアレクシーナ様に3次元の事を訊かれたけど、何だったのかしら?といか、この世界にも3次元って言葉を使ってる人が居たなんて驚きよね。誰から聞いたのか、詳しく訊けば良かったかなぁ……」
* * *
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