22 / 23
本編
ディアナに芽生えた想い
しおりを挟む紳士過ぎるリーンハルト殿下へのときめきが酷い。
「愛称で呼んで欲しいとか何なの?ヒーローなの?王子様なの?」
間違いなく乙女ゲームのメインヒーローで、この国の第一王子殿下だけれども。
それ以前に、相手に対し愛称で呼んで欲しいと望む事は別段珍しい事でも何でもない。勿論それは親しい者に限られるが、相手が己の婚約者であるならば尚更だ。
むしろ、今まで愛称呼びに切り替える機会さえ、全く与えていなかった事に問題がある。
「……リーンハルト殿下……」
アーベントルト公爵邸の私室にて、ディアナはベッドの中、枕を抱えてゴロゴロと悶えていた。
ディアナは三次元の男――――つまり、生身の人間である現実の男性が苦手だった。
前世で散々裏切られてきたからだ。
『二人の将来の為にお金を貯めていこう』
そんな殊勝な言葉を吐いた男は、まさかのギャンブル好きだった。
パチンコ、スロット、競馬、賭け事なら何でもござれ。将来の為に貯めていたお金なんて、あっという間に底を尽き、デート代やホテル代も全部こちら持ち。
挙げ句の果てには、借金まで隠していた。真正の馬鹿だった。
『俺にはお前だけだよ。愛してる』
そう言った男は、無類の女好きだった。
何度も浮気された。終いには、私が浮気相手で本命は別に居るとまで言われた。
そこまで言われてしまえば未練なんて欠片も無くなった。
真正のクズだった。
『お前を傷付ける奴は許さない。俺がずっとお前を守るから』
何言ってんだ。
むしろ、殴ってきたのはアンタでしょ。
ちょっと意見すれば、女が男に意見するなって、まさかのグーで顔を殴ってきた。
男尊女卑とか、時代錯誤も甚だしい。
暫くは怖くて耐えるしか無かったけれど、ある日ついに限界がやって来て、男の股間を蹴り飛ばし、警察署へ駆け込んだ。
痣だらけの私を見れば、どちらに非があるかは一目瞭然だった。
彼には前科もあったらしく、傷害罪でブタ箱行きが決まり、私は正当防衛が認められ、彼の親からはいくらかの慰謝料を貰った。骨を折るだとか、後遺症が残る様な怪我は無かったので、その事だけは幸運だった。
そこまでくれば、もう恋愛なんて懲り懲りだった。もう男なんていらない。
暫くは何も考えず、無心で仕事に励み続けた。
しかし、神様は何と無慈悲なのか。
次はストーカーに悩まされる事になってしまった。
毎日毎日、仕事の帰り道に後をつけられ、必死に男を撒いて家に辿り着けば、何やら小物の位置が変わっている。
しかも、下着が数点無くなっている事に気付いて、私は戦慄した。
また警察署へ駆け込んだ。
ここまでくれば、私はもう男性不信に陥っていた。
もう勘弁して欲しい。
一生独身で構わない。
しかし、その後も不幸は続き、突然連絡をくれた昔の友人とお茶をする流れになり、いざ会ってみれば『いい人を紹介するよ』等と言って友人だという男性を紹介された。
詐欺師だった。
昔の友人もグルだった。
私はまたもや警察署へ駆け込み、相談窓口の人にはすっかり顔を覚えられ、『本当に男運が無いね』と憐れまれる程だった。
現実の男はもういい。
そう思った私が、二次元の男性しか好きになれなくなったのは、もはや当然の成り行きだった。
二次元の男性は決して私を裏切らない。
優しくて、いつも守ってくれる。(架空の世界限定だけど)
現実の男に夢なんて見ない。
期待しない。
期待するだけ、後で絶望するからだ。
私自身にも原因があるのかもしれない。
そう思って、色々変えようと努力もした。浮気されるのは女としての魅力が足りないのかもしれないと思ってダイエットに励み、化粧や服装にも気を遣った。
ギャンブル好きだった彼には、好きなものを無理に止めさせるのは良くないと、頭ごなしに否定せず、毎月決めた金額内なら遊んでいいよと受け入れる姿勢も見せた。
結果は散々だったけれど。
暴力彼氏にも、なるべく彼の理想通りの彼女でいようと努力した。常に彼を立て、自分は一歩引いた場所に立ち、奥ゆかしく古風な女になろうと。
だけど、後になって気付いた。
そんな努力、いくらしたって無駄だったのだ。
こちらがどれだけ女を磨こうとも、浮気する奴は何度でも浮気する。
いくら金額の上限を決めても、そもそも堪え性が無いからギャンブルにハマるのだ。当然、上限なんて守るわけがない。
暴力を振るう奴は、自分が気に入らないと思えば、相手に非が無くても暴力を振るう。
世の中には、性格の良い男性だってごまんといるだろう。
でも、悉く男運の無かった私は、自分自身の相手を見る目に自信が持てなくなった。
男運も無いが、そんな男達にホイホイ引っ掛かった私は、チョロい女だったのだ。
すぐに絆され、騙され、恋してしまう。
だからこそ、リーンハルト殿下とも極力会わないように避けていた。
自分自身がチョロい女だと分かっていたからだ。
実際、私を嵌めようとした昔の友人も、学生時代を思い返し、私が一番お人好しでチョロそうだったからターゲットにしたと警察署で話していたらしい。
流石に神様も、私に対して罪悪感を抱いたのだろうか?
死因は覚えていないけれど、気が付くと、私は自分が好きだった乙女ゲームの世界に転生していた。
けれど、やっぱり神様はどこまでも残酷で、私はすぐに自分が悪役令嬢に転生してしまったのだと理解した。
最推しであるリーンハルト殿下の婚約者ディアナ。いずれはヒロインが現れ、リーンハルト殿下に振られる当て馬悪役令嬢だ。
私は絶望した。
神様は私に個人的な恨みでもあるのだろうか?
私は早々に諦めた。
今世では、最初から恋人なんて作らない。
一生独身でいよう。
リーンハルト殿下にも会わない。
うっかり絆されて恋をして、振られるなんて真っ平御免だ。
それに、この世界のリーンハルト殿下が、ゲームの中のリーンハルト殿下と同じ様に優しい人かは分からない。
極力会わなければいい。
そうすれば、うっかり恋してしまう事も、傷付く事も無いのだから。
(……ずっと、そう思ってた。だけど……)
リーンハルト殿下には、きちんと会わなければならなかった。
この世界、この国は、前世とは違う。
貴族令嬢として生を受けたなら、その義務を果たさなければいけなかったのだ。
何より、初めから否定してはいけなかった。
自分が同じ様に、ずっと相手に距離を置かれ、否定され続けたら、とてもではないが耐えられない。
なのに、彼は耐えてくれた。
こんな私を見限らず、諦めないでいてくれた。私を知りたいと、自ら歩み寄ってくれた。
だから。
「……私も、もう否定しない。リーン様を、信じるわ」
そう口にすると、自然と顔に熱が集まってくる。
ディアナの瞳には、甘やかな熱が芽生えている。
それは紛れもなく、恋する乙女の瞳だった。
* * *
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる