悪役令嬢は王太子の溺愛に気付いていない

はる乃

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本編

ディアナに芽生えた想い

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紳士過ぎるリーンハルト殿下へのときめきが酷い。

「愛称で呼んで欲しいとか何なの?ヒーローなの?王子様なの?」

間違いなく乙女ゲームのメインヒーローで、この国の第一王子殿下だけれども。
それ以前に、相手に対し愛称で呼んで欲しいと望む事は別段珍しい事でも何でもない。勿論それは親しい者に限られるが、相手が己の婚約者であるならば尚更だ。
むしろ、今まで愛称呼びに切り替える機会さえ、全く与えていなかった事に問題がある。

「……リーンハルト殿下……」

アーベントルト公爵邸の私室にて、ディアナはベッドの中、枕を抱えてゴロゴロと悶えていた。
ディアナは三次元の男――――つまり、生身の人間である現実の男性が苦手だった。
前世で散々裏切られてきたからだ。

『二人の将来の為にお金を貯めていこう』

そんな殊勝な言葉を吐いた男は、まさかのギャンブル好きだった。
パチンコ、スロット、競馬、賭け事なら何でもござれ。将来の為に貯めていたお金なんて、あっという間に底を尽き、デート代やホテル代も全部こちら持ち。
挙げ句の果てには、借金まで隠していた。真正の馬鹿だった。

『俺にはお前だけだよ。愛してる』

そう言った男は、無類の女好きだった。
何度も浮気された。終いには、私が浮気相手で本命は別に居るとまで言われた。
そこまで言われてしまえば未練なんて欠片も無くなった。
真正のクズだった。

『お前を傷付ける奴は許さない。俺がずっとお前を守るから』

何言ってんだ。
むしろ、殴ってきたのはアンタでしょ。
ちょっと意見すれば、女が男に意見するなって、まさかのグーで顔を殴ってきた。
男尊女卑とか、時代錯誤も甚だしい。
暫くは怖くて耐えるしか無かったけれど、ある日ついに限界がやって来て、男の股間を蹴り飛ばし、警察署へ駆け込んだ。
痣だらけの私を見れば、どちらに非があるかは一目瞭然だった。
彼には前科もあったらしく、傷害罪でブタ箱行きが決まり、私は正当防衛が認められ、彼の親からはいくらかの慰謝料を貰った。骨を折るだとか、後遺症が残る様な怪我は無かったので、その事だけは幸運だった。

そこまでくれば、もう恋愛なんて懲り懲りだった。もう男なんていらない。
暫くは何も考えず、無心で仕事に励み続けた。

しかし、神様は何と無慈悲なのか。

次はストーカーに悩まされる事になってしまった。
毎日毎日、仕事の帰り道に後をつけられ、必死に男を撒いて家に辿り着けば、何やら小物の位置が変わっている。
しかも、下着が数点無くなっている事に気付いて、私は戦慄した。

また警察署へ駆け込んだ。

ここまでくれば、私はもう男性不信に陥っていた。
もう勘弁して欲しい。
一生独身で構わない。

しかし、その後も不幸は続き、突然連絡をくれた昔の友人とお茶をする流れになり、いざ会ってみれば『いい人を紹介するよ』等と言って友人だという男性を紹介された。
詐欺師だった。
昔の友人もグルだった。

私はまたもや警察署へ駆け込み、相談窓口の人にはすっかり顔を覚えられ、『本当に男運が無いね』と憐れまれる程だった。


現実の男はもういい。
そう思った私が、二次元の男性しか好きになれなくなったのは、もはや当然の成り行きだった。
二次元の男性は決して私を裏切らない。
優しくて、いつも守ってくれる。(架空の世界限定だけど)
現実の男に夢なんて見ない。
期待しない。
期待するだけ、後で絶望するからだ。

私自身にも原因があるのかもしれない。
そう思って、色々変えようと努力もした。浮気されるのは女としての魅力が足りないのかもしれないと思ってダイエットに励み、化粧や服装にも気を遣った。
ギャンブル好きだった彼には、好きなものを無理に止めさせるのは良くないと、頭ごなしに否定せず、毎月決めた金額内なら遊んでいいよと受け入れる姿勢も見せた。
結果は散々だったけれど。
暴力彼氏にも、なるべく彼の理想通りの彼女でいようと努力した。常に彼を立て、自分は一歩引いた場所に立ち、奥ゆかしく古風な女になろうと。

だけど、後になって気付いた。
そんな努力、いくらしたって無駄だったのだ。
こちらがどれだけ女を磨こうとも、浮気する奴は何度でも浮気する。
いくら金額の上限を決めても、そもそも堪え性が無いからギャンブルにハマるのだ。当然、上限なんて守るわけがない。
暴力を振るう奴は、自分が気に入らないと思えば、相手に非が無くても暴力を振るう。

世の中には、性格の良い男性だってごまんといるだろう。
でも、悉く男運の無かった私は、自分自身の相手を見る目に自信が持てなくなった。
男運も無いが、そんな男達にホイホイ引っ掛かった私は、チョロい女だったのだ。
すぐに絆され、騙され、恋してしまう。

だからこそ、リーンハルト殿下とも極力会わないように避けていた。
自分自身がチョロい女だと分かっていたからだ。

実際、私を嵌めようとした昔の友人も、学生時代を思い返し、私が一番お人好しでチョロそうだったからターゲットにしたと警察署で話していたらしい。


流石に神様も、私に対して罪悪感を抱いたのだろうか?
死因は覚えていないけれど、気が付くと、私は自分が好きだった乙女ゲームの世界に転生していた。

けれど、やっぱり神様はどこまでも残酷で、私はすぐに自分が悪役令嬢に転生してしまったのだと理解した。
最推しであるリーンハルト殿下の婚約者ディアナ。いずれはヒロインが現れ、リーンハルト殿下に振られる当て馬悪役令嬢だ。

私は絶望した。
神様は私に個人的な恨みでもあるのだろうか?

私は早々に諦めた。
今世では、最初から恋人なんて作らない。
一生独身でいよう。
リーンハルト殿下にも会わない。
うっかり絆されて恋をして、振られるなんて真っ平御免だ。
それに、この世界のリーンハルト殿下が、ゲームの中のリーンハルト殿下と同じ様に優しい人かは分からない。

極力会わなければいい。
そうすれば、うっかり恋してしまう事も、傷付く事も無いのだから。

(……ずっと、そう思ってた。だけど……)


リーンハルト殿下には、きちんと会わなければならなかった。
この世界、この国は、前世とは違う。
貴族令嬢として生を受けたなら、その義務を果たさなければいけなかったのだ。

何より、初めから否定してはいけなかった。
自分が同じ様に、ずっと相手に距離を置かれ、否定され続けたら、とてもではないが耐えられない。
なのに、彼は耐えてくれた。
こんな私を見限らず、諦めないでいてくれた。私を知りたいと、自ら歩み寄ってくれた。

だから。



「……私も、もう否定しない。リーン様を、信じるわ」



そう口にすると、自然と顔に熱が集まってくる。
ディアナの瞳には、甘やかな熱が芽生えている。

それは紛れもなく、恋する乙女の瞳だった。



* * *
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