14 / 59
本編
罪人の行く末
しおりを挟む夜。王太子専用の執務室にて。
室内では、椅子に座って執務机に向かい、仕事をこなすフェリクスと、近衛としてフェリクスの護衛騎士をしているルードの姿があった。
フェリクスからの許しを得て、執務室へ足を踏み入れたばかりのルードは、扉が閉ざされた後に任務の報告から話を切り出した。
「フェリクス様。あの娘の処分が済みました」
「そうか。ご苦労だったな、ルード」
「いえ。……それと、ヤデル伯爵の件ですが」
「ああ」
「本日、拷問による取り調べが終了致しました。芋づる式に釣り上げた連中も含めて、後は刑の執行を待つのみとなっております」
「…………そうか。やっと……」
フェリクスは手にしていた別の案件の書類を執務机の上にパサリと置いてから、ゆっくりと顔を上げる。
その瞬間。
護衛騎士であり、シュゼットの拷問を任されていたルードが、自身の背中を走り抜けていくゾクリとした悪寒に肩を揺らした。
フェリクスから、尋常でない程の殺気が溢れていたからだ。
「……これでやっと、奴を裁ける。やっと………………」
――――やっと殺せる。
ルードはビリビリとした殺気を感じながらも、僅かに口角を上げた。
フェリクスが幼い頃からマリアンヌに夢中であったのは、ずっと知っていた。しかし、あと一歩のところでそれを強制的に捻じ曲げられて、愛していたマリアンヌは別の男の元へ無理矢理嫁がされ、奪われてしまった。
マリアンヌの相手が、優しい者であれば。
良識があり、マリアンヌを大切にしてくれる者であったなら、まだ救いがあったのに。
よりにもよって、相手はあのヤデル伯爵。若い女を好む好色家で暴力的な男。マリアンヌが手酷い仕打ちを受けていたであろう事は想像に難しくない。
実際、フェリクスの護衛騎士である近衛のルードは、ヤデル伯爵邸にて鎖で繋がれていたマリアンヌを目撃していた。視界の端に捉えただけで、不躾に見つめたりはしなかったが、あまりに白く、あまりに憔悴しきっているようにルードの目には映った。
愛する女が斯様な仕打ちを受けていたのだ。激昂せぬ方がおかしい。
「……ヤデル伯爵は領地にて、ここ数年悪政を働いておりました。今後、このような輩が出ないよう、見せしめとして公開処刑になさいますか?」
以前から領地内で、離縁した妻を人知れず始末しているのではないかという怪しい噂はあったが、ただの憶測に過ぎず、目撃者も居なかった為に、誰からも追及される事なく、噂の域を出なかった。
しかし、先代伯爵がコツコツ溜め込んでいた財が底を尽き始めると、ヤデル伯爵は伯爵領の税を上げて、民からお金を巻き上げ始め、悪政を敷いた。その頃からヤデル伯爵の黒い噂が他領へ流れ、社交界へと広まっていく。やがて人身売買にまで手を伸ばした伯爵は、欲に目が眩んで領内で行方不明者を急増させた。
その時には既に、フェリクスが完全に魅了の魔法から抜け出せていなかったにも関わらず、日夜ヤデル伯爵の調査に近衛騎士達と駆けずり回っていた訳で。
そうして、運良く拐われずに逃げ切れた者や、伯爵をよく思っていなかった者達から他領の領主経由で王家へ陳情書も届き、今回の件へと繋がった。
既にヤデル伯爵は爵位の剥奪と領地返還が決まっている。
けれど、当然領地の民はヤデル伯爵を憎み、恨みを募らせているだろう。
「ああ、公開処刑にしよう。領民の為にも」
マリアンヌの為にも。
「処刑の仕方はどのように?」
ルードの質問に、フェリクスはその青い瞳を氷のように凍てつかせて、淡々と告げた。
「地獄に落ちた後も二度と使えぬように、局部と四肢を切り落としてから首を切れ」
フェリクスの背後にある窓から差し込むは、青白い月明かり。
「御意」
ルードは処刑の仕方を告げたフェリクスに礼を取り、執務室から退席した。
馬鹿な事をしでかした連中は、どこまでも浅はかで愚かだなと思いながら。
* * *
39
あなたにおすすめの小説
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日
クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。
いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった……
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新が不定期ですが、よろしくお願いします。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる