【R18】傷付いた侯爵令嬢は王太子に溺愛される

はる乃

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本編

罪人の行く末

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夜。王太子専用の執務室にて。
室内では、椅子に座って執務机に向かい、仕事をこなすフェリクスと、近衛としてフェリクスの護衛騎士をしているルードの姿があった。

フェリクスからの許しを得て、執務室へ足を踏み入れたばかりのルードは、扉が閉ざされた後に任務の報告から話を切り出した。


「フェリクス様。あの娘の処分が済みました」
「そうか。ご苦労だったな、ルード」
「いえ。……それと、ヤデル伯爵の件ですが」
「ああ」
「本日、拷問による取り調べが終了致しました。芋づる式に釣り上げた連中も含めて、後は刑の執行を待つのみとなっております」
「…………そうか。やっと……」


フェリクスは手にしていた別の案件の書類を執務机の上にパサリと置いてから、ゆっくりと顔を上げる。

その瞬間。
護衛騎士であり、シュゼットの拷問を任されていたルードが、自身の背中を走り抜けていくゾクリとした悪寒に肩を揺らした。

フェリクスから、尋常でない程の殺気が溢れていたからだ。

「……これでやっと、奴を裁ける。やっと………………」


――――やっと殺せる。


ルードはビリビリとした殺気を感じながらも、僅かに口角を上げた。

フェリクスが幼い頃からマリアンヌに夢中であったのは、ずっと知っていた。しかし、あと一歩のところでそれを強制的に捻じ曲げられて、愛していたマリアンヌは別の男の元へ無理矢理嫁がされ、奪われてしまった。

マリアンヌの相手が、優しい者であれば。
良識があり、マリアンヌを大切にしてくれる者であったなら、まだ救いがあったのに。

よりにもよって、相手はあのヤデル伯爵。若い女を好む好色家で暴力的な男。マリアンヌが手酷い仕打ちを受けていたであろう事は想像に難しくない。
実際、フェリクスの護衛騎士である近衛のルードは、ヤデル伯爵邸にて鎖で繋がれていたマリアンヌを目撃していた。視界の端に捉えただけで、不躾に見つめたりはしなかったが、あまりに白く、あまりに憔悴しきっているようにルードの目には映った。

愛する女が斯様な仕打ちを受けていたのだ。激昂せぬ方がおかしい。

「……ヤデル伯爵は領地にて、ここ数年悪政を働いておりました。今後、このような輩が出ないよう、見せしめとして公開処刑になさいますか?」 

以前から領地内で、離縁した妻を人知れず始末しているのではないかという怪しい噂はあったが、ただの憶測に過ぎず、目撃者も居なかった為に、誰からも追及される事なく、噂の域を出なかった。
しかし、先代伯爵がコツコツ溜め込んでいた財が底を尽き始めると、ヤデル伯爵は伯爵領の税を上げて、民からお金を巻き上げ始め、悪政を敷いた。その頃からヤデル伯爵の黒い噂が他領へ流れ、社交界へと広まっていく。やがて人身売買にまで手を伸ばした伯爵は、欲に目が眩んで領内で行方不明者を急増させた。
その時には既に、フェリクスが完全に魅了の魔法から抜け出せていなかったにも関わらず、日夜ヤデル伯爵の調査に近衛騎士達と駆けずり回っていた訳で。
そうして、運良く拐われずに逃げ切れた者や、伯爵をよく思っていなかった者達から他領の領主経由で王家へ陳情書も届き、今回の件へと繋がった。

既にヤデル伯爵は爵位の剥奪と領地返還が決まっている。
けれど、当然領地の民はヤデル伯爵を憎み、恨みを募らせているだろう。

「ああ、公開処刑にしよう。領民の為にも」

マリアンヌの為にも。

「処刑の仕方はどのように?」

ルードの質問に、フェリクスはその青い瞳を氷のように凍てつかせて、淡々と告げた。





「地獄に落ちた後も二度と使えぬように、局部と四肢を切り落としてから首を切れ」





フェリクスの背後にある窓から差し込むは、青白い月明かり。





「御意」





ルードは処刑の仕方を告げたフェリクスに礼を取り、執務室から退席した。

馬鹿な事をしでかした連中は、どこまでも浅はかで愚かだなと思いながら。
 

* * *
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