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本編
誰にも攫わせない①★
しおりを挟む「フェリクス様、おかえりなさ……っ……んっ?!」
舞踏会が中断し、その日の会議が終わった後。
一足先に部屋で休んでいたマリアンヌの元へ、会議に参加していたフェリクスが帰ってきた。
フェリクスは早足でツカツカとやって来ると、やや強引にマリアンヌを引き寄せてから、その唇を塞いだ。
突然のキスに驚いて戸惑うマリアンヌを他所に、フェリクスは問答無用で深く深く口付ける。マリアンヌの呼吸全てを奪うかのようなキスは、何度も角度を変えて繰り返され、マリアンヌの身体はじわじわと熱を孕んでいく。
(フェリクス様……?)
長い睫を伏せて深く口付けてくるフェリクスには、いつものような余裕が全く感じられなかった。
フェリクスは焦っていたのだ。
舞踏会での、挨拶の時に、マリアンヌは王太子妃として完璧な振る舞いをしていた。けれど、一度だけ僅かに頬を染めた瞬間がある。
あの、シュナイゼルと対面した時だ。
しかもあの男は、未だにマリアンヌの事を諦めていないらしい。
既に結婚式まで挙げて正式な手続きも済ませて、マリアンヌはもうフェリクスの正妃となっているにもかかわらず。
書面や神への誓いなど、あの男には関係ないのだ。
もしもマリアンヌがあの場でシュナイゼルを拒絶していなければ、躊躇う事なく攫っていただろう。あの従者さえいれば、マリアンヌを瞬時に自国である帝国へ連れていく事など容易い事なのだから。
確かにマリアンヌは拒絶し、困惑し、今はまだここに居る。
だが、フェリクスは怖かった。どうしようもない恐怖心と焦燥感に襲われた。
マリアンヌがもしもシュナイゼルを選んでしまったら。
自分を捨てて、消えてしまったら。
マリアンヌを信じていない訳ではない。
これまでマリアンヌがフェリクスに紡いでくれた愛の言葉も、全てを真実だと分かっている。
分かっていても、フェリクスは不安に駆られた。
自ら手放してしまった日を覚えているから。
「ん……ふ、ぁっ…………ふぇり……っ」
息も絶え絶えに、マリアンヌの声が漏れる。その言葉さえ呑み込んで、フェリクスはマリアンヌの足が立たなくなるまでキスを続けた。
歯列や上顎をなぞりあげ、舌を絡めて、艶かしい水音を響かせると、マリアンヌが身体を震わせる。
やがて、しゅるりと衣擦れの音がして、パサリと上質な夜着が床へと落とされた。既に力が抜け切ってしまっているマリアンヌは、フェリクスにされるがまま、抱き上げられてベッドへと運ばれてしまった。
ギシッとベッドの軋む音。
組み敷かれ、このまま抱かれるのだと、そう思ったマリアンヌに反して、フェリクスはキスばかりを繰り返した。
「はっ……んん……っ♡」
残された唯一の砦である下着。
その下着であるショーツが、しっとり湿っていく。フェリクスは優しく掌でマリアンヌの身体を愛撫するも、一番核心的な部分にはなかなか触れてこない。
蕩けるようなキスに、マリアンヌがうっとりと瞳を潤ませて、両腕をフェリクスの首へと回す。
すると、フェリクスの大きな手が、焦らすように太股の内側を撫でていく。触れるか触れないかの絶妙な感覚で、つけ根に優しく指を這わされて、マリアンヌが身を捩って足を閉じようとするけれど、フェリクスの長い足に邪魔されてしまい、閉じる事が出来ない。
そうして、フェリクスの掌が、マリアンヌの秘処をショーツの上から優しく撫でた。
「……んんっ♡……ん、ふ♡」
更にじわりと濡れてきてしまい、マリアンヌは羞恥心でいっぱいになっていた。
(まだキスしかされていないのに、こんなに濡らしてしまっているだなんて……っ)
フェリクスに知られたくない。
知られたら、はしたないと思われてしまうかもしれない。
何度も何度もフェリクスと身体を重ねる内に、マリアンヌは酷く敏感で濡れやすい身体となってしまっていた。
フェリクスは内心で喜んでいたのだが、マリアンヌは濡れやすくなってしまった自分自身を恥ずかしく思ってしまっていた。
まるで、快楽を期待してしまっているようで。自ら欲しがっているようで、あまりに恥ずかしい。
濡れてしまっている事を隠したくて、マリアンヌがフェリクスの手を止めようと掴むけれど、当然フェリクスの手や腕はビクともしない。
フェリクスの手は先程までと同じ様に、自由にマリアンヌの身体を愛撫し続ける。
「はぁ……はぁ……♡」
漸く長く濃厚なキスが終わり、互いの唇が離れると、フェリクスはマリアンヌの額やこめかみ、目尻や頬にキスの雨を降らせていく。
「マリアンヌ……」
フェリクスに名を呼ばれるだけで、甘く痺れるような感覚を覚える。
「フェリクス様……?」
フェリクスはその青い瞳に獰猛な光を宿らせたまま、マリアンヌの形の良い耳朶を軽く甘噛みし、舌を這わせて中へと差し込んだ。くちゅくちゅと卑猥な水音とゾクゾクとした快感に、マリアンヌが甘い声を漏らして身体をビクビクと跳ねさせる。
「耳、だめ……」
「好きだろう?……マリアンヌの感じるところを、私は全部知っているよ」
「なっ……」
マリアンヌがカァッと顔を真っ赤に染めると、そこで今夜戻ってきてから初めてフェリクスが笑みを浮かべた。
その笑みに、マリアンヌの心臓が煩く高鳴る。
そして、触れられるだけで嬉しくて安心している自分に気付く。
「……今日のマリアンヌは、あまりに目の毒だった」
「え?」
「私の贈ったドレス、とても似合っていた。あまりの美しさに、私は見惚れて固まってしまったんだ」
「……っ」
まさかの告白に、マリアンヌはパクパクと口を動かしつつ言葉を失ってしまった。
フェリクスが自分に見惚れていただなんて、全く思いもしなかった。マリアンヌは焦りながら、ぶんぶんと首を振る。
「そ、そんな気遣いせずとも、大丈夫ですから……」
「気遣い?」
フェリクスがピクリと肩を揺らして、眉根を寄せた。
「むしろ、見惚れていたのは私の方です。フェリクス様はいつも格好よくて素敵ですけれど、今日はまた一段と……」
「マリアンヌ、気遣いなんかじゃない」
「……フェリクス様?」
「マリアンヌはまだ自分の魅力を理解していないんだね。君はとても魅力的な女性だよ。一人の女性としても、王太子妃としても。……心配になって、閉じ込めてしまいたい程に。」
「何を言っ…………ひあっ♡♡」
下着越しにぐっしょりと濡れた溝を指でなぞられて、電流のように甘い快楽がマリアンヌの身体の中を走り抜けた。
「やっ……待って……」
「待たない。……これまでも私なりに教え込んできたつもりだったけど、まだまだ足りなかったみたいだね」
「あっ、ああっ……♡フェリクス、さま……」
「沢山触れて、沢山教えてあげる。どれだけマリアンヌが魅力的で、どれだけ私が君の虜なのか。……マリアンヌ……」
私は君を手放せない。
二度とあんな思いはしたくない。
誰にも攫わせない。
* * *
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