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本編

二人のティータイム②

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マリアンヌは全て白状した。
仕事をこっそり手伝っていた事も、寂しいと思っていた気持ちも何もかも。

当然、フェリクスは蕩けるような笑みを浮かべ、マリアンヌをぎゅうぎゅう抱き締めてから、これからはもっと共に過ごす時間が必要だと言い募った。

しかし、それにはまず現状の改善が必要だ。
友好国の王族達を集めた舞踏会の事で普段より多忙を極めていた訳だが、舞踏会が中止した後も依然として忙しいままだ。
それらは一重に帝国のせいとも言える。

連日続いた各国との首脳会議。
その会議が終わり、友好国の王族達が自国へと帰還した後も、帝国と対等に渡り合えるようにと各国と決めた古の魔法の研究機関の設立も急ピッチで進めなければならない。
王宮魔法師達が管理している資料の他、今まで放置されていた魔法関連の遺跡にも調査団を派遣しなければならず、通常の執務や公務以外にもやることは山積みであった。

二人の時間を確保出来るようになるのは、当分先の事になりそうだとフェリクスが肩を落とす。
すると、マリアンヌが何か思い付いたように顔を上げた。

「暫くの間、執務を同じ部屋で行うのはどうでしょうか?それならば、お互いの顔をいつでも見れますし、お茶だって一緒に飲めますわ!」

キラキラと瞳を輝かせるマリアンヌの破壊力は凄まじく、フェリクスはガバッと襲い掛かりそうになる己を必死に抑えつけ、煩悩を頭の隅へと何とか追いやる。

「…………かっ…………」
「か?」

コテンと首を傾げて見上げてくるマリアンヌに、フェリクスは身体をふるふると震わせた。

(か、可愛すぎて死んでしまう……!!マリアンヌに殺されるのならば本望だが、それでは抱き締める事も出来なくなってしまうし……私は一体どうしたら……?!)

フェリクスが幸せな悩みに頭を抱えていると、マリアンヌは自分が出した案に悩んでいるのだと思い、しゅんとした顔になる。

「申し訳ありません。やっぱり無理ですよね……」
「え?」
「もしも書類が混ざってしまったりしたら大変ですし、何より気が散ってしまいますよね……?」

その言葉を聞くなり、フェリクスは焦った顔をして、慌てて返答を口にした。

「いや、名案だと思う!私の執務室は広いし、仮眠が取れる続き部屋もあるから全く問題ない!明日の朝早くから早速マリアンヌ用の机や必要なものを運び込もう!!」
「!……ありがとう存じます、フェリクス様!」
「?!」

ぎゅうっとマリアンヌから抱き締め返されて、フェリクスは耳まで赤く染めながらビシリと固まってしまった。
普段、自分からはグイグイ攻めるフェリクスだが、受ける側になってしまうとめっぽう弱い。
フェリクスは今にも湯気が立ち上ぼりそうな程に真っ赤になりつつ、弱々しい顔をして、マリアンヌの額に自身の額をコツンと合わせる。

「フェリクス様……?」
「……可愛すぎるのも問題だな……」

あまりに近いフェリクスとの距離に、マリアンヌも頬を朱に染めた。
そして、よく聞こえなかったフェリクスの小さな呟きに「え?」と返すと、耳元に甘やかな低い声音を流し込まれる。



「キスしたい」



マリアンヌの心臓がドクンと跳ねた。

「あ、あの、フェリ……」
「黙って」
「……っ」

唇に触れた、柔らかな温もり。
最初は触れるだけだったのに、次第に啄むようなキスになり、最後には呼吸さえ呑み込んでしまうかのような深く濃厚な口付けへと変わっていく。

マリアンヌはうっとりと瞳を蕩けさせ、頬を上気させて甘い吐息を零しながら、おずおずと愛しいフェリクスの首に両腕を回す。
そんなマリアンヌに愛おしさを募らせて、フェリクスは既に知り尽くしているマリアンヌの口腔内を、角度を変えて余すことなく味わい尽くしていく。

サロンに響く、淫猥な水音と甘く荒い息遣い。
部屋の外には護衛の近衛騎士達も待機しているのに、二人は夢中になって互いの唇を貪りあった。

流石にそれ以上先の行為には及ばなかったけれど、焦がれるような想いと、疼く情欲の熱を身体に抱えた二人は、なかなか抱き締め合う手を離す事が出来なかった。


……………………
…………


後ろ髪引かれつつ何とか離れたフェリクスとマリアンヌは、残りの仕事を早々に片付けるべく、互いの執務室へと戻った。

王太子宮、フェリクスの執務室にて。
執務机の上に、山のように積まれている書類の間で、フェリクスが珍しく「はあぁぁぁ」と気の抜けた溜め息を吐いた。応接用の机の方で書類を仕分けしていたジェルドが、そんなフェリクスを見て「どうかなさったのですか?」と問い掛ける。

「マリアンヌが可愛すぎてな……」

ルードだったら半眼になって適当に受け流すところだが、真面目なジェルドはうんうんと神妙に相槌を打って同意する。

「間違いないですね!フェリクス様のお仕事を内密にお手伝いしたいと仰られた時も、とてもお可愛らしゅうございました!」
「そうだろう、そうだろう。私の仕事をな…………………………?!」
「陛下から許可をお取りになる前に、フェリクス様が他人に仕事を任せたくないタイプなのかどうかご心配になられたようで、私に確認しに来て下さったのです。細やかな部分にも気をお遣いになられて、王太子妃殿下は実に出来た御方であると感服致しております!」
「き、聞いてないぞ、ジェルド!何故私に報告しなかった?!」

フェリクスの質問に、ジェルドは悪びれもせず、当然のようにしれっと答えた。

「内密にと言われましたので。」
「~~~~っ」

そこは主人である自分に報告すべきところだろう。
まぁ、報告を受けていたらマリアンヌに無理しないようにと、陛下の許可を取り付ける前に止めに行っていたかもしれないが。

自分の知らないところで、自分の近衛騎士であるジェルドがマリアンヌと秘密の共有をしていた事に、フェリクスはガックリと脱力して整った顔を机に突っ伏したのだった。

「……断じて、断じて羨ましくなんか……!」

羨ましいっ!!


* * *
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