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本編
大粒の涙
しおりを挟む「……お久しぶりですね、アリス嬢。まさかこんな所でお会い出来るとは思ってもみませんでしたよ」
騎士団長子息にして、フィリップ殿下の幼馴染。夜空のような髪に金色の瞳をした、レジナルド・ブルストロード。
前に会ったのは、貴族学校へ通う前。学園に入学してからは運が良かったのか分からないが、全く一度も会わなかった。出来ればこのまま一生会いたくないと思っていたけど……
「……お久しゅうございます、レジナルド様」
私は座っていたベンチから立ち上がり、ワンピースの裾を摘まんで礼をした。顔を上げてみると、レジナルド様は「そんなに畏まらなくていいですよ。俺と貴女の仲でしょう?」等とほざきやがった。
どんな仲だよコラ。
数年ぶりに会ったレジナルド様は、アルやフィリップ殿下同様に大きく成長していて、背は180㎝前後と思われる。お顔も大変凛々しく、やはりかなりのイケメン様である。
「……また随分とお美しくなられましたね。成程。殿下が入れ込むわけだ」
「ご冗談を」
「冗談?そうやっていつまでも誤魔化していられるとでも?いい加減、殿下のものになれば良いのに」
誰がなるかあああああっ!!
フィリップ殿下なんてこれっぽっちも………………いや、確かにちょっとだけ揺れた時もあったけど。でも私は殿下のものになる気はないんだから!!
そう思って思わず睨み付けると、レジナルド様は口角を上げてニヤリと笑った。
「やはりアリス嬢はいいな。その瞳がとてもそそる。殿下が嫌なら、俺のものにならないか?」
「……っ!」
いつかのように顎を掴まれそうになって、私は身構えた。けれど―――
次の瞬間、私の視界からレジナルド様が消えた。
鍛練をしていたマックスがレジナルド様に気付いて、私を抱き寄せると同時に、レジナルド様を蹴り飛ばしたからだ。
吹っ飛んだレジナルド様は、地面に叩きつけられるかと思いきや、流石に鍛えているだけあって、くるりと綺麗な受け身を取った。片膝をついた状態で上半身を起こし、マックスを金色の瞳で鋭く射抜く。
「いきなり何をするんだ、マクシミリアン」
「それは此方の台詞だ。気安くアリスに触るな、レジー。アリスが妊娠したらどうするつもりだ」
待って。状況に頭が追い付かないんですけど。マックスに抱き締められてて何も考えられないっ!!
「おかしな事を言う。触れただけで妊娠などする訳ないだろう」
「いーや、お前は何か出してる。絶対に駄目だ!」
「マクシミリアンもアリス嬢に触れているじゃないか」
「はあ?何言って…………………………?!す、すまない、アリス!咄嗟の事とはいえ……!」
無意識だったの?!
大胆だな~とは思ってたけど!!
「いえ。あの、また助けてくれましたね。ありがとう、マックス」
「?!」
私がにっこり笑ってお礼を告げると、マックスはまた顔を赤くした。
あれ?なんかモヤモヤする。
「……マクシミリアンもですか。アリス嬢には、もうあの効果はついてないと言うのに」
おまっ?!
あの効果って魅了の魔法の事?!
まさかマックスに話したりしないよね?!
レジナルド様の言葉に、ついビクリと反応してしまった私を見て、マックスが訝しげな顔で「あの効果とは何の事だ?」とレジナルド様に質問した。
すると、レジナルド様はまたしても腹の立つ笑みを浮かべて、チラリと私に視線を向けてから答えた。
「マクシミリアンは知らなくていい事だよ。ねぇ?アリス嬢」
「……っ!」
―――こいつ!!!
こいつこいつこいつこいつこいつっっ!!!
ないわっ!!こいつ本当にないわっ!!!どんだけヤバイ秘密か知ってるクセに、そーゆう事言う?!
「……そうなんですか?アリス」
ああああああああああ!!!
マックスが疑うような眼差しで私を見てるううう!!
馬鹿っ!!この悪魔っ!!せっかく出来た友達なのに嫌われたらどうしてくれるんだよ!!!
「ち、違……」
「レジーは知っているのに、俺は駄目なんですか?」
「そうじゃなくて……」
「…………いえ、少々図々しかったですね。すみません。友達になったとはいえ、話せない事もあるだろうに」
「マッ……」
「でも、少し残念です。俺よりも、レジーと親しかったとは……」
―――違う。
違うよ。
違う。全然違うの。親しくなんかない。あんな奴と、親しくなんかないの。
やだやだ。やだよ、マックス。
誤解しないで。私、本当に―――
「アリス?」
「……アリス嬢?」
―――え?
気付くと、私の瞳からは未だかつてないくらいに、大粒の涙がボロボロと零れまくっていた。
* * *
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