【R18】乙女ゲームの主人公に転生してしまったけど、空気になれるように全力を注ごうと思います!!

はる乃

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本編

氷雪の魔法師*騎士団長side*

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「正直に申し上げましょう」


その魔法師は滔々と話し出した。


「私が可愛くて可愛くて仕方がないと思っている教え子はアリスお嬢様ただお一人だけなのです。他は全て有象無象。私にとっては何の価値もない、ミジンコ同然です」


やけに整った顔立ちのその魔法師は、深緑の瞳にモノクルをかけていて、アッシュグリーンの長い髪が風に靡いている。


「ですが、アリスお嬢様からの頼み事です。そんな美味しい話をこの私が断るか否か。答えは否です。当然引き受けます。……だから」





「協力してくれますよね?ブルストロード卿」





「ひぃ!!は、離せ!!離してくれっ!!」


その魔法師―――ニール・コドウェルは今、レジナルドの父親であるユーニーリア・ブルストロードの首根っこを掴んで、強風吹き荒れる王城てっぺんの突端の上に立っていた。


* * *


―――なんだ?


「離していいんですか?私は別に離してもいいんですけどね」


何なんだ、こいつは?!


「き、貴様!その面!確か特務隊の奴だな?!この俺にこんな事をして、ただで済むと思っているのか?!」

「済むと思ってますけど」


然も『当たり前でしょう?』といった顔をしている魔法師を見て、俺は怒りを募らせた。
大体なんで俺はこんな若造に首根っこ掴まれて、こんな所にいるんだ?!騎士団詰所で書類を見ていた筈なのに!!

何がどうしてこんな状況に?!
しかも相手は魔法師だ!!どう見ても少し鍛えただけの、愚鈍で鈍間な魔法師のクセに、何故俺を見下して上から見ているんだ?

俺の方が遥かに勝っている筈なのに、なんと愚かで無礼な奴め!!!


「ふざけるな!!済む筈ないだろう?!早く地上に降ろせええええ!!!」


俺がそう言うと、ずっと真顔で話していたその男の瞳が、一瞬青白く光った気がした。
もともとの色は深緑か?昼間でもないのに、光る筈がない。きっと俺の見間違いだろう。……その時の私はそう思っていた。


「……口の聞き方がなってませんね。状況分かってます?貴方なんて、いつでも殺せるんですよ?」

「なっ……?!」

「参りましたね。貴方は魔物より頭が悪いようだ。少しだけレジナルドに同情したくなりましたよ」

「レジナルドだと?……まさか、このふざけた茶番はレジナルドが?」

「違いますよ。全然お話を聞いてなかったみたいですね。……穏便に説得しようと思った私が馬鹿だったようです。手、離しますね。さようなら、ブルストロード卿」


こいつ、イカれてやがるっ!!!
目が本気だ!!


「ま、待て待て待て!!悪かった!!ちゃんと話を聞くから、もう一度話してくれ!!」

「…………ちゃんと聞く、だけでは足りないです。ちゃんと聞いて、私に協力すると確約して下さい。でないと……」

「わ、分かった!確約する!!確約するから助けてくれ!!」

「いいでしょう。言質は確かに取りましたからね」


この男に何の得があるのか、よく分からないが、内容はネルファスとその息子に手を出すなというものだった。
黒幕であるアリスお嬢様とやらは誰なんだ??とりあえず命が惜しい俺は、地上に降ろしてもらえるまで従順なフリをしようと決めた。騎士団長であるこの俺に、こんな事を仕出かしたのだ。もはやこいつは逆賊以外の何者でもない!!

地上に着いたら目にものを見せてやる!!!


奴が俺の首根っこを掴んだまま、ゆっくりと浮遊魔法で下降し、あと少しで城の上部にある壁上歩廊に着きそうだと思った瞬間―――

俺は剣を抜いた。


咄嗟に俺から手を離した奴に、周囲の風を纏わせた、重たく鋭い一撃を放つ。魔法は苦手だが、剣の腕ならば勿論自信がある。

魔法師如きに遅れなど取らんっ!!


しかし、俺の渾身の一撃は何故だかあっさりとかわされてしまった。魔法師如きが、この俺の剣の速さについてこれる筈がない。何かの魔法だろうか?一撃目が駄目ならと、今度は斬撃を繰り出した。斬撃ならば防ぎようがない筈だ。

しかし、またも俺の攻撃はかわされた。どういう事だ?何故当たらない??

一度後方へ跳んで距離を取ったと見せ掛けてから、間髪いれずに距離を詰めて懐に入ってやる!詠唱が必要な魔法師は、懐に入ってしまえばこっちのものだ!!

……だが、奴は俺が知っている鈍間な魔法師ではなかった。そもそも騎士団長である俺を捕まえる事自体、本来であれば、鈍間な魔法師には不可能だ。焦るあまり、気付くのが遅れた。奴は普通の魔法師ではない。

そんな普通ではない魔法師の懐に、俺は自ら入ってしまったのだ。剣は通らず、身体も動かない。

奴の瞳が、身体が、青白く光を放っていて、目も逸らせない。


「距離を取らず、迷わず懐へ一撃を入れようとしたのは良い判断です。普通の魔法師ならば負けていたでしょう。流石は王国騎士団長ですね。ですが……」


刺すような痛みが身体中に走っていく。これは相手を生きたまま氷漬けにする高位魔法。


停滞する氷アイスフリージングスタグネイション


そうだ。奴は特務隊でも特に異質な存在。ダラスの奴がずっと始末したがっていた【氷雪の魔法師】と呼ばれる天才魔法師。

名は、確か……ニール……コドウェル…………………………



そこで俺の意識は無くなった。


* * *


「おやすみなさい、ブルストロード卿。大丈夫、貴方程度・・・・の後釜ならばすぐに見つかりますよ。安心して下さい。良い夢を」


氷漬けにした騎士団長に礼を取り、ニール・コドウェルはひらりと夜空に飛んだ。そのまま王城内にある魔法師団の仕事場へと向かい、小さく溜め息をつく。


「また始末書を書かないといけませんね。……まぁブルストロード卿は生きているし、幸いにも少しは使えそうな息子レジナルドが居ますから、そこまで叱られはしないでしょう。さて、これで無事に解決。嗚呼!アリスお嬢様は私を褒めて下さるだろうか?今から楽しみで仕方ありません!!」


アリスの事を考え、ニールの顔に恍惚とした笑みが浮かぶ。あまりの高揚感につい魔力を放出し過ぎて、ギュンギュンと風を切って飛んでいく。

その頃。ニールに今回の件をお願いしたアリスは、学園にある女子寮で気持ち良さそうに眠っていた。

まさか頼んだその日の夜に解決してしまったとは、夢にも思わずに。
そうして明日、アリスはニールへ与えるご褒美の事で、頭を悩ませる事になるのだった。



* * *

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