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本編

俺は煩悩なんかに負けない!!*マクシミリアンside*

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婚約式を行ってから数日。
あれから特に何の問題もなく、平和な学園生活を送っている。
あの後、俺としてはリトフォード卿とアルに対する言い訳が何も思い浮かばなくてかなり焦りはしたが。

何故なら、原因は偏に、俺の堪え性が無いのが問題だからだ。

世の男達はどんな鋼の精神を持っているのだろうか?俺は我慢しようと思っても、あまりにアリスが可愛すぎて、すぐに触れたくなってしまう。


「マックス?どうしたの?」


今では昼休憩となると、すっかり俺とアリスの定番となってしまった訓練場の裏手。そこで弁当を広げながら、アリスが可愛らしく小首を傾げて俺をじっと見つめる。

それだけで、馬鹿な俺はドキッとしてしまう。かなり重症だ。


「……アリスが今日も可愛いなと思って、つい見惚れてました」


俺は何だか恥ずかしくて、けれど嬉しくて、微笑みながらそう答える。
すると、アリスは顔を赤く染めて、俺から目を逸らした。


「またそんな事ばっかり言って……でも、その、嬉しいです」


顔を赤くしたアリスも、凄く可愛い。こんなアリスと婚約出来たなんて、まるで夢みたいだ。

アリスが、またチラリと俺の方を見て、くすっと笑いながらハンカチで俺の口元を拭ってくれる。


「マックスって、たまに子供みたい。口元についてましたよ」


……今日の俺の昼食は、学園の購買で買ったサンドイッチだ。普通の貴族の令嬢は、口元に食べかすをつけてしまうような、行儀の悪い男は好きじゃないだろう。
だけど、アリスは笑ってくれる。何の躊躇いもなく、拭ってくれる。

そんな彼女の表情や行動のひとつひとつが、俺には堪らなく愛おしくて、毎日毎日募っていく。
アリスへの、愛おしい想いが。


「……アリス」

「なあに?」

「普段は我慢します。絶対に我慢しますから。だから……」

「??」

「今、少しだけ…………」


?!
今、俺は何を口走ろうとしている?
堪え性の無いのが駄目だと分かっているのに、今また少しだけアリスに触れようとしていた!!

こんなんじゃ駄目だ。
煩悩を捨てろ、マクシミリアン。
今日の鍛練で素振りを500回追加しよう。


「マックス??少しってなあに?」

「いえ、なんでもありません」

「そうなの??」

「はい」


俺は何とか誤魔化して、昼食のサンドイッチを食べ終えた。昼食の後は、いつも少しだけ他愛の無いお喋りを楽しんで、それから互いの教室へと戻る。

アリスと同じクラスだったら良かったのに、この時の別れが何故だか無性に寂しくて辛い。
俺がそんな事を考えていたせいか分からないが、アリスが何か言い難そうに、俺の方をチラチラと見てくる。

なんだ?


「アリス?」

「あのね、マックス。その、ひとつお願いが……」

「なんでしょう?」


俺はまたドキッと胸を高鳴らせる。
アリスが頬を染めて、何かお願い事をしてくるなんて珍しい。


「俺に出来る事なら何でも……」

「その、少しでいいからぎゅっとしてもらってもいいですか?」

?!
アリス?

「はしたない事を言ってるって、分かってるけど、昼休憩ってすぐ終わっちゃうし……」

……もしかして、アリスも寂しいと思ってくれているのだろうか。

「……駄目ですか?」


全然駄目じゃない。

駄目じゃない、が……
いいのか?
これはいいのか?アリスから言ってきてくれたのをいいことに、結局俺は己の煩悩に負けてしまっているんじゃないのか??

アリスにも俺の堪え性を改善させる為に、協力してもらった方がいいかもしれない。
アリスには悪いが、このままでは俺の理性が危うい。騎士道的にも、もっと己に厳しく―――


「マックス……?」

「……っ」



気付いたら、俺はアリスを抱き締めていた。


「アリス。……涙まで溜めるのは反則です」

「だって、はしたない事を言ってしまったから、マックスに嫌われちゃったのかと……」

「嫌いになんかなりません。……なる訳ない。好き過ぎて、いつもおかしくなりそうなんですから」

「ひえっ」

「……アリスが不安になるなら、いくらでも抱き締めます。色々考えてましたが、アリスを不安にさせるくらいなら、抱き締めたって己を律してみせます」

「つまりどうゆう事??」

「……アリスは何も心配しなくて良いという事です。ただ、前にも言いましたけどあまり無防備なのは駄目ですからね」

「え?!あ、色々って……!ああ、うん、はい。わ、分かりました」

「……まだ学園生活が2年以上残っていますからね」

「ふふ」

「アリス?」

「マックスがあんまりにも真剣な顔で言うから面白くて」

「……俺にとっては大きな問題ですよ。正直言うと、今もキスしたくて堪りません」

「?!」

「ですが、今は我慢します。一番大事なのは、アリスですから」


男とは悲しい生き物だ。
どうしても求めてしまう、馬鹿で愚かな生き物だ。
それが分かったからこそ、俺はそれに抗わなければならない。

俺は俺の腕の中に居る愛しい人を、加減しつつもぎゅうぎゅうと抱き締める手に力を籠めた。


「俺は煩悩なんかに負けない……!」


思わず俺がそう口走ると、アリスは可愛らしく笑って、俺の頬にちゅっとキスをした。


「頑張るマックスにご褒美」

「~~~くっ!!」


頑張れ、俺の理性!!
俺は煩悩なんかに負けない……!!



* * *
 
                                                                                                     
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