【R18】乙女ゲームの主人公に転生してしまったけど、空気になれるように全力を注ごうと思います！！

本編

知らない名前

「今まで一緒に寝てたのに、どうして駄目なの？」


ハドリー伯爵領からリトフォード侯爵領に戻った日の夜。
実家であるリトフォード侯爵家の自室で、私とクロは譲れない攻防を繰り広げていた。


「駄目なものは駄目なの。今まで有耶無耶にしてきたけど、クロは一応男の子でしょ？狼の姿でも、一緒に寝るのは駄目」

「狼の姿なら、僕はただの愛犬でしょ？」

「いや、確かに愛犬なんだけども……」

「アリスが望むなら、子犬の姿にしようか？」

「うぐっ！……だ、駄目駄目駄目！めちゃくちゃ可愛いけど、でも…………いやいや、駄目ったら駄目！！」

「…………そんな…………」

「？！」


超絶美青年のクロがめちゃくちゃしょんぼりしてる。
え、何これ。
私が悪いの？私が苛めたの？？
いやいや、私はおかしくない。おかしくない、はず。

だってさ。
よく考えてみれば、いくら普段は獣の姿でも、人間の姿になったらこんななんだよ？
こんな……………………………………………

うん。
あんまり直視すると鼻血でそう。
それくらいヤバイイケメンなの。夜の神様だって言われたら信じちゃうくらいヤバイのよ。

だからね、やっぱり一緒に寝るのは良くないの。


「クロ。悪いけど、これは譲れな……」

「好きだって言ってたのに」

「……え？」

「僕の耳とか尻尾とか、好きだって言ってたのに……」

「うん、それは今でも好きだよ？あのね、クロ。別に嫌いになった訳じゃ……」

「……同じ魂でも、その時その時で人は変わる。でも、僕は信じているんだよ。信じて、ずっと待ってるんだよ」

「クロ……？」

「また僕を一番だと言ってくれる君が生まれてくるのを、ずっとずっと……」

「……っ？！」


クロの言葉に一瞬何かを思い出しかけて、突然グラリと視界が揺れた。頭が割れそうなくらいに痛くて、両手で頭を押さえる。
そんな私を見て、クロは焦ったように私との距離を詰め、そっと私の額に触れた。

すると、驚く程に頭の痛みが引いていく。私を見つめるクロが、本当に泣きそうなくらい心配そうな顔をしていて、私はその瞳を知っている気がした。


『　　　　』


痛みが引いていくと共に、だんだんと薄れゆく意識の中で、私は『誰か』の名を口にしたけれど、目覚めた時には何も覚えていなかった。


「アリス……」


＊ ＊ ＊