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本編
ギルバート・デラクール
しおりを挟むあれから一月程経った。
経ってしまった。
クロはやっぱり影からは出られず、影伝いに術者を追っているようだ。一月もかかるなんて、相当遠くにいるのかとも思ったけど、水鏡通信でフィーからファイスに訊いてもらったところ、距離の問題だけではないらしい。術者は追跡者が自分に辿り着けないように、様々な罠を仕掛けているのだとか。
罠だなんて聞くと、ますますクロが心配になってくる。
マックスとも、ずっと会えていない。不謹慎だよね。分かってる。分かってるけどさ…………
「寂しいよおおおお」
放課後になり、アルに先に帰って欲しいと伝えてから、私はよくマックスとお昼ご飯を食べたりしていた訓練場の裏手に来ていた。
切株の椅子に座って、思わず「寂しい」と口をついて出てしまう。
だって寂しいものは寂しいんだもの!!夏期休暇中なんて、毎晩音声通信でおやすみ言い合ってたのに、今はそれも無いんだよ!!
クロも居ない。
マックスにも会えない、話せない。
私に出来る事って待つだけなの?
待つ以外になんか出来ないの?
ニールたんに聞いても呪いの事以外は教えてくれないし。
術者って誰?目的は何なの?
ファイスに訊いても、クロを待てってそればっかりだし。
「何にも分かんないのって、余計に不安で辛いんですけど。……マックス……マックスに逢いたい。前みたいにぎゅうぎゅうして欲しい…………」
ここに来れば、マックスが来てくれるんじゃないかって期待して。
でも、マックスは来なくて。授業が終わった後、すぐに隣のクラスに何度も突撃したけど、既に居ないし。朝は待ち伏せしてもギリギリで来ているみたいで顔も見れないし。
そこまで徹底して避けなくてもいいんじゃない?!誘惑の呪いに負けないようにとか、己を戒めたいとか、いかにもマックスらしいよ?!マックスらしいけども!!
「マックスの馬鹿!真面目馬鹿!!騎士道馬鹿!!!」
「……聖女様?」
?!
やばっ誰かに聞かれた?!
というか、もしやマックス?!
思わず期待して振り向くと、そこに居たのは全然マックスじゃなかった。そうだよね。マックスは私の事を聖女なんて呼ばないもの。
「……泣いているのですか?」
「え?!あ、いえ、これはその……」
私は気まずさからつい俯いて、滲んだ涙を拭おうとしたら、目の前にスッと白い指が迫ってきた。
驚いてビクリと肩を揺らすと、迫ってきていた指がピタリと静止した。
「申し訳ありません。涙を拭おうとしたのですが、驚かせてしまいましたね」
「あっ……いえ、謝らないで下さい」
「……拭っても宜しいですか?」
「え?」
「失礼致します」
そう言ってその人は、私の涙を優しく指で拭ってくれた。
よく見てみると、その人はとても端整な顔立ちをしていた。瞳はルビーのように赤く、長い髪は雪のように白くて。まるで……
「アルビノみたい」
「あるびの……?それは何ですか?」
はっ!しまった!!
つい口に出していた!!
「い、いえ、あの…………っ?」
「嗚呼……!聖女様の涙は、とても美味しゅうございます」
?!!
ちょ、待っ…………
え?何これ。え?どゆこと??
まさか魅了の魔法のせい?
微々たる効果だって聞いてたけど、この人目が、目がさ、恍惚としてるんですけど。
めちゃくちゃチョロい人??
いやいや、それよりやばくない?
なんかこの人、目がやばくない?
目元赤いし。
顔近くない?え、近い近い。近いよ。ま……
―――まずい。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
私は近付いてくる彼の前に両手を突き出そうとするが、震えてしまって力が入らない。
……自分の身もろくに守れないなんて。
私はどれだけ役立たずなの?
「は、離れて……近いです!離れて下さ…」
「怖がらないで下さい、聖女アリス様。私は今この時より貴女の従順な下僕。そして聖教会が貴女と結ばれても良いと認める、唯一の男」
「聖……教会……?わ、私の婚約者はマクシミリアン・ラジアーネで……!」
「自己紹介がまだでしたね。私はギルバート・デラクール。デラクール伯爵家の嫡男で、聖教会の猊下は私の叔父なのです。昔から私の事を気に入って下さっている」
「……っ?!」
私の両手を、その細くしなやかな手で容易く拘束し、ギルバートと名乗る彼は恍惚とした顔で、嬉しそうに私との距離を縮めてくる。
私は何か魔法を使わなくちゃと思って防御魔法を口にした。
「わ、我を守れ!!物理障壁!!」
―――パキンッ!!
「な?!」
「酷いですね。何故、私に対して防御魔法を?……残念ですが、私に魔法は効きません。私がただ甥というだけで猊下に気に入られているとでも?私はユニークスキル持ちなのです」
「ユニーク……スキル?」
転生小説あるあるの?
「魔法効果無効。私の赤い瞳は、全ての魔法効果を無効にする。だから……」
「ひ、あ……?!」
「私の前では、貴女はただのか弱い令嬢なのです。聖女である尊い貴女が、私の前ではただの可愛らしい愛すべきたった一人の女性」
首筋をぺロリと舐められて、背筋に悪寒が走った。
ギルバートは私の両手首を片手で拘束し直し、空いた方の手で私の制服のボタンを外し始めた。
私の顔色は一気に青褪めて、恐怖で心がいっぱいになる。
あれ?前にも確か―――
「貴女が傷モノになってしまえば、貴族の男なんてそれだけで貴女を捨てるでしょう。傷モノの令嬢なんて誰も欲しがらない。……私だけが、貴女を愛する男になる」
耳元で囁かれた言葉は、まるで悪魔のように黒く冷たく、私の心をヒヤリと抉る。
ここでこの男に犯されてしまったら、マックスは私を捨てるの?
「……止めて……」
「その潤んだ瞳、堪らなくそそります。大丈夫、何も怖くなんか―――」
「アリス!!!」
「?!」
次の瞬間、私の視界からギルバートが消えた。思い切り殴られて吹っ飛んでいったからだ。
魔法効果は無効化出来ても、物理攻撃は普通に有効だったらしい。
ギルバートを殴った彼は、追撃をしようと身体強化で地面を蹴り、吹っ飛んでいったギルバートの元へ大きく跳躍した。着地と同時に、起き上がりかけたギルバートの頭を片手で押さえつけ、躊躇うこと無く鳩尾に鋭い一撃を叩き込む。
「ガハッ!!!」
ギルバートが苦痛に顔を歪め、身を捩って抵抗しようとするが、反撃する隙など微塵にも与えられず、数回殴られてから、ギルバートは意識を失った。
かなり悲惨な事になっているかと思ったが、ギルバートは初撃以外、身体強化した身体で受けていたようで、頬の怪我以外は然程酷い怪我ではなさそうだった。
そうして、へたり込んで放心している私を、彼―――マックスが抱き締めた。
* * *
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