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出会い
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“地味っ子メガネ”それが当時の私のあだ名だった。
二つに分けて結んだ髪にメガネをかけた私の姿は、男子にはあまりお気に召さないようだった。
男子には毎日のように絡まれ、女子には影で笑われる。そんな学校生活をうんざりと感じていた。
私だって、もっとおしゃれしたい、遊びたい。それくらいの欲求はある。
両親が残してくれた遺産を使えば、それらのことができてしまうのだろうが、果たしてそんな事に使ってしまっていいのだろうか?そんな疑問が頭を埋め尽くし、使うことを躊躇してしまう。
なら、バイト?いや、中学生を雇ってくれるところ
なんてない。あるとすれば……
きごう
ある日、学校の創立記念日で平日だが休みになった。
私は、朝早く起きて、前に家に来た男の息子のもとへ行く支度の準備をする。
寝癖のついた髪をくしで梳かして、知らない土地と同学年の男の子に会うんだ。私は今できる最高のおしゃれをした。
季節は秋ということもあって朝の空気は冷たかった。山は紅葉で、夏のような真緑の姿はなく別の姿に変貌していたのもあり、もう冬が来ることを実感させられた。
そして、駅に着くと学生やサラリーマンが数人電車が来るのを待っている。都会では、数十人と駅で一杯になるのだろうが、ここは田んぼと畑で構成されているドがつくド田舎だ。そんなことはまず無いのだ。
冷たい風が吹き付け、口を手で覆いハァーッと息を吐き温めていると、ようやく電車が到着した。
電車の中はガラガラで、一人分の間を空けて座っても余裕で全員が座れてしまう。
私は、電車の揺れが心地よくて重く、つぶってしまいそうな目蓋を必死に堪えながら到着駅のアナウンスを待つ。
そして、数十分経った頃アナウンスで到着駅の名前が出て、重かった目蓋は一気に軽くなった。
「もうそろそろかな?」
駅に着くと、そこには学校へ通学する学生や通勤しているサラリーマンなどが入り混じっていて、ホームを出れば、周り一帯が家々で埋め尽くされている住宅街が広がっていた。
私は、貰った地図をポケットから取り出して、比較してみる。
「駅がここだから……こっち?かな。」
とりあえず、自分が思う方向に進んでみる。
見慣れない景色に少し冒険心をくすぐられながら歩いてみると、写真の男の子らしき人物を見る。
「あの人かな?」
その男の子との距離は結構な距離があって私は、もう少し近くで見てみたいという気持ちから見つからないように早足で近づく。
後ろからじゃ、顔が見えない、どうにかしてみる方法はないかな?と試行錯誤してみるがやっぱり見えるのは後頭部だけだった。
友達と登校してくれてたら、横顔くらい見れるのに…いっそうのこと喋って確認してみようかな?
そんな今にも飛び出してしまいそうな気持ちはあったが、やはり私は後ろから見ているだけだった。
別に喋りかけてもいいんだけど、人違いだったら恥ずかしいしなぁ…それに、知らない女に話しかけたらどう思われるか。そんなことを考えていたら、やっぱり見てるだけにしておこうと、話しかけることを自重した。
そんなもどかしさを抱えながら後をつけていると、学校が見え始めた。
最後まで、話しかけることが出来ず後ろで見ているだけになってしまった。
このままいけば、確実に、いじられる毎日に戻ってしまう。もし話しかけることができれば、私は変われるかもしれない。バイトして稼いで、おしゃれして…
皆んなを見返せるチャンスなのかもしれない。
恥ずかしい?そんな気持ちを抱くより後悔をする気持ちを抱くほうがもっと嫌なはずでしょ。
(がんばれ私!)
私は、なかなか出せなかった足を一歩出し、彼に話しかける。
「あ、あの。羽山 シュウジさんですか?」
「い、いえ。違いますけど…」
「あれっ?本当に?北明高校の羽山 シュウジさんじゃないんですか?はいっ!って言ってくださいよー!言わないと、泣きますよ私!」
「新手の脅迫!?お、俺は神崎 アツムで、ここは南暗高校です。あと、北明って言ったら向こう側です。」
アツムという男の子が指す方向は、来た道を指している。もしかして…。
ポケットから前にもらった地図を出して、広げてみる。どうやら私は、駅から逆方向に来てしまったようだ。
「あ、あの大丈夫ですか?」
心配そうにこちらを見るアツムという少年は、手を差し伸べ膝から崩れ落ちた私を立たせて謝罪する。
「いえ、私が悪いんですから、気にしないでください。」
そう言って、トボトボと来た道に引き返す。
今から北明高校に行っても授業は、始まってるだろうし諦めて帰ろうかな。
私はため息を吐き、今日は断念することに決めた。
なんでこんなにポンコツなんだろう。自分が情けない…
そうして、30分かけて駅前まで戻ってくると疲れとまだ電車が来るまで時間があったのでベンチに座って待つことにした。
一息つくと、そこで2回目のため息を吐く。
「羽山 シュウジさん、どんな人だったんだろう。結構、興味あったんだけどなぁ…」
そんな後悔に満ちた言葉を発して呟いた時だ。
「僕がシュウジですけど...どうしました?」
神様は私を見放していなかった。
私はゆっくりと見上げ、そこにいるシュウジさんを目にする。
服装は、私服で自転車に乗っていた。今日は、学校がなかったのだろうか?
そんなことよりも本物?
この人がシュウジさん?
いざ会ってみると、緊張でなかなか話しかけられない。シュウジさんの方は、なんなんだろう?というような顔で、不思議そうにこちらを見ている。
「今日は学校休みなんですか?」
許して!これが精一杯だったんです!
名前も最初に言えない馬鹿な女なんです!
「う、うん。振替休日なんだよ。君は?ここら辺じゃ見かけない顔だけど?」
「わたしは……」
いつぶりだろう。こんな私にでも、目を合わせて話してくれる人に会ったのは…
さっきのアツムという人も、話してくれたけれど、当たり前だけれど、どこか余所余所しかった。
別に、アツムさんのことを悪く言ってるんじゃない。あれが普通の反応なんだと思う。
だけど、シュウジさんは元々知り合いだったような。そんな会話をしてくれている。
家族を失って、友達も...。モノトーンのような白と黒のような色どりのない毎日をこの人といれば帰ることができるのかもしれない。
新しい生活を迎えることのできる高揚感と期待感、そして初めて感じるこの気持ち...それらの感情から鼓動がいつもの倍で動く。
「4月ごろに引っ越してくるものです。またお会いしましょうシュウジさん!」
二つに分けて結んだ髪にメガネをかけた私の姿は、男子にはあまりお気に召さないようだった。
男子には毎日のように絡まれ、女子には影で笑われる。そんな学校生活をうんざりと感じていた。
私だって、もっとおしゃれしたい、遊びたい。それくらいの欲求はある。
両親が残してくれた遺産を使えば、それらのことができてしまうのだろうが、果たしてそんな事に使ってしまっていいのだろうか?そんな疑問が頭を埋め尽くし、使うことを躊躇してしまう。
なら、バイト?いや、中学生を雇ってくれるところ
なんてない。あるとすれば……
きごう
ある日、学校の創立記念日で平日だが休みになった。
私は、朝早く起きて、前に家に来た男の息子のもとへ行く支度の準備をする。
寝癖のついた髪をくしで梳かして、知らない土地と同学年の男の子に会うんだ。私は今できる最高のおしゃれをした。
季節は秋ということもあって朝の空気は冷たかった。山は紅葉で、夏のような真緑の姿はなく別の姿に変貌していたのもあり、もう冬が来ることを実感させられた。
そして、駅に着くと学生やサラリーマンが数人電車が来るのを待っている。都会では、数十人と駅で一杯になるのだろうが、ここは田んぼと畑で構成されているドがつくド田舎だ。そんなことはまず無いのだ。
冷たい風が吹き付け、口を手で覆いハァーッと息を吐き温めていると、ようやく電車が到着した。
電車の中はガラガラで、一人分の間を空けて座っても余裕で全員が座れてしまう。
私は、電車の揺れが心地よくて重く、つぶってしまいそうな目蓋を必死に堪えながら到着駅のアナウンスを待つ。
そして、数十分経った頃アナウンスで到着駅の名前が出て、重かった目蓋は一気に軽くなった。
「もうそろそろかな?」
駅に着くと、そこには学校へ通学する学生や通勤しているサラリーマンなどが入り混じっていて、ホームを出れば、周り一帯が家々で埋め尽くされている住宅街が広がっていた。
私は、貰った地図をポケットから取り出して、比較してみる。
「駅がここだから……こっち?かな。」
とりあえず、自分が思う方向に進んでみる。
見慣れない景色に少し冒険心をくすぐられながら歩いてみると、写真の男の子らしき人物を見る。
「あの人かな?」
その男の子との距離は結構な距離があって私は、もう少し近くで見てみたいという気持ちから見つからないように早足で近づく。
後ろからじゃ、顔が見えない、どうにかしてみる方法はないかな?と試行錯誤してみるがやっぱり見えるのは後頭部だけだった。
友達と登校してくれてたら、横顔くらい見れるのに…いっそうのこと喋って確認してみようかな?
そんな今にも飛び出してしまいそうな気持ちはあったが、やはり私は後ろから見ているだけだった。
別に喋りかけてもいいんだけど、人違いだったら恥ずかしいしなぁ…それに、知らない女に話しかけたらどう思われるか。そんなことを考えていたら、やっぱり見てるだけにしておこうと、話しかけることを自重した。
そんなもどかしさを抱えながら後をつけていると、学校が見え始めた。
最後まで、話しかけることが出来ず後ろで見ているだけになってしまった。
このままいけば、確実に、いじられる毎日に戻ってしまう。もし話しかけることができれば、私は変われるかもしれない。バイトして稼いで、おしゃれして…
皆んなを見返せるチャンスなのかもしれない。
恥ずかしい?そんな気持ちを抱くより後悔をする気持ちを抱くほうがもっと嫌なはずでしょ。
(がんばれ私!)
私は、なかなか出せなかった足を一歩出し、彼に話しかける。
「あ、あの。羽山 シュウジさんですか?」
「い、いえ。違いますけど…」
「あれっ?本当に?北明高校の羽山 シュウジさんじゃないんですか?はいっ!って言ってくださいよー!言わないと、泣きますよ私!」
「新手の脅迫!?お、俺は神崎 アツムで、ここは南暗高校です。あと、北明って言ったら向こう側です。」
アツムという男の子が指す方向は、来た道を指している。もしかして…。
ポケットから前にもらった地図を出して、広げてみる。どうやら私は、駅から逆方向に来てしまったようだ。
「あ、あの大丈夫ですか?」
心配そうにこちらを見るアツムという少年は、手を差し伸べ膝から崩れ落ちた私を立たせて謝罪する。
「いえ、私が悪いんですから、気にしないでください。」
そう言って、トボトボと来た道に引き返す。
今から北明高校に行っても授業は、始まってるだろうし諦めて帰ろうかな。
私はため息を吐き、今日は断念することに決めた。
なんでこんなにポンコツなんだろう。自分が情けない…
そうして、30分かけて駅前まで戻ってくると疲れとまだ電車が来るまで時間があったのでベンチに座って待つことにした。
一息つくと、そこで2回目のため息を吐く。
「羽山 シュウジさん、どんな人だったんだろう。結構、興味あったんだけどなぁ…」
そんな後悔に満ちた言葉を発して呟いた時だ。
「僕がシュウジですけど...どうしました?」
神様は私を見放していなかった。
私はゆっくりと見上げ、そこにいるシュウジさんを目にする。
服装は、私服で自転車に乗っていた。今日は、学校がなかったのだろうか?
そんなことよりも本物?
この人がシュウジさん?
いざ会ってみると、緊張でなかなか話しかけられない。シュウジさんの方は、なんなんだろう?というような顔で、不思議そうにこちらを見ている。
「今日は学校休みなんですか?」
許して!これが精一杯だったんです!
名前も最初に言えない馬鹿な女なんです!
「う、うん。振替休日なんだよ。君は?ここら辺じゃ見かけない顔だけど?」
「わたしは……」
いつぶりだろう。こんな私にでも、目を合わせて話してくれる人に会ったのは…
さっきのアツムという人も、話してくれたけれど、当たり前だけれど、どこか余所余所しかった。
別に、アツムさんのことを悪く言ってるんじゃない。あれが普通の反応なんだと思う。
だけど、シュウジさんは元々知り合いだったような。そんな会話をしてくれている。
家族を失って、友達も...。モノトーンのような白と黒のような色どりのない毎日をこの人といれば帰ることができるのかもしれない。
新しい生活を迎えることのできる高揚感と期待感、そして初めて感じるこの気持ち...それらの感情から鼓動がいつもの倍で動く。
「4月ごろに引っ越してくるものです。またお会いしましょうシュウジさん!」
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