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ヤリズレエ、と思った。
もともと突っ込んで蹴散らしてやろうとしてたのに、これじゃあまるでダメだ。
狐も頑張って生きているのだ。
何も悪いことはしていないのかもしれない。
けれど猿に迷惑がかかっていることも確かだ。さて、どうしよう?

俺は意を決して乗り込んだ。
あ、ダメだ。
みんなカメラを前にして立って両手を後ろに流して状態を低くしたままこちらを見た。

カシャリ
カメラの音が鳴るのに、誰も動かない。
記念撮影の真っ最中だったんだ、悪いことをした。
ウイーンという音とともに写真がハラリと落ちた。

「ごめん、なさい」
俺は謝った。
すると大きな笑いが起きる。
先生と思われる白髭がポヤンと顎の下についた狐が歩み寄ってくる。

「遅かったじゃないか、タクヤ君」

「みんな君を待っていたんだよ」
全員がうなづく。
ちょっと待って、タクヤって誰?
「君はその姿で来たのかい?だとすれば見回りも驚いたろう、はっはっはっはっ」
見回りか。ボスがあまりにも早すぎて気付きもしなかったよ。

「それで、今の狸の情報を、聞かせてくれるかな?」
え、え、え?
「いやいや、まあいいか、よし、まずはタクヤ君も来たことだし、写真を撮ろうかあ」
みんながうおー!と返事をする。元気なこと。

俺も強制的に並ばされた。
後ろから肩をバンバン叩かれる。
「よく戻ってきたぞー」
「タイミングもぴったりだあ!」
「いや、も少し早くても良かったかな」
など声をかけられる。

「さて、狸を視察して大変だったタクヤ君も戻ってきました。早く休めるためにも、急いで!」
パンパンと手を叩きながら先生が言う。
みんなさっきみたいな態勢をとる。

両手を後ろへ突き出して体は前に倒して。
俺も見よう見まねですると「お前はもういいだろ!」と笑い声が起きた。
それで体を元に戻す。
え、本当にいいのかな?
「じゃあいきますよ」先生がカメラのボタンをカチッと押してすぐに列に加わる。

次の瞬間みんなが宙返りした。
俺には何が起きたかわからなかった。
気がつけば俺は大入道や蛙やいろんなものに囲まれていた。

カシャリ
ボン
大きな煙が上がってみんなが戻っている。
「成功だ」
「成功だ」
「それにしてもタクヤはしんどくないのか?」
「昔から化けるのが得意だったからな」
ガヤガヤ騒々しくなる。
なるほど、俺は狸の様子を見に行った化けるのが得意なタクヤって狐に間違われてるのか。
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