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「でも空気が汚いんだったら移ればいいだろ?俺が最初に見たとこはここよりそんなに離れてなくて、空気も綺麗で、宝石がザラザラあったけど」
「ああ、すぐそこね。…違うのよ。歴史で勉強することだけど、…そしてあなたには信じられないことだろうけど。あそこは土を宝石に変える試みが行われた場所よ」
「土が宝石に?」
「そう。原子レベルかな、なんかこう、グシャグシャやれば、あんな風に成功してしまったのよ」
「いいことじゃないか。大金持ちだな」

「それが良くないのよ。初めは大金が入ってきて喜んでたんだけど。多くの宝石が簡単に作り出せるっていうから、値段は暴落して、原子を変えるやり方さえどこからか漏れ出しちゃって…、もうあんな物、価値ないのよ」
「じゃああれは…」
「残りカスといったところね」

「で、でも、それはここから移らないこととは関係ないんじゃない?」
「それはね、残念ながら必要ないの。家の中はピカピカだし、ここの街は小さいほうだからね。もうすぐここの空気汚染問題は機械で解決されるわ。もう大きな街は作動しているから、本物の太陽が見られるってね」
「本物?どういうこと?」

「…あんたは!話すのに面倒な人ね!いいわ!」
女はリモコンを取ってMEEZを呼ぶ。
『認証完了』
「MEEZ、この男の人にね、外のギンギラギンの海辺を味わせて」
『了解』
ガラリと俺の視界は変わってしまった。
ザザーンと海が見え、空も青く砂は真っ白で。
「…あっつい…暑い?!」
「バイバイ、ありがと、MEEZ」
『さよなら』
ブツリと音が鳴り、俺の視界も感覚も戻る。

「分かったかしら?このMEEZさえあれば、座っていても色んな感覚を味わえるのよ」
「いや…でも…食いもん買うときには外に出るんじゃ…」
「どうしても外に出たくなったらMEEZに頼めばいいの。次の瞬間には目的地よ」
「は?」
「瞬間移動ってやつ、かな?」
「…が、できるの?」
「そうよ」
「…おかしいよ…」

女は自慢げにクルリと回る。
「それにあと三年は買う必要ないわ。この小さい粒を一日に一個食べれば健康的な生活が手に入るわよ」
女は瓶をしゃら、と振った。
「それで?」
「そうよ。これはMEEZを通して注文すればすぐそこに出てくるし。こんな安いもん、一生分だって買えるわよ」
「…」
「どんな体つきにしたいかで、薬も変わってくるけどね!私はこれが似合ってるの」

よくよく見れば、この女は運動もしていないだろうに、細く綺麗な体を持っている。
「日に焼けたかったらこれもMEEZに…」
「分かった、もういい、やめて…」
こんな世界、本当の事と偽物がごちゃ混ぜじゃないか。偽物の世界なんて、飽きないのだろうか。でも、そこは自分の理想そのままの世界だ。飽きることもないのだろう。
「ここの空気も綺麗になるけれど、そうなったところで、私達の生活は変わらない。仕事も何にもないわ。何かを造るのは機械たちだし。だから私達はここで閉じこもっているのでした」

「話し相手に困らないの?」
「MEEZに言えば、相手くらい出してくれるわよ」
「…」
なんか、俺のやる事、…てか、依頼人どこ?何をすればいいの!もしかして胡蝶が何かをかっぱらって来いって…それだけの話?!じゃあどうやって帰ればいいの…?

もしかして、もしかして!MEEZに頼む、とか……?
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