我儘女に転生したよ

B.Branch

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雪降る夜

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「"雪"って何ですか?」

夕食後、居間で寛いでいると、ヴィアベルがベッカーの置いていった雪の華印が刻印された商品を眺めながら聞いてきた。

「雪はね、雨のように空から降ってくるものよ。白くてとても冷たいの」

「そうなのですか?でも、僕見た事ありません」

「ええ、雪は寒い地域でしか降らないから、いつも暖かなモルゲンロートの王都では見る事が出来ないわね」

「お母様は見た事があるのですか?」

「そうねぇ、、、」

雪、かぁ。
モルゲンロートから出た事のないアマーリエは当然雪など見た事はない。
けれど、「私」は雪を知っていた。

前世の私は札幌で生まれ育った。
冬になると雪が降り積もるのは私にとって当たり前の光景だった。
今世の雪の降った事のないモルゲンロートの方こそ不思議に思える程だ。

私の前世の記憶の中で「雪」はとても鮮明な記憶として残っている。
他の記憶もきちんと覚えてはいるが、映画のように画像や音声として覚えているだけで、その時々の感情等は伴っていない。

一人の少女の生まれ育った記憶。
色々な事があり、親兄弟の事も覚えているが、その時自分がどう感じたかなどの感情の記憶はない。自分の事だという実感が薄いのだ。
前世を思い出し、アマーリエとして過ごすうちにその感覚は強くなっていく。

しかし、"雪"だけは別だった。
"雪"は私の心をウキウキと浮き立たせ、かと思えば、物悲しく寂しい気持ちにさせ、私の心をぎゅっと締め付けるのだ。
"雪"は思い出しただけで、私をそんな気分にする。

暗い空を覆い尽くすように後から後から雪が降ってくる。
「私」はそれをぼんやりと眺めている。雪はどんどん私の上に降り積もり私を白く埋めていく。
この記憶はもしかして前世の私の最後の記憶なのだろうか?

前世の記憶は高校生の頃までしかない。
ただその頃までの記憶しか思い出せないだけなのか、もしくは、私は高校生で亡くなったのか、、、
なぜ?と思うが思い出せない。ただ白い"雪"だけが私の前世の心を覆っているのだ。

「お母様?」

雪の事を思い出していた所為でもないだろうが、冷たくなった私の手にヴィアベルの小さな温かい手が重ねられる。

ああ、しんみりしてヴィアベルを心配させてしまいましたね。
私の現在も未来もこの世界とヴィアベルと共にある。訳も分からず落ち込んでいてはいけませんね!楽しまなくちゃ!

「ヴィアベル、雪が深々と降る光景はとても美しいのよ。寒い地域特有の文化も興味深いものが多いわ」

「僕、見てみたいです!!」

え、そう?じゃあ、降らしちゃう?
シャーベット魔法を操るこの私なら、ちょちょいのちょいじゃない?お茶の子さいさい的な?やっちゃいます?ニヤリ。

「奥様、、、」

うお!?冷気!?
背後でブリザードが!?と思ったら、はい、毎度お馴染み魔王ベルタ様でしたね!知ってましたよ!
ハハハハ、と乾いた笑いで誤魔化、、、せないよね~怖いよーブルブル。

「お母様!寒い地域の文化ってどんなものですか?」

幼いながらも空気を読んだヴィアベルが私を魔王の魔の手から救ってくれました。
本当に良い子!天使だね!

「そ、そうね。雪の遊びなら、雪や氷の上を滑ったり、雪で家や像を作ったりかしら?雪合戦やソリも楽しいわね」

雪の積もった木の下に人を連れて行って木を蹴るっていう遊び??もあるが、危険だし超怒られるのでお勧めは出来ないです。はい。
後は、何かな?冬の楽しいイベントと言えばやっぱりアレ・・かな?雪がなくても出来るし。

「ヴィアベル、ツリーを飾りましょうか」

「ツリー、ですか?」

「ええ、木に飾り付けをしてその下にプレゼントを置くのよ。家族や大切な人の為にね」

「僕、お母様にプレゼントしたいです!アル兄様やアンネやお父様、、、ビアンカ様にも、、、」

興奮して話していたヴィアベルの声が最後だけ小さく呟くようになる。

「ええ、ビアンカ様にも素敵なプレゼントを差し上げたいわね」

「はい!」

私がニコリと微笑みかけると、ヴィアベルから嬉しそうな笑顔が帰ってきた。

ヴィアベルは三歳児にして気遣いの人になっていますね。
多分に私の所為だと思うと、申し訳なくなります。
アマーリエ程ではないが、本質的にマイペースな私の子としては出来過ぎです。気苦労かけてごめんね。

さて、プレゼントですね。やっぱり王宮の叔父様やベル兄様やお祖母様にも差し上げたいわね。あと、仕方ないのでユストゥスにも?ベルタや料理長、館の皆にもあげたいし、ルーヘン、ベッカー、、、数え切れなくなってきましたね~

「あ!お祖父様にも差し上げたいです!」

ヴィアベルがキラキラした目でこちらを見る。

「、、、そうね、お父様にも必要ね」

我が国の賢き宰相閣下へのプレゼントか、、、木彫りのパンダかな、そうしよ。

後日、宰相閣下の執務机の上には笹に荒々しく齧り付くパンダの置物が飾られる事となり、その置物をうっかりけなした貴族が僻地に左遷されたとかされなかったとか、、、兎にも角にもその置物は王宮で永く丁重に丁重に扱われる事となった、らしい。

さ!じゃあ、木を用意しましょうかね!
実は庭に丁度いい木があるのです!うちの庭には何でもありますね!助かります!

早速、庭から木を採取し、居間に設置しました。

「お母様、凄く大きい木ですね!」

「ええ、じゃあ、飾り付けをしましょうか。ベルタ、何か小さな飾りになる物を、、、ベルタ?大丈夫?」

指示を出す為に振り返ると、今にも灰になって燃え尽きそうな状態のベルタがいた。

どうしたのかな?庭に出た辺りから何も言わなくなっていたけれど、何かあったかしら?
ちょっと、木をいきなりズボッと根から抜いて、運ぶのが大変だったから根を操って歩かせて運んだだけだよ?
ヴィアベルも喜んでいたし、魔法のあるこの世界では普通の事だよね?一般的な木の運び方でしょ?

「、、、はい、すぐにご用意致します」

ベルタはヨロヨロと部屋を出て行くと、二分程で飾りを持って戻って来た。

二分!?電光石火のベルタさんにしては信じられないレスポンスだ。
やっぱり、お疲れなんですね、、、

「ベルタ、そう言えば、料理長にケーキの味見をして欲しいと頼まれていたのだけれど、私は手が離せないので、代わってもらえるかしら?」

「!!宜しいので、ございますか!?」

「ええ、お願い」

元気を取り戻したベルタがお辞儀をして部屋を辞していく。

「じゃあ、このリボンをツリーに飾りましょうか」

色取り取りのリボンがあったので、それを飾ることにする。

「お母様、上の方が届きません」

ヴィアベルを抱き上げても木の下の方にしかリボンが飾れない。

「そうね、では、木に自分で飾り付けてもらいましょう」

木を運んだ要領で魔法をかけると、木がかがんで枝を伸ばし自分で飾りを付けだす。

「魔法って便利ね」

「はい!お母様の・・・・魔法便利です!」

ん?何だかヴィアベルの言葉が私の言葉と微妙に違うニュアンスを含んでいるような?
気の所為だよね?まあ、いいでしょう。

そうこうしている間に有能な木が、自分自身の飾り付けを終えた。

「可愛いです!これで完成ですか?」

「そうね、後は"あかり"が必要ね」

「灯り?蝋燭を飾るのですか?」

「ええ、でも、蝋燭は少し危ないので、魔法で光を灯しましょうか」

そう、私はこの辺りからもう「魔法で何でもやっちゃえばいいや」的な心境になっていたのかも知れません。
運悪く止める人(ベルタ)が不在だったのも良くありませんでした。
私、、、やらかしちゃいました、、、

「凄いです!!キラキラしてます!!」

「ええ」

我ながら完璧な出来映えです!
心なしか木も誇らしそうに胸?を張っています。

こうなって来ると、やはり雪がないのは寂しいですね。
ツリーにイルミネーションと来れば、次は雪だよね!!よし!降らせちゃえ!!

シャーベット魔法の要領でツリーの上に雪を降らせ、ツリーを雪で飾る。

「どう?ヴィアベル、これが"雪"よ」

「、、、、、、」

ヴィアベルは口をあんぐり開けて、ぼーっと雪の乗ったツリーを眺めている。

「凄いです、、、お母様、凄いです!!」

尊敬と感動で潤んだ可愛らしい目が私を見上げる。

ここが、私のリミッターが完全に外れた瞬間でした。
後悔は先に立ちません。まあ、後悔はしていないけど!って言ったら怒られるから言わないよ!

「ヴィアベル、雪が降っているところをもう少し見たいかしら?」

「はい!見たいです!」

庭に出ると、外は暗くなっていた。

ヴィアベルをかなり夜更かしさせてしまったようですね。
でも、暗い方が雪が降る様子は綺麗かも知れませんね。

手をかざし、暗い夜空から雪を降らせる。
モルゲンロートの気温は暖かいので、降った雪はすぐに溶けてしまうが、暗い夜空から真っ白な雪が降る様子はとても幻想的で美しい。

ふむ、やはりイルミネーションもあった方が雰囲気出るよね!
よし!光も降らしちゃおう!

雪と一緒に小さな光が空から舞い落ちて来る。

「綺麗です、、、」

「ええ、素敵ね」

「はい、僕達だけで見るのは勿体無い気がします、、、」

ヴィアベルは、そう言って空を夢中で見上げている。

本当にうちの子は優しいですね!
分かりました!皆にも雪降る夜を体験してもらおうではありませんか!!

陽光館の庭だけでなく、王都中に数分間雪と光を降らせる。
十分程の時間であったし、もう夜だし、という事でそれ程の騒ぎにはならないだろう、と私は甘く考えていた。

そして、その夜王都は光と雪に包まれた。
人々ははその奇跡に言葉をなくし、神の御技だと涙する者もいた。老いも若きも身分も貧富も関係なく、圧倒され心洗われるそんな光景だった。
その光景は永くモルゲンロート王都で語り継がれる事となり、優しい光は人々の心に灯り続けたという。

、、、ただその後の事はあまり思い出したくない。
ベルタには現実逃避したくなる程叱られ、陽光館を訪れたクリストハルト様には言葉少なながらも潰されそうな圧をかけられ、それでは終わらず、王宮や互助組合ギルド長から「ちょっと来てね」的な出頭命令を頂いたりしました、、、なぜ、ばれた!?

まあ、でも、いいもん!ヴィアベルも喜んでくれたし!本望です!いい夜でした!フフフン。

ヒィッ!べ、ベルタが睨んでる!?私の心を読まないで!お願い!もう、しませんから!多分、、、ね?
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