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失恋の特効薬
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「おいアメリ、そんなとこで立ち止まってどうし…」
女性の後ろからハーヴィルの声がして、私の姿を映すと目を見開いた。いや、それよりもハーヴィルは今この目の前の女性をアメリと呼んだのだろうか。ノアのトラウマの原因、ハーヴィルの代わりにした女性。そんな彼女が目の前にいて喉の奥が引き攣った。ノアの話を聞いた後は直接会ったら文句の一つでも言ってやろうと思っていたのに声のひとつも出なかった。
「ハーヴィル…?この子は?」
「ノアの彼女で俺たちの昔馴染みだ。まぁ彼女っていうか婚約者みたいなもんだな。ナタリア、こっち来いよ。ノアはまだ寝てるけどな」
ハーヴィルはさりげなくアメリさんを牽制するような声色で話し、私を招いてくれる。私の気持ちを瞬時に察してくれたんだろう、重たかった足は少し軽くなって私は彼女に軽く会釈をして横を通り過ぎた。
だけどまだ激しく心臓は脈を打っていて頭の中は真っ白だ。ただでさえノアが病院に運ばれたことで気が動転していたのに加えてこれである。
──────────私と同じ、この村では希少な黒髪の…とても美人な女の人
『俺のことハーヴィルだと思って楽しむのも一興だろ?』
初めてノアと体を重ねた時のことを思い出す。ノアは自分をハーヴィルの代わりにしろと言ったけど本当は私が彼女の代わりになっていたんだろうかなんて嫌な想像が頭を巡っていく。大して美人でもないのに…私のことを美人だというのは彼女と重ねてるから?
「ノアのことで彼女に話がある。悪いがアメリはちょっと部屋から出てくれ」
ハーヴィルが私を気遣ってそう言うと、背後で扉が閉まる音がした。その瞬間ハーヴィルが私の隣で深く息を吐いた。
「悪かったな…俺も驚いたよ。彼女が村に戻ってるなんて今日初めて知ったから」
「ううん、それはしょうがないよ…それよりノアの容態は…」
ハーヴィルの前では冷静さを装って横になったノアを見やる。脇腹のあたりに包帯が巻かれて痛々しいが寝息は落ち着いていて苦しんでいる様子はない。
「…猪の牙が掠ってな。内臓も近いから麻酔打って手術してもらったんだ。兄さんは大したことないとは言ってたが…」
「そっ…か…心配だけど…命に関わることじゃなくてよかった」
「それより…お前が心配してるのはアメリの方なんじゃねぇのか?」
ハーヴィルの核心を突く言葉に胸の奥が締め付けられる。そして白状するように小さく頷いた。
「兄さんは大丈夫だよ、本当にお前のこと想ってる
。聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいにはな」
「でも…それは今までアメリさんがいなかったからじゃないの?今は…」
戻ってきた彼女のことを思うと彼の心は彼女に帰ってしまうのではと思ってしまう。そんな私の言葉にハーヴィルは深いため息をついた。
「お前、自分に自信ねぇなぁ……」
「えっ……?」
「兄さんが他の女に靡くかもしれねぇって心配してんのか?」
「……そ……そうだよ、だってあんなに美人で…私なんて敵わない。もし…ノアがあの人の方がいいって言うなら…」
勝つ要素なんてない…と言いかけたところで視界が涙で滲んだ。本当に彼女がトラウマなだけなら…そんな彼女を彷彿とさせる黒髪の女なんて彼女にしないんじゃないだろうか。
「兄さんがそんなこと言うわけない…そんなに不安なら、兄さんからプロポーズ受けてんだろ?それに応えりゃいい。男の俺から言わせりゃ好きな相手は結婚で縛ってなんぼだ。」
「それで…いいのかな?」
「ノアだって願ったり叶ったりだろ」
ハーヴィルらしい考え方だ。ハーヴィルならそれでも相手を幸せに出来るからその考えでもいいのだ。でも私は…私の方が彼女よりノアを幸せに出来るからなんて言えない。
「ン…ぁ…は、ゔぃる?」
不意にノアが目を覚まして体を起き上がらせる。麻酔がまだ効いているのかどこかぼうっとした様子だが目を覚ましたことに安心した。ノアの元へと咄嗟に駆け寄って体を起こす手助けをする。
「ノア……大丈夫?まだ横になってた方が……」
「ナタリア……?なんでここに……?俺もしかして結構寝てたのか?」
ノアは窓の外の暗い空を見て深いため息をついた。そうして私の頭を安心させるように撫でてくれる。
「心配させて悪かったな、怪我は大したことねぇし……すぐ動けるようになるよ。ハーヴィルも、新婚なのにこんな時間まで付き合わせちまってすまない。」
「俺の心配はいいから、それより医者…呼んでくる」
女性の後ろからハーヴィルの声がして、私の姿を映すと目を見開いた。いや、それよりもハーヴィルは今この目の前の女性をアメリと呼んだのだろうか。ノアのトラウマの原因、ハーヴィルの代わりにした女性。そんな彼女が目の前にいて喉の奥が引き攣った。ノアの話を聞いた後は直接会ったら文句の一つでも言ってやろうと思っていたのに声のひとつも出なかった。
「ハーヴィル…?この子は?」
「ノアの彼女で俺たちの昔馴染みだ。まぁ彼女っていうか婚約者みたいなもんだな。ナタリア、こっち来いよ。ノアはまだ寝てるけどな」
ハーヴィルはさりげなくアメリさんを牽制するような声色で話し、私を招いてくれる。私の気持ちを瞬時に察してくれたんだろう、重たかった足は少し軽くなって私は彼女に軽く会釈をして横を通り過ぎた。
だけどまだ激しく心臓は脈を打っていて頭の中は真っ白だ。ただでさえノアが病院に運ばれたことで気が動転していたのに加えてこれである。
──────────私と同じ、この村では希少な黒髪の…とても美人な女の人
『俺のことハーヴィルだと思って楽しむのも一興だろ?』
初めてノアと体を重ねた時のことを思い出す。ノアは自分をハーヴィルの代わりにしろと言ったけど本当は私が彼女の代わりになっていたんだろうかなんて嫌な想像が頭を巡っていく。大して美人でもないのに…私のことを美人だというのは彼女と重ねてるから?
「ノアのことで彼女に話がある。悪いがアメリはちょっと部屋から出てくれ」
ハーヴィルが私を気遣ってそう言うと、背後で扉が閉まる音がした。その瞬間ハーヴィルが私の隣で深く息を吐いた。
「悪かったな…俺も驚いたよ。彼女が村に戻ってるなんて今日初めて知ったから」
「ううん、それはしょうがないよ…それよりノアの容態は…」
ハーヴィルの前では冷静さを装って横になったノアを見やる。脇腹のあたりに包帯が巻かれて痛々しいが寝息は落ち着いていて苦しんでいる様子はない。
「…猪の牙が掠ってな。内臓も近いから麻酔打って手術してもらったんだ。兄さんは大したことないとは言ってたが…」
「そっ…か…心配だけど…命に関わることじゃなくてよかった」
「それより…お前が心配してるのはアメリの方なんじゃねぇのか?」
ハーヴィルの核心を突く言葉に胸の奥が締め付けられる。そして白状するように小さく頷いた。
「兄さんは大丈夫だよ、本当にお前のこと想ってる
。聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいにはな」
「でも…それは今までアメリさんがいなかったからじゃないの?今は…」
戻ってきた彼女のことを思うと彼の心は彼女に帰ってしまうのではと思ってしまう。そんな私の言葉にハーヴィルは深いため息をついた。
「お前、自分に自信ねぇなぁ……」
「えっ……?」
「兄さんが他の女に靡くかもしれねぇって心配してんのか?」
「……そ……そうだよ、だってあんなに美人で…私なんて敵わない。もし…ノアがあの人の方がいいって言うなら…」
勝つ要素なんてない…と言いかけたところで視界が涙で滲んだ。本当に彼女がトラウマなだけなら…そんな彼女を彷彿とさせる黒髪の女なんて彼女にしないんじゃないだろうか。
「兄さんがそんなこと言うわけない…そんなに不安なら、兄さんからプロポーズ受けてんだろ?それに応えりゃいい。男の俺から言わせりゃ好きな相手は結婚で縛ってなんぼだ。」
「それで…いいのかな?」
「ノアだって願ったり叶ったりだろ」
ハーヴィルらしい考え方だ。ハーヴィルならそれでも相手を幸せに出来るからその考えでもいいのだ。でも私は…私の方が彼女よりノアを幸せに出来るからなんて言えない。
「ン…ぁ…は、ゔぃる?」
不意にノアが目を覚まして体を起き上がらせる。麻酔がまだ効いているのかどこかぼうっとした様子だが目を覚ましたことに安心した。ノアの元へと咄嗟に駆け寄って体を起こす手助けをする。
「ノア……大丈夫?まだ横になってた方が……」
「ナタリア……?なんでここに……?俺もしかして結構寝てたのか?」
ノアは窓の外の暗い空を見て深いため息をついた。そうして私の頭を安心させるように撫でてくれる。
「心配させて悪かったな、怪我は大したことねぇし……すぐ動けるようになるよ。ハーヴィルも、新婚なのにこんな時間まで付き合わせちまってすまない。」
「俺の心配はいいから、それより医者…呼んでくる」
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