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3、お飾り妻始めました
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頬に押し付けられた感触に気付き、私は目を覚ましました。
結婚して初めて迎えた朝、私の隣で寝ているのは旦那様・・・・・・ではなくて、勿論猫です。
白と茶が混じった短い毛並みの猫が、私の頬を叩いています。
そんなに強い力でもなく、ぷにぷにと。
「あら、おはようございます」
私はその猫を抱き上げながら、ベッドから降りました。
一人で寝るには少し大きいベッドは、木の古さは目立ちますが、シーツは真新しくてふんわり。
隅では、猫が二匹丸まっています。
旦那様不在の初夜を、私は猫と過ごしたのです。
分厚いカーテンを開けると、外はいつも通りの曇り空。
プルウィア王国は例年通り雨期に入りましたので、この時期の空は、いつもこのような感じです。
長い雨を憂い、早く夏が来るように願う季節・・・・・・今、この時も、旦那様は領地のことを考えておられるのでしょうか。
私は窓の近くで跪き、祈りを捧げました。
(・・・・・・主よ、どうかブライアン様をお守りください)
修道院を中退したのは、もう、数年も前・・・・・・『シスター・フローレンス』と呼ばれることもなくなりましたが。
それでも、主に己の愚かさを悔い、祈りを捧げる習慣は身に着いていました。
修道院の環境は厳しく寂しいものでしたが、特に苦痛ではありませんでした。
人付き合いが苦手な私にとって、私語を慎み、黙々と祈りや奉仕活動に従事する生活は、性に合っていたのでしょう。
私の亡きお母様も、元々は『シスター・イーディス』という洗礼名をいただいた修道女だったそうなので、若しかしたら遺伝なのかもしれません。
・・・・・・まあ、お母様は、明るくて活発な性格だったらしいのですが。
父がハーキュリー伯爵家に資金を提供し、私はブライアン様のお飾り妻として生活できる環境をいただいた・・・・・・ですが、ブライアン様個人には何の益もない結婚。
美しい容姿や秀でた才能の無い私に、ブライアン様へ返せるものがないので、せめて安寧をお祈りさせていただこうと思います。
祈りを捧げた後、もう一度空を見上げ――ふと、私は気付きました。
雲の隙間から垣間見える太陽は高い位置にあり・・・・・・もう、お昼近い時刻のようです。
昨日は結婚式があり、余り食事をできませんでしたから、はしたなくも空腹を覚えてしまいました。
それに、夜着のままなので、着替えもしておきたいです。
昨日に身支度を手伝ってくれた方々が、私の侍女になるのでしょうか・・・・・・彼女達を呼べばいいのでしょうか?
「ここにいておいてね。あなた達のご飯も、後で聞いてみるわ」
私は思い思いに過ごしていた猫達に声を掛けると、寝室の扉――廊下に繋がっている方ではない、もう一つの扉を開けました。
隣の部屋が、伯爵夫人の私室だと説明を受けていたのです。
中は寝室よりも少し狭いぐらいの大きさです。
備えている家具は、書き物机や衣装棚、鏡台に丸い机・・・・・・此方は、お茶をいただく時に使うのでしょうか。
書き物机の上に、小さな呼び鈴が置いてあったので、私はそれを鳴らしました。
大きな音が響いたので、私は椅子に座り、誰かが来るのを待ちました。
それなりの時間が経ったと思うのですが――
待っていても、誰かが来る気配がありません。
聞こえなかったのでしょうか・・・・・・もう一度鳴らして・・・・・・ですが、お忙しかったら申し訳ないし・・・・・・。
色々と悩んでしまった私は、思い切って立ち上がりました。
私室は三方向の壁に扉が付いています。
一つは廊下、一つは先程の寝室。
そして、もう一つは浴室に繋がっているのです。
浴室は手前に小部屋があって、水を汲めるポンプと竈が備えてあるのです。
昨日、使用人の方々が湯浴みの準備をしてくれていたので覚えています。
少し錆びた所のあるポンプに手を掛けると、ゆっくりとですが水が出てきます。
私は近くにあった盥に水を張り、顔を洗いました。
修道院にいた頃は、冬でも水を使っていたので、これぐらいの気候なら多少冷たくても平気です。
後で、使用人の方々に不要な皿や桶は無いか尋ねないといけませんね。
猫達のお水入れや・・・・・・お粗相する場所も作っておかないと・・・・・・。
私室に戻ると、衣装棚を開けました。
中には数枚の服が入っていて・・・・・・全て、持参した物です。
夜会用と茶会用のドレスも念のため用意してもらいましたが、おそらく必要ないでしょう。
私は、端に掛けてあった淡い緑色のワンピースを手に取り、着替えました。
寄宿学校や修道院では侍女を付けずに生活しておりましたので、簡単な着替えや身支度程度なら一人でできるのです。
そして鏡台の前で髪を整えている頃、扉を開ける音がしました。
「あら」
鏡越しに見えた人は、背の高い女性でした。
濃紺のワンピースに白いエプロン――昨日もお世話になった使用人さんです。
「お、おはようございます」
私は急いで立ち上がり、お辞儀をしました。
使用人さんは私の頭からつま先まで眺めるように目線を動かして・・・・・・鼻を鳴らすような音がしました。
「なんだ、自分でできるんじゃない。急いでくるんじゃなかったわ」
そう呟く声は、本当に不快そうで・・・・・・ああ、ごめんなさい・・・・・・やはり、お忙しかったのですね・・・・・・。
結婚して初めて迎えた朝、私の隣で寝ているのは旦那様・・・・・・ではなくて、勿論猫です。
白と茶が混じった短い毛並みの猫が、私の頬を叩いています。
そんなに強い力でもなく、ぷにぷにと。
「あら、おはようございます」
私はその猫を抱き上げながら、ベッドから降りました。
一人で寝るには少し大きいベッドは、木の古さは目立ちますが、シーツは真新しくてふんわり。
隅では、猫が二匹丸まっています。
旦那様不在の初夜を、私は猫と過ごしたのです。
分厚いカーテンを開けると、外はいつも通りの曇り空。
プルウィア王国は例年通り雨期に入りましたので、この時期の空は、いつもこのような感じです。
長い雨を憂い、早く夏が来るように願う季節・・・・・・今、この時も、旦那様は領地のことを考えておられるのでしょうか。
私は窓の近くで跪き、祈りを捧げました。
(・・・・・・主よ、どうかブライアン様をお守りください)
修道院を中退したのは、もう、数年も前・・・・・・『シスター・フローレンス』と呼ばれることもなくなりましたが。
それでも、主に己の愚かさを悔い、祈りを捧げる習慣は身に着いていました。
修道院の環境は厳しく寂しいものでしたが、特に苦痛ではありませんでした。
人付き合いが苦手な私にとって、私語を慎み、黙々と祈りや奉仕活動に従事する生活は、性に合っていたのでしょう。
私の亡きお母様も、元々は『シスター・イーディス』という洗礼名をいただいた修道女だったそうなので、若しかしたら遺伝なのかもしれません。
・・・・・・まあ、お母様は、明るくて活発な性格だったらしいのですが。
父がハーキュリー伯爵家に資金を提供し、私はブライアン様のお飾り妻として生活できる環境をいただいた・・・・・・ですが、ブライアン様個人には何の益もない結婚。
美しい容姿や秀でた才能の無い私に、ブライアン様へ返せるものがないので、せめて安寧をお祈りさせていただこうと思います。
祈りを捧げた後、もう一度空を見上げ――ふと、私は気付きました。
雲の隙間から垣間見える太陽は高い位置にあり・・・・・・もう、お昼近い時刻のようです。
昨日は結婚式があり、余り食事をできませんでしたから、はしたなくも空腹を覚えてしまいました。
それに、夜着のままなので、着替えもしておきたいです。
昨日に身支度を手伝ってくれた方々が、私の侍女になるのでしょうか・・・・・・彼女達を呼べばいいのでしょうか?
「ここにいておいてね。あなた達のご飯も、後で聞いてみるわ」
私は思い思いに過ごしていた猫達に声を掛けると、寝室の扉――廊下に繋がっている方ではない、もう一つの扉を開けました。
隣の部屋が、伯爵夫人の私室だと説明を受けていたのです。
中は寝室よりも少し狭いぐらいの大きさです。
備えている家具は、書き物机や衣装棚、鏡台に丸い机・・・・・・此方は、お茶をいただく時に使うのでしょうか。
書き物机の上に、小さな呼び鈴が置いてあったので、私はそれを鳴らしました。
大きな音が響いたので、私は椅子に座り、誰かが来るのを待ちました。
それなりの時間が経ったと思うのですが――
待っていても、誰かが来る気配がありません。
聞こえなかったのでしょうか・・・・・・もう一度鳴らして・・・・・・ですが、お忙しかったら申し訳ないし・・・・・・。
色々と悩んでしまった私は、思い切って立ち上がりました。
私室は三方向の壁に扉が付いています。
一つは廊下、一つは先程の寝室。
そして、もう一つは浴室に繋がっているのです。
浴室は手前に小部屋があって、水を汲めるポンプと竈が備えてあるのです。
昨日、使用人の方々が湯浴みの準備をしてくれていたので覚えています。
少し錆びた所のあるポンプに手を掛けると、ゆっくりとですが水が出てきます。
私は近くにあった盥に水を張り、顔を洗いました。
修道院にいた頃は、冬でも水を使っていたので、これぐらいの気候なら多少冷たくても平気です。
後で、使用人の方々に不要な皿や桶は無いか尋ねないといけませんね。
猫達のお水入れや・・・・・・お粗相する場所も作っておかないと・・・・・・。
私室に戻ると、衣装棚を開けました。
中には数枚の服が入っていて・・・・・・全て、持参した物です。
夜会用と茶会用のドレスも念のため用意してもらいましたが、おそらく必要ないでしょう。
私は、端に掛けてあった淡い緑色のワンピースを手に取り、着替えました。
寄宿学校や修道院では侍女を付けずに生活しておりましたので、簡単な着替えや身支度程度なら一人でできるのです。
そして鏡台の前で髪を整えている頃、扉を開ける音がしました。
「あら」
鏡越しに見えた人は、背の高い女性でした。
濃紺のワンピースに白いエプロン――昨日もお世話になった使用人さんです。
「お、おはようございます」
私は急いで立ち上がり、お辞儀をしました。
使用人さんは私の頭からつま先まで眺めるように目線を動かして・・・・・・鼻を鳴らすような音がしました。
「なんだ、自分でできるんじゃない。急いでくるんじゃなかったわ」
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