黒しっぽ様のお導き

宮藤寧々

文字の大きさ
14 / 30

14、幼馴染の思い出

しおりを挟む
 私の父が、お義母様と再婚した頃――
 まだ幼い私は、遠縁の家へと預けられました。
 猫としか仲良くできない娘と、新しい夫人・・・・・・どっちをロドニー伯爵家に残した方が良いかは明白でしたものね。

 その遠縁の家が、ラッセル子爵家・・・・・・カーライルは、その家の一人息子でした。
 ラッセル子爵夫妻は、年が近いから仲良くなれるでしょうと、カーライルを紹介してくれましたが・・・・・・。

 カーライルは、私の事を嫌っていました。

『おい、不細工』
 カーライルは、いつも怒ったような顔をしていました。
『不細工』と言いながら、私の顔をじっと見るのです。
 怖くて、私が目を背けていると、彼は『不細工!』と怒鳴るのです。
 私は、自分の醜い顔がすっかり嫌になってしまいました。

 彼と会いたくなくて、部屋に隠れていても、使用人が鍵を開けるのです。
 にこにこと笑う大人達が、何か、恐ろしいもののように見えていました。
 どこに隠れていても、屋敷にいる人間が、私の場所をカーライルに伝えるのです。

『不細工、付いてこい』
 彼に手を引っ張られて、庭に連れて行かれることもよくありました。
 私の足が縺れても、『のろま』と怒って、どこまでも――

 つる薔薇の柵に突き飛ばされ、小さな池に落とされ、木を登れと命令されて。
 私の体には生傷が絶えませんでした。

 泣いても、笑っても、返事をしても、黙っても。
 彼はいつも怒鳴っていました。
 大人達に『彼が怖い』と訴えても、みんな笑うだけで・・・・・・。

 お父様に捨てられた私は、誰にも愛されないから嫌われるんだ・・・・・・私は、その時には、全てを諦めていました。

 そんな日々が終わったのは、季節が変わる頃――
 私の様子を見に、お父様が来られた時がありました。

 でも、その日、私はカーライルに、物置に閉じ込められていました。
『お前みたいな不細工、父親も会いたくないってさ! 可哀想だからここで飼ってやるよ!』

 暗くて寒い物置の中、私は泣いていました。
 そんな私の前に降り立ったのが、白い『ほうき星』でした。
 カーライルの頭に降り立つと、一声鳴いて。
 いつの間にか沢山の猫が集まった物置小屋に、大人達が駆け付けた時、私はお母様を呼びながら泣き続けていたそうです。

 私は、ただただ、お父様に頼み続けました。
『お母様の所に連れて行って』
 もうこんなつらい生活は嫌だ、私が嫌いなら殺して――と、ずっと泣き続ける私の姿を見た父は、ただただ困り果てていました。

「当家への不義理と見做す」
 それだけをラッセル子爵に告げた父は、私を抱えてロドニー伯爵家へと帰りました。

 お義母様は私の境遇を同情してくださいましたが、父は私の扱いに手を焼いていました。
 屋敷の離れも、遠縁の家も駄目なら、どこへ出せばいいのか・・・・・・亡きお母様の伝手で入った寄宿学校も修道院も、結局追い出されて。

 何年、十何年経とうと、私は醜い厄介者――
 その事実を思い起こされて、私は体の震えが止まりませんでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...