8 / 80
第8話 出会い
しおりを挟む
全部で十体のネズミのモンスターを倒すのは簡単だった。チュートリアルクエスト用のモンスターだから、すぐに終わるように作られていたのだろう。相手は実体を持つ動物ではないし、あくまでもゲーム用に作られたデジタルデータでしかないはずなのだが、短剣で斬った感触は本物としか思えず、なんとも後味の悪い気分が拭えなかった。
モンスターの血が飛び散るわけでもないし、死骸が転がるようなこともないのだが、実際に殺傷をしたような変な気分だ。
倒したモンスターは霧のように消え、後にはドロップされたアイテムと通貨が転がり落ちるだけだ。わざわざ自分の手で拾わなくても、オート機能が働いて自動的にアイテム欄に追加される。
左手首の端末に収納されるアイテム欄は、わかりやすく言えば有名な猫型ロボットの四次元ポケットのようなもので、持てるアイテム数の上限が決まっていない。無限に持てるのだが、かさばることも邪魔になるようなこともない。必要な時に必要なアイテムが取り出せるので、探すのが大変になるようなこともない。
厳密に言えば初期状態で持てるアイテム数には上限があるのだが、レベルアップまたは課金で、持てるアイテム数が無限に増やせる。
少量のアイテムしか持っていないナツキは、まだ課金する必要はなさそうだった。今のところ持てるアイテム数は二十個で、ひとつレベルアップするたびに一枠が増え、一回百円を課金するごとに一枠増やせる。千円払えば十枠増やせる計算だ。これを高いと思うか安いと思うかは人による。
やっとチュートリアルクエストが終わったので、新しいクエストを探さねばなるまい。村人のNPCに話しかければ何かしら仕事をもらえるのだろうが、クエストを配布しない、決まった台詞を話すだけのNPCも多いので、誰に話しかければいいのやらと迷う。
ふと周囲を見渡せば、ナツキと同じようにゲームを始めたばかりの人たちがあちこちでウロウロしていた。皆、余裕がないのか、それともどうでもいいのか、他のプレイヤーには目もくれない人ばかりだ。
そんな中、ふと視線を感じて振り返った。村長のNPCの前に立つ男が、じっとナツキを見つめている。
「…………?」
気まずくて、ナツキはすぐに視線をはずした。見ず知らずの男にじっと見つめられるのは変な感じだ。何かゲームの進行でわからないことでもあるのだろうか。
美形で背の高い男だった。茶色の髪も肩にかかるほど長く、中世ヨーロッパ風の出で立ちだ。装備が揃っているので、ゲームを始めたばかりの初心者ではなさそうだった。
動きやすそうな革の鎧を身にまとい、強そうな太い剣を腰にはいていた。そんなベテランゲーマーなら、初心者プレイヤーのナツキには用などないはずだ。
男はどんどん近づいてきた。
「なあ、おまえ名前は?」
「えっ?」
不躾な態度に驚いた。彼はまじまじとナツキの顔を見つめながら、さらに口を開く。
「名前」
「な、名前?」
「あるだろ? 名前」
「な、なつ、ナツキです」
「ななつなつき?」
「ナツキですっ」
名乗ってからすぐに、ナツキは本名を使ったことを後悔した。顔もそのまま、名前もそのまま。もし目の前の男が同じ大学に通う生徒だったら、非常に面倒くさい。
ゲームを楽しむというのは、現実のしがらみを忘れるという意味も含まれているのだ。少なくともナツキはそうだ。辰泰の誘いを断ったのも、現実との関係をゲーム内でも引きずるのが面倒だったからだ。
モンスターの血が飛び散るわけでもないし、死骸が転がるようなこともないのだが、実際に殺傷をしたような変な気分だ。
倒したモンスターは霧のように消え、後にはドロップされたアイテムと通貨が転がり落ちるだけだ。わざわざ自分の手で拾わなくても、オート機能が働いて自動的にアイテム欄に追加される。
左手首の端末に収納されるアイテム欄は、わかりやすく言えば有名な猫型ロボットの四次元ポケットのようなもので、持てるアイテム数の上限が決まっていない。無限に持てるのだが、かさばることも邪魔になるようなこともない。必要な時に必要なアイテムが取り出せるので、探すのが大変になるようなこともない。
厳密に言えば初期状態で持てるアイテム数には上限があるのだが、レベルアップまたは課金で、持てるアイテム数が無限に増やせる。
少量のアイテムしか持っていないナツキは、まだ課金する必要はなさそうだった。今のところ持てるアイテム数は二十個で、ひとつレベルアップするたびに一枠が増え、一回百円を課金するごとに一枠増やせる。千円払えば十枠増やせる計算だ。これを高いと思うか安いと思うかは人による。
やっとチュートリアルクエストが終わったので、新しいクエストを探さねばなるまい。村人のNPCに話しかければ何かしら仕事をもらえるのだろうが、クエストを配布しない、決まった台詞を話すだけのNPCも多いので、誰に話しかければいいのやらと迷う。
ふと周囲を見渡せば、ナツキと同じようにゲームを始めたばかりの人たちがあちこちでウロウロしていた。皆、余裕がないのか、それともどうでもいいのか、他のプレイヤーには目もくれない人ばかりだ。
そんな中、ふと視線を感じて振り返った。村長のNPCの前に立つ男が、じっとナツキを見つめている。
「…………?」
気まずくて、ナツキはすぐに視線をはずした。見ず知らずの男にじっと見つめられるのは変な感じだ。何かゲームの進行でわからないことでもあるのだろうか。
美形で背の高い男だった。茶色の髪も肩にかかるほど長く、中世ヨーロッパ風の出で立ちだ。装備が揃っているので、ゲームを始めたばかりの初心者ではなさそうだった。
動きやすそうな革の鎧を身にまとい、強そうな太い剣を腰にはいていた。そんなベテランゲーマーなら、初心者プレイヤーのナツキには用などないはずだ。
男はどんどん近づいてきた。
「なあ、おまえ名前は?」
「えっ?」
不躾な態度に驚いた。彼はまじまじとナツキの顔を見つめながら、さらに口を開く。
「名前」
「な、名前?」
「あるだろ? 名前」
「な、なつ、ナツキです」
「ななつなつき?」
「ナツキですっ」
名乗ってからすぐに、ナツキは本名を使ったことを後悔した。顔もそのまま、名前もそのまま。もし目の前の男が同じ大学に通う生徒だったら、非常に面倒くさい。
ゲームを楽しむというのは、現実のしがらみを忘れるという意味も含まれているのだ。少なくともナツキはそうだ。辰泰の誘いを断ったのも、現実との関係をゲーム内でも引きずるのが面倒だったからだ。
29
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる