63 / 80
第63話 久しぶりの再会
しおりを挟む
結局、辰泰の家に泊まった那月は、日曜日の昼間に帰宅した。
あまりにも眠気が強く、ゲームする元気がない。那月はそのままベッドで昏倒し、気づいた時には夕方になっていた。
カップラーメンを食べた後、ちょっとだけログインしようと思ってヘッドセットを装着した。仰向けに横たわる。
宿屋の中だった。前回、ここでログアウトしたのだ。急に思い出した。
リュウトとスオウとセックス三昧の時間を過ごし、そのままリアルに戻ったのだ。
ナツキは思い出して赤面した。
「誰も……いないよな?」
室内を見渡して、ナツキは宿屋を後にした。
外は夜だった。盛大な星空に向かって手を伸ばし、ナツキは大きく深呼吸をする。満月が美しかった。
雪平海咲の世界。
作者の顔なんて知らないほうがよかったのかもしれない。彼は世界のどこかにいる架空の存在でよかったのだ。肉眼で見える距離のリアルにいる彼の顔も声も、あの眼差しも、すべて知らないままのほうがよかったのだ。
「ナツキ」
リュウトの声がして、ぎくりとした。振り向くと、彼はすぐ傍に立っていた。
「スオウは?」
「まだ会ってない」
正確には、スオウの中の人と朝まで一緒にいた。だがそれは口にはしない。
「久しぶりだな」
懐かしそうにリュウトが言う。
「ゲームの中はリアルよりも時の流れが早いから」
「って言ってもまだ、一週間ぐらいしか経ってないよ」
ナツキが笑うと、リュウトも笑った。内心でホッとする。よかった。怒っていない。
「今日はどうする?」
リュウトが問いかけてきた。ナツキに選択肢を投げかけるとは珍しい。
いつもリュウトのやりたいほうへと強制的に持っていくのに。
「ゲームしたい。普通に。戦って強くなりたい」
「そうか」
「今日は俺、ひとりで行動してもいい? ひとりで戦って強くなって、地道に経験値を稼ぎたい」
「わかった」
今日のリュウトは不思議なほど素直だ。
久しぶりに会ったのだから、身体を求めてくると思っていた。
「じゃあ、俺も俺で行動する。じゃあな」
「あ、うん……」
やけにあっさりとしている。ナツキはぽつんとひとり残された。
「よし、じゃあ普通に戦うか」
端末を開いて見ると、リュウトはすでにログアウトしていた。プライベートが忙しいのだろうか。スオウもいないようだ。
「寝てんのかな、あいつ」
那月が昏倒するように眠っていたように、辰泰も寝ているのかもしれない。
ナツキは端末を操作して地図を開いた。ホログラムのように浮かびあがる。
「まだ行ってないところ……まだ行ってないところ……」
ウラクの町を出て道沿いに進むと、グランデルクの城がある。ここはまだ一度も足を踏み入れていなかった。噂によると廃墟の城らしい。ひとりで行くのは無謀かもしれない。そう思いつつも、行ってみることにした。
回復系のアイテムを買い揃え、武器も新調した。
馬などの乗り物を買うと進むのが楽になるので、とりあえず一番安い馬を買ってみる。八百円。乗り物が大型化したり、速くなったりするほど高価になる。ゲーム内通貨では買えない。八百円ぐらいから始まり、高価なものだと二千円以上まである。リアルな通貨での課金だ。
本当はそろそろ新しい町にも行きたい。ウラクの町は、初心者の村でスタートしてから二番目の町なので、いつまでもここにはいたくなかった。レベルは多少あがっているのに、これでは全然ゲームが進んでいないみたいではないか。
ウラクの町の外に出ると、乗り物アイテムとしてしまっておいた馬を端末から取り出す。大きな茶毛の馬が、ヒヒヒヒーンといなないて地面に降り立った。じっとしてナツキが乗るのを待っている。
馬の乗り方など知らないが、そこはやはりゲームなので問題なかった。身体が勝手にスムーズに動き、馬の背中にすんなり乗る。ただ、問題はここからだった。
「……あっ」
性感のステータスが高いせいで、感じてしまう。
馬が数歩歩き、ナツキの尻が軽くバウンドする。
「……あっ、あっ……」
耐えるように手綱をつかんだ。
走り出したらどうなってしまうのだろう。
(だから、数値あげすぎなんだよ)
怒りはリュウトとスオウに向かう。
性感のステータスを下げるアイテムがあったら今すぐ買いたかった。
馬が走り出す。ナツキの尻が浮いては落ちる。馬の背中に尻が当たるたびに、ナツキはびくびくとした。
「あっ、あぁっ……はぁっ……あっ」
馬から落ちないようにするだけで精一杯だった。
乗り物に乗るとモンスターには遭遇しない仕様になっている。ナツキはなんとかグランデルクの城に到着し、紅潮した頬ではあはあと呼吸を乱しながら、馬から降りた。
「……盲点だった」
馬の背中にこんなに感じてしまうとは。
馬をアイテム欄に戻し、ナツキは呼吸を整える。頭はまだ朦朧として変だったが、ナツキはここに戦いにきたのだ。性感帯を刺激しにきたわけではない。
あまりにも眠気が強く、ゲームする元気がない。那月はそのままベッドで昏倒し、気づいた時には夕方になっていた。
カップラーメンを食べた後、ちょっとだけログインしようと思ってヘッドセットを装着した。仰向けに横たわる。
宿屋の中だった。前回、ここでログアウトしたのだ。急に思い出した。
リュウトとスオウとセックス三昧の時間を過ごし、そのままリアルに戻ったのだ。
ナツキは思い出して赤面した。
「誰も……いないよな?」
室内を見渡して、ナツキは宿屋を後にした。
外は夜だった。盛大な星空に向かって手を伸ばし、ナツキは大きく深呼吸をする。満月が美しかった。
雪平海咲の世界。
作者の顔なんて知らないほうがよかったのかもしれない。彼は世界のどこかにいる架空の存在でよかったのだ。肉眼で見える距離のリアルにいる彼の顔も声も、あの眼差しも、すべて知らないままのほうがよかったのだ。
「ナツキ」
リュウトの声がして、ぎくりとした。振り向くと、彼はすぐ傍に立っていた。
「スオウは?」
「まだ会ってない」
正確には、スオウの中の人と朝まで一緒にいた。だがそれは口にはしない。
「久しぶりだな」
懐かしそうにリュウトが言う。
「ゲームの中はリアルよりも時の流れが早いから」
「って言ってもまだ、一週間ぐらいしか経ってないよ」
ナツキが笑うと、リュウトも笑った。内心でホッとする。よかった。怒っていない。
「今日はどうする?」
リュウトが問いかけてきた。ナツキに選択肢を投げかけるとは珍しい。
いつもリュウトのやりたいほうへと強制的に持っていくのに。
「ゲームしたい。普通に。戦って強くなりたい」
「そうか」
「今日は俺、ひとりで行動してもいい? ひとりで戦って強くなって、地道に経験値を稼ぎたい」
「わかった」
今日のリュウトは不思議なほど素直だ。
久しぶりに会ったのだから、身体を求めてくると思っていた。
「じゃあ、俺も俺で行動する。じゃあな」
「あ、うん……」
やけにあっさりとしている。ナツキはぽつんとひとり残された。
「よし、じゃあ普通に戦うか」
端末を開いて見ると、リュウトはすでにログアウトしていた。プライベートが忙しいのだろうか。スオウもいないようだ。
「寝てんのかな、あいつ」
那月が昏倒するように眠っていたように、辰泰も寝ているのかもしれない。
ナツキは端末を操作して地図を開いた。ホログラムのように浮かびあがる。
「まだ行ってないところ……まだ行ってないところ……」
ウラクの町を出て道沿いに進むと、グランデルクの城がある。ここはまだ一度も足を踏み入れていなかった。噂によると廃墟の城らしい。ひとりで行くのは無謀かもしれない。そう思いつつも、行ってみることにした。
回復系のアイテムを買い揃え、武器も新調した。
馬などの乗り物を買うと進むのが楽になるので、とりあえず一番安い馬を買ってみる。八百円。乗り物が大型化したり、速くなったりするほど高価になる。ゲーム内通貨では買えない。八百円ぐらいから始まり、高価なものだと二千円以上まである。リアルな通貨での課金だ。
本当はそろそろ新しい町にも行きたい。ウラクの町は、初心者の村でスタートしてから二番目の町なので、いつまでもここにはいたくなかった。レベルは多少あがっているのに、これでは全然ゲームが進んでいないみたいではないか。
ウラクの町の外に出ると、乗り物アイテムとしてしまっておいた馬を端末から取り出す。大きな茶毛の馬が、ヒヒヒヒーンといなないて地面に降り立った。じっとしてナツキが乗るのを待っている。
馬の乗り方など知らないが、そこはやはりゲームなので問題なかった。身体が勝手にスムーズに動き、馬の背中にすんなり乗る。ただ、問題はここからだった。
「……あっ」
性感のステータスが高いせいで、感じてしまう。
馬が数歩歩き、ナツキの尻が軽くバウンドする。
「……あっ、あっ……」
耐えるように手綱をつかんだ。
走り出したらどうなってしまうのだろう。
(だから、数値あげすぎなんだよ)
怒りはリュウトとスオウに向かう。
性感のステータスを下げるアイテムがあったら今すぐ買いたかった。
馬が走り出す。ナツキの尻が浮いては落ちる。馬の背中に尻が当たるたびに、ナツキはびくびくとした。
「あっ、あぁっ……はぁっ……あっ」
馬から落ちないようにするだけで精一杯だった。
乗り物に乗るとモンスターには遭遇しない仕様になっている。ナツキはなんとかグランデルクの城に到着し、紅潮した頬ではあはあと呼吸を乱しながら、馬から降りた。
「……盲点だった」
馬の背中にこんなに感じてしまうとは。
馬をアイテム欄に戻し、ナツキは呼吸を整える。頭はまだ朦朧として変だったが、ナツキはここに戦いにきたのだ。性感帯を刺激しにきたわけではない。
22
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる