魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

まほうのしくみ

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「……どれ?」

 だがしかし、標的は常に動き回っている。
 ミノッチは新聞を片手に眉根を寄せた。

「これ?」

「バッ、ミノッチ! そいつ違う! 今、右に移動したヤツだって!」

「どれだよ!」

 メガネ君が指示を出し、ミノッチが叩く。
 しかし、メガネ君はどれが本体なのか分かっているのだが、ミノッチには伝わらない。

 叩くごとに赤い疾風のおぞましい幻覚は増えていくばかり。

 右を見て、赤い疾風。
 左を見ても赤い疾風。
 壁にも机の上にも、部屋中が赤い点々で彩られている。
 赤い点々がうごめく光景に、こちらは点々と鳥肌が立つ。

「あーもー! オマエが分かってんなら、オマエが直接叩けよ!」

 ついに、赤い疾風追撃実行隊長のミノッチがキレた。

「うっさい! ボクは叩いたときの、新聞ごしでも分かる、プチって感触がイヤなんだ!」

「俺だってイヤに決まってんだろ!」

 ついに仲間割れ大戦が勃発。
 ヤツ等は既に第一次と二次の大戦を余裕で通り越し、プロポーズできそうな百一回目も先日迎えたばかりだった。

「術者にしか分からないというのが、この魔法の弱点ですね」

 喧嘩を横目に坊ちゃんがぽつりと呟く。
 あくまでも彼は落ち着いている。

「まぁ、風の精霊が術者の耳元にそっと教えてくれるだけだからな」

「弱点が誰にでも分かるように、マーキングできれば良いんですけどね。例えば光とかで」

「光の属性を持たせる……魔法の合成をするってこと?」

「理論上は可能です。風と光の精霊に協力を呼び掛けるだけですし」

 さすがは魔法オタクと言うべきか。
 彼は筆記試験の成績は常にトップで、更には教員達と対等に議論を交わすことができるというレベルだった。
 自分は平凡な頭なので魔法の合成なんて考えたこともなかった。

「二つの精霊分の魔力が必要ってことか。消費魔力が半端なさそうだな。それに、各精霊と契約してるならまだしも、契約もしてない人間ごときの呼び掛けに従うと思うかぁ?」



 ここで簡単に魔法の仕組みを説明しよう。

 樹木や土、水や火といったものから、光や闇など、普段目にすることは滅多にないが、この世に存在するものには様々な精霊達が宿っている。
 小石の一つや雑草などにも、それぞれに力の差はあれど、一人ずつ棲んでいるのだ。
 魔法を発動するには精霊達に呼び掛け、力を貸してもらうことが必要だ。

 厳密に言うと、何も無いところから火や雷といった魔法を生み出すのではなく、精霊を介して放つもの。
 精霊の力を借りず、自分の力だけで魔法を使うなんてことは不可能である。

 その為に「火の精霊に申し上げる」云々と仰々しくお願いをして、そこで精霊達がやっと力を貸してくれるのだ。
 ファイヤーボールなら、火の精霊が五百人とか。

 彼等と契約を交わせば、もう少しフレンドリーな間柄になることができる。
 特典として、魔法の詠唱を少し省略とか、合図を決めて簡略化できるようになるとか。

 精霊達を束ねる精霊王と契約すれば精霊達の支援は思いのまま、魔法は使いたい放題だという噂もあるが、そんなレアキャラが簡単に地上を闊歩しているわけがない。
 これもまたガセネタの一つだろう。



 そして、夢の中の俺は、いつもの答えを口にしていた。

「精霊達に指示出したところで聞きやしないって。逆に絡まれるのイヤだからな」

 人間は自分達よりも劣った存在であるというのが、精霊達の中で格付けされているらしい。
 魔法のお願いは聞いてくれるものの、効力の微妙なカスタマイズについて聞くことはないと言われている。
 逆に「人間のクセに生意気だぞ」と怒らせてしまうことも充分にあり得るのだ。

「僕が痛いワケじゃないから大丈夫。アルカ君、ファイト!」

 坊ちゃんが会心の笑みを見せる。
 ビン底メガネがきらりと光った。

「ファイト! じゃねーよ! 何、親指立てて爽やかな笑顔しちゃってんの!」

「僕は魔法を使いたくても使えません。だから、魔法が使える君は僕の憧れなんですよ」

「おだてたって駄目だから! 俺だって痛いのイヤだって!」

「それじゃあ、必ず精霊達を説得できる口説き文句を僕も考えますから、挑戦してみませんか?」

「で、失敗したら一緒に痛い目……」

「あ、それはお断りします」

「断るのかよ! 友達なんだから、そこは一緒に受けようよ!」

「えー、しょうがないですねえ。いざとなったら、僕が守るよう努力はします」

 彼は笑っていた。
 俺もつられても笑っていた。

 あぁ、まだこの頃は笑っていたんだ……。

 後日、魔法の合成に成功したのは言うまでもない。
 魔王戦で効果は実証され、俺はその功績を称えられ、称号を授けられた。

 でも、これは俺だけの実力じゃない。

 授与式の後、俺と坊ちゃんは微妙に距離をおくようになった。
 いや、実際に距離をおいてしまったのは俺だ。
 一人だけ授かるというのが、まるで罪のように思えたから。

 そして、中等部二年の、あの日、あのとき……事件が起きた。

「あれ?」

 不意にふんわりと暖かな空気が俺を包み込んできた。
 心地良さに身を任せていると、体が上に引き上げられるような感覚が。
 どうやら眠りから覚醒するようだ。
 みんなの姿がぼやけ、周囲が暗くなっていく。

 嫌だ。
 今覚醒しても、あの冷たくて暗い物置の中じゃないか。

 俺の意に反して意識はするすると上昇していく。
 そして、目が覚めた。


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