魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる

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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者

えす とか えむ とか

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 目が覚めても俺の身は暖かいものに包まれている。瞼の向こうがほのかに明るい。

 朝?
 いや、この部屋に窓なんてあったのか?

 不思議に思って目を開くと、

「夜明けにはまだ少し早い。寝ていろ」

 ヒカリゴケのランタンに照らされて、絶世の美女ならぬ、絶世の美男子が紫水晶の瞳をきらめかせた。
 彼の吐息が俺の鼻を僅かにくすぐる。

 どうりで暖かいと思ったら、彼が俺を己の腕の中に包み込み、添い寝をしてくれていたからであって。
 しかも、どこから持って来たのか、ふわっふわで肌触りの良い毛布まで。
 準備が良いにもほどがある。

「びょおぉぉぉおお……!」

 口から危うく飛び出すところだった悲鳴を、飲み込むというよりは吸い込んだ。

 俺の捕縛を解いてくれたのは感謝する。
 暖かい腕の中に包み込んでくれているのもありがたい。

 でも、俺は、柔らかなお姉さんの方が良かった!
 たわわに実ったおっぱ……じゃなくて、何でこの人がここにいるんだ?

「具合でも悪いのか?」

 俺の心境を察することなく、むしろ奇声を発したことに対して彼が心配そうな顔をする。

「い、いや別に……というか、何でバルトがこんなトコにいるの!」

 見知った相手が目の前にいるのだから、一瞬、夢かと思いたくなる。
 自分の頬を手加減してつねるが、どうやら夢ではないらしい。

「夢なんかじゃない」

 バルト・シェイドは小さく笑った。

 漆黒の髪、女も羨むような白磁器の肌、中性的な顔立ち……こんな恵まれた容姿に俺も生まれていたら、間違いなく女性関係に不自由するという生活を知らなかっただろう。

 この彼も古くから知る友人のエルフであり、俺に魔法を最初に教えてくれた、言うなればお師匠様である。
 村を出てからもたまに会っていたのだが、ここのところ、とんとご無沙汰していた。
 最後に顔を見たのは確か二ヶ月前のはず。

 それが、こんな場所で再会だなんて驚かない方が無理というものだ。

「レオンから、アルカが面白いことになっていると聞いた。それで見に来てみれば、網の中に入れられ、口も塞がれたお前を発見したんだ」

「あンの鬼畜エルフ……」

 最初から見ていたのなら、助けてくれたって良いじゃないか。
 いや、鬼畜だからこそ、俺が捕まるのをニヤニヤしながら見ていたに違いない。
 あの憎たらしいほど凶悪な笑顔を思い出しただけでも腹が立つ。
 思わず怒りの握り拳を作ると、

「スマン、あのまま拘束されている方が好きだったのか?」

 バルトは申し訳なさそうな表情を見せる。
 彼の気遣いがバックホームしようとして大暴投していた。
 だから、俺はエスとかエムの趣味はなくて……。

「今の話の流れから分かるでしょ? レオンに俺は怒ってんの!」

「そうなのか?」

 そうなんですと俺は頷く。

 この人の天然発言は相変わらずだ。
 でもまあ、こんな状況だからこそ、それがちょっと嬉しいんだけども。

 いつまでも彼の腕の中というのも恥ずかしいというか、微妙にしょっぱい気分になるので、一度身を離して起き上がる。
 添い寝だけで暖かかったのかと思いきや、黒い毛皮が下に敷かれていた。

「風邪を引いたら大変だからな。こちらで用意した」

 用意が良いなと感心してしまう。
 俺もこういう、気遣いのできる大人になりたい。
 バルトも俺に続いて身を起こし、

「それにしても、新しい修行の一つかと思った」

 真顔のまま彼の天然発言が続いた。

「お前は口と身動きを封じられてしまったら、魔法が使えないだろう? だから、そんな状況下でもせめて拘束を解く魔法を開発しているのかと」

「いやいやいや、ただ捕まってただけですから」

 バルトの発言にはいちいちツッコミを入れざるを得ない。
 彼は綺麗な顔できょとんと目を瞬かせ、

「村の人達はお前の修行に協力してくれたのではなく?」

「違う。俺の依頼人はこの村の人達にとって敵であり、雇われた俺もまた彼らの敵ってことらしい」

「それでは、村人はお前の敵ということか」

 ゆらりと暗い怒りの炎がバルトの瞳に宿った。


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