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zh@

14:野良

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 マッチングしてすぐ分かった。マキだ。

「は?」

 名前を見て、思わず二度見した。隣りにいるキャラのユーザー名にも見覚えがある。ヤカモレさんだ。マキの動画は見なくなって久しいが、ヤカモレさんは安定したプレイ動画と落ち着いた会話やコメ欄が心地良くてたまに見ていた。マキとよくコラボしているのも知ってる。そこで見るマキは相変わらず下手な部類だが多少はマシになっていた。
 思わずゲーム固有のボイスチャットを開いて「本物ですか?」と聞いてしまった。

「そだよー」

 答えた声は本当にマキの声だった。
 途端にぶわりと体中の毛が逆立つような錯覚をした。見切りをつけたはずの推し配信者と初めて会話し、手のひらを返すようにファンに戻ってしまった。

「よく見てます。光栄です、頑張ります」

 やる気がでた。ただのカジュアルの試合なのに。いつも見てる側だった配信者とプレイしている。
 敵と見るや否や突っ込んでいくマキのプレイスタイルはよく知っている。出来る限りサポートしようとボイスチャットを開いたままプレイを続けたら、ヤカモレさんに話しかけられた。

「えーと、野良さんはスナイパー?」

 野良と呼ばれ、スナイパーライフル用の弾薬が必要か聞いてきた。
 俺のユーザー名は人間が発音するためには出来ていない。働き始めてゲームする時間が減り、誰かと一緒にプレイしたり固定メンバーを組むことが少なくなり、適当なユーザー名をつけていた。「AAA」でも良いくらいだったがそれはシステム側に叱られたので「zh@」にした。明らかに呼び方に迷いのあるヤカモレさんに、もっとマシな名前をつけときゃ良かったと後悔する。
 ヤカモレさんは配信で見る通り、視野が広くて観察眼がある。まだ接敵してないが、ライフル用のスコープや装備品を拾う姿を見て、俺のプレイスタイルを言い当てた。

「えっ、スナイパー珍しい~。当たらんくない?」
「本当に上手い人は単スナ使うよね」

 マキとヤカモレさんが話している声が聞こえる。二人とも俺と協力しようとボイチャを開いたままにしてくれていた。褒められている。悪い気はしない。近距離二人のためにサポートに徹した。

 拠点を作って籠城するのはどのFPSゲームでも戦略の1つだ。俺がスナイパーだからとヤカモレさんは高さのある建物を拠点に選び、俺はどうせマキが突っ込んでいくのなら最初からこっちが先制しようと遠距離で敵にダル絡みした。嫌がらせのつもりで何発か単スナで狙撃すると、当たりどころが良かったのかあっさりとアーマーが割れた。それならと思い切りよくマキが敵の拠点に突っ込んでいく。一人で詰めて正面玄関から入っていった。
 いや、正面玄関? 思い切りが良すぎる。理由のない正面突破だ。よっぽどフィジカルに自信があるのかと思えば、すぐにステータスが出血中のマークになり、間髪入れずに救援要請が飛んできた。即死だ。何やってんだと声に出そうになるのを我慢する。馬鹿かこいつは。……そういや馬鹿だった。
 そのままヤカモレさんも俺も反撃を食らって全滅した。

「え~~~、ごめん野良さん!」

 チャンスを作った俺にマキが謝る。別に良い、野良でカジュアル回してたらこんなもんだ。ただもう少しこの試合を楽しみたかった気持ちはある。残念だ。

「……惜しかったですね」

 どうせもうマッチングすることも無いだろうと、今の試合の反省点を1つずつ指摘した。出来るだけフラットに話したつもりだったが、マキにはヤカモレさんの倍以上挙げ連ねてしまった。これで少しでも上手くなってくれればと思っていたら、「ねぇ、またやらない?」とマキが誘ってきた。

「固定メンバー欲しくてさ」
「…………」

 固定メンバー? 俺が? この二人と?
 言葉が出てこない。口から出ない言葉は頭の中にぐるぐる回っていた。返事をしないでいると「とりあえずフレ申請しとく! 考えといて!」とマキが言ってマッチングが切れた。すぐにゲーム内でのフレンド申請の通知が表示される。マキのユーザー名だ。

「……ッ」

 ガンッ。いてぇ。違う、これは台バンじゃない。体内で回っていた言葉とか感情とか放出されなかった色々がエネルギーとして漏れ出てしまった物理法則だ。思わずデスクを蹴って突っ伏していた。

 俺はゲームが上手い方だと思う。これまでも何回か誘われて待ち合わせてプレイすることはあった。フレンドリストも0じゃない。
 だが嬉しいもんだ、自分が気に入ってるやつに自分も気に入られたら。
 すぐに申請を承認してその中にマキを加えた。固定というからにはそれなりの回数を一緒にやるつもりなんだろう。俺が見てない分のマキの配信アーカイブを何本か見た。マキは問題児扱いされて同接が落ち込んだときも一人でずっとFPSをやっていた。何度も敵に突っ込んでいっては負ける姿を見た。何度も何度も。懲りずに反復し、徐々に勝率が上がっていく。やがて1対3でも勝つ気概を見せ、実際に勝つようになった。とんだフィジカルモンスターだ。――悪くない。後は立ち回りと、きちんと戦況が把握出来てれば……俺がサポートすればいいのか。固定の誘いに了承するメッセージを送った。
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