【完結】ゲーム配信してる俺のリスナーが俺よりゲームが上手くて毎回駄目だししてきます

及川奈津生

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zh@

19:雑談配信

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 通話アプリからログアウトする。メロディアスに音階が下がる効果音を最後に耳にしてヘッドホンを外した。ゲーミングチェアに背を預けて軋ませながら、大きなため息をついた。

「……泣いちまったな」

 独りごちる。でもそれはただの独り言にならず、何人かのリスナーが反応してコメントした。
 マキたちの配信に加わるようになって俺の視点も見たいと言うリスナーのために、垂れ流すだけならと俺の視点配信も始めた。サブスクも投げ銭も解放してない、コメントを拾って会話もほとんどしたことがない、正真正銘の垂れ流し配信だ。それでもいくらかチャンネル登録者がいて、リスナー自身も独り言のようにいつもコメントを残した。『お疲れ』『頑張った』『格好良かった』……今日も俺の独り言に対してそんなコメントが並ぶ。まだマキ達のマスター昇格の余韻が引かない。早く寝たほうが良いことは分かっていたが、体が動かなくてマウスをスクロールしてコメントを遡って見た。

「俺の戦績? ……通知表発表するか」

 気まぐれにゲームでのスコア表示リクエストに答えると、途端にコメント欄が沸いた。よっぽど俺がリスナーに反応するのが珍しいのか『おおお』とか『ぜっとさーーーん!!』とかどう返したら良いか分からないコメントが来る。

「ははっ、デス数やべぇ」

 自分自身のプロフィールを表示させる。今までの試合での平均デス数だのキルポイントだのたくさんの数字が並ぶ。

「死に過ぎだ」

 俺がそう自分のスコアを評すると『蘇生マシンヤカモレ』とヤカモレさんを揶揄するコメントがされた。いつもいつも俺やマキをいち早く蘇生させるのがヤカモレさんだからだ。『ただの蘇生係』というコメントには言い返さざるを得ない。

「ただの蘇生係じゃねーよ、ヤカモレさんが蘇生しに来てくれるって安心感のあるなしは全然違う。あの人、まじで落ちないしミスしないよな。グレや能力の使い所が上手い。必ず当てる。ヤカモレさんはそういう安定感が強みだよ」

 ……少し饒舌に話し過ぎたか。まあいい、どうしても批判的になりがちなコメント欄にはいつか一言言ってやろうと思ってた。じゃあマキはどうなんだと返され、「あ? マキ? あいつは下手」と答えると草が生える。

「マップ見るの下手過ぎなんだよ。動体視力と反射神経だけでゲームしてるから、まじで見えてる部分だけ。見えてない部分を考える力が無さ過ぎる。……そう、インファイトだけくそ強い。アクションゲームって部分ならすげぇ上手い」

 結局褒めてしまったから笑える。

「多分格ゲーの方が向いてる」

 今まで思ってても口に出さなかったことを言うと『分かる』とリスナーが同意する。本当によく見てる。今残ってるリスナーは平日の深夜にも関わらず最後の試合まで付いてきて、しかもマキやヤカモレさんじゃなくて俺の配信を見てるようなガチ勢だ。撃てば響くやりとりをぽつぽつと繰り返す。

『ぜっとさんの与ダメージやばい』
「ああ。俺のは一発がでかいから」
『合計ゲーム数多すぎw 仕事しろ』
「うるせぇな、仕事はしてる」
『まじで感動した。ゲームでもらい泣きするとは思わんかった』
「…………」

 ときどきこういうコメントがあるから困る。まだ終わったばかりで余韻が引いてない。

「はは、たかがゲームで泣いちまったな。良い大人が」

 俺がそうわざと自嘲すると、批判すれば良いものをフォローしてくる。

『真剣にチームプレイして、一人でも黙々と練習して努力して、しかもそれが自分のためじゃなくて仲間のランク昇格のため。格好良過ぎだろ。ただのゲームじゃないよ』

 やめろ、それ以上言うな、また泣く。配信にカメラつけてなくて良かった。身バレ防止のためだが、目尻を押さえてるのをバレないのは助かる。

『良いな、大人になってもこんな風に一緒に真剣にゲーム出来る友達が居て。ジジイになっても一緒にゲームしててくれ』

 ――友達か。耳慣れない言葉だ。友達というには相手のことを知らなさ過ぎるし、マキは年も離れてる。そういう感覚じゃない。むしろずっと、俺にとっては最初に野良でマッチングしてからの延長線上だ。推しの配信者とゲームしてるんだから、光栄なんだ。頑張ってる。上手くなって欲しい。目標達成に協力したい。

「……俺すげぇファンだったんだよな。マキの」

 リスナーに答えるために暴露すると草と驚きが並ぶ。

「古参だよ、古参。筋トレ配信とか見てた。ははっ、あれ何の時間だったんだろうな」

 同じく古参のマキのファンが色めきだってコメントし始めた。何で俺の配信見てんだこいつら。マキの方行けよ。

「何で? ……あー、顔が良いから。はは、ファンガか」

 ぶっちゃけると何だか胸のつかえがとれたような開放感がある。泣いてすっきりした妙なテンションに任せて、俺はそのまま聞かれるままに答えていた。眠いのに寝たくない、変な気分だった。唇が乾いてタンブラーから水を飲み、時計を見る。流石に話し過ぎかと配信を切り、シャワーを浴びてベッドに倒れた。

 気絶するように寝て、電話のコール音に起こされた。ベッドサイドの充電ケーブルを手繰り、スマホを手に取る。相手を見て無言で通話ボタンを押した。

「あ、ぜっとさん? おはよう」

 寝起きにマキの声が染みる。

「……起きてる?」
「……ああ」

 ぎりぎり起きてる。頭が重い。今日も仕事かと思うと気も重い。なかなかすっきりした返事を返せないでいると、マキが「大丈夫?」と心配した。

「大丈夫」
「え~~~、ほんと? なんか、らしくないなあ。……てか、昨日のこと覚えてる?」

 昨日?

「……おめでとう」
「え? あー、はは、ありがとう」

 昨日といえばマキとヤカモレさんのマスター昇格だ。それを改めてお祝いすると「それはそうなんだけど」とマキが俺の祝いの言葉をすぐに隅に追いやった。そのまま何やらもごもご言ってるが、聞こえん。だんだん頭も覚醒してきたし、モーニングコールの意味は果たしてもらえた。そろそろ切ろうかと思っていたら「まあいいや! 今度飲み行こ!」と突然誘われた。

「あ?」
「マスター昇格のお祝い! 打ち上げしよ」
「……ああ」

 朝っぱらからテンションが高い。ああ、こいつ二次会しつつオールしたのか。なかなか血圧が上がりきらないまま、うんうんとマキの言うことに頷いて通話を切った。もうすぐヤカモレさんが実家の手伝いで地元帰るとか、その前に飲みたいとか、いや一度2人で飲みたいとか、何か色々言ってた気がする。洗面所に向かって歩きながら言われた言葉をきちんと理解しようと噛み砕く。2人で飲みに行くって言ってたな、デートか。デートか……まだぼんやりしてる。鏡で寝不足の自分の顔を見ると、昨日の夜更かしをまざまざと思い出させられた。マスター昇格して、泣いて、それから――はたと、歯ブラシを取る手が止まった。何か、思い出したぞ。

「……あ?」

 俺、昨日、何喋った?
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