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俺とは対象的に楽しい酒を飲んでいるマキはその後もやたらと俺にちょっかいをかけながら、次々にグラスを空けていった。俺が日本酒の味を覚えさせてしまったから酔うのが早い。トイレから戻ってきたときにはテーブルにぶつかってつまずき、俺の上にのしかかってきた。
「っ、おい!」
これはわざとじゃないことが分かってる。でも非難せずには居られなかった。俺の胸に手をつき、マキが俺を押し倒す形になり、奥の壁に頭をぶつけた。普段の俺ならもっと支えてやれたのかもしれないが、今日はこいつに触りたくないという嫌悪感が勝ち、避けてしまった。お互いに痛い思いをしているとヤカモレさんが「大丈夫?」と心配してくれる。
「ってぇ~……大丈夫」
へら、とマキが笑って俺の腕を取る。
「ごめん、痛かった? 大丈夫?」
「……大丈夫だ」
俺を起こすためにぐいっと力を込めて手を引く。これは善意の避けられない接触だ。大きな手だった。酔ってるから熱くて、力加減がいい加減で必要以上に強かった。心配して俺を見るマキの顔に嘘はない。酔っぱらいの瞳は焦点を合わせようと一生懸命に見つめてくる。俺は視線を返せなかった。
クソ。どうせそうだよ。マキの思ってるとおりだ。
俺はお前が可愛くて仕方がない。
「そろそろお開きにする?」
ヤカモレさんのそれは酔っぱらいを心配しての一言だったが、俺にとっても助け舟だ。
「そうしよう」
俺が頷くとマキが「え~!」と駄々をこねたが、明日地元に戻るヤカモレさんは元々朝が早い。まあまあとヤカモレさんはマキをなだめて会計に持ち込み、外に連れ出した。まだ帰りたくないと言うマキが面倒くさくて俺とヤカモレさんで多く払ったが、恐らくこいつはそんなこと気づいてない。
「ほら、明日日曜だよぉ? 昼から配信するだろ。稼ぎどき稼ぎどき」
「ヤカモレさん早く戻ってきてぇ~!」
「あはは、分かった分かった」
「ぜっとさん、俺を無視するんだよぉ!」
「えー、そうなの?」
「してねぇよ」
ヤカモレさんに肩を組んで絡みながら、マキが不満を言う。それを否定するが、まあ、無視してるな。今だって面倒くさい。
家のガスを止めてブレーカーも落としてるヤカモレさんは繁華街の近くに宿をとっていて、歩いて帰ると言う。早々に俺はマキと二人きりになってしまった。無言で駅へと向かう。
「なー、ぜっとさん」
「…………」
「なあって」
「何だよ」
早足で歩くがマキはぴったりと後ろをついてきた。聞こえないふりも出来ない距離で、仕方なく相手する。
「ぜっとさんちってどの辺?」
「それ聞いてどうすんだよ」
「行きたい」
「は?」
思わず立ち止まって振り返る。
「飲み直そうよ」
へらへらと笑ってマキが俺を見下ろす。キャップのつばで影が出来た顔は俺に向けられていて、今は俺だけのものだ。アルコールが回って赤みをさし、瞳も唇もうるうるとしていた。黒黒としたまつげが酔いで濡れて色っぽく見える。
「連れてって。ぜっとさんち行きたい」
強請りながらマキが俺を引き止めようと腕を取った。
心臓が、ドッと鳴った。
反射的に振り払ってしまう。え?って顔したマキが俺と視線を合わせようとするから、避けてまた歩き始めた。
「え、え、ぜっとさーん?」
まだマキはついてくる。そりゃそうだ、駅に向かってるんだから。俺の家に行くにしろ自宅に帰るにしろ、電車には乗る。何とでも言って断れたのに、俺があからさまに接触を避けて無視したから、マキが訝しんで俺に理由を聞き続ける。
「何? そんな嫌だった?」
嫌だよ。嫌だ。
お前の顔が良いのも体まで好みなのも馬鹿で若くて無神経で人の気持ちも考えずに面白半分でからかってくるところも全部嫌だ。それにいちいち反応してしまう自分が一番嫌だ。どれだけ外見が好みでも俺はマキのことは好きじゃない。すぐ調子に乗る性格なんて最悪だと思ってる。それをクリアしてもノンケなんて好きにならない。絶対に。馬鹿にしやがって、人の気持ちを踏みにじんでその上家に行きたいだなんてよく言える。
「怒ってんの?」
腹が立つ。そんなこともわざわざ言わないと分からないのか。
「なあって!」
わざと聞こえないふりしてんだよ、空気読め。
「あんたの大好きなマキちゃんが話してんだけど!?」
……は?
週末の喧騒のど真ん中、自信満々で言い放った言葉に歩みを止めた。しばらく足元を見た。頭の処理能力が落ちて、落ち着く時間が必要だった。この馬鹿は俺の地雷を踏み抜いている。
マキのことなんか好きじゃない。
それなのにこの名前のない感情を馬鹿にされると腹が立つ。
周りの喧騒が遠くに聞こえる。振り返れば、同じように立ち止まったマキが「ほら見ろ」と言わんばかりに俺を見下ろしていた。つかつかと歩いて近づき、胸倉を掴んだ。
「え、な、んぐ」
ぐっと引き寄せてキスした。何か喋ろうとしたマキの歯が当たってガチンと鳴った。こんなんじゃまともなキスとは言えなくて、一度離れて大きく口を開けて、噛みつくようにマキの唇を口に含んだ。少しずつ唇をすぼめ、下唇を噛んでやる。
「いっ…!」
繁華街の、駅へ向かう人がよく通る道だった。男同士キスしてるのは目立つ。痛めつけるようなそれでも、酔った大学生みたいな連中に口笛を吹かれた。それを合図にマキを突き飛ばす。
「……もう俺を配信に呼ぶな」
それだけ言って足早に駅へと向かった。
後ろでマキが何か言ってたかもしれないが、もう何も聞こえなかった。
「っ、おい!」
これはわざとじゃないことが分かってる。でも非難せずには居られなかった。俺の胸に手をつき、マキが俺を押し倒す形になり、奥の壁に頭をぶつけた。普段の俺ならもっと支えてやれたのかもしれないが、今日はこいつに触りたくないという嫌悪感が勝ち、避けてしまった。お互いに痛い思いをしているとヤカモレさんが「大丈夫?」と心配してくれる。
「ってぇ~……大丈夫」
へら、とマキが笑って俺の腕を取る。
「ごめん、痛かった? 大丈夫?」
「……大丈夫だ」
俺を起こすためにぐいっと力を込めて手を引く。これは善意の避けられない接触だ。大きな手だった。酔ってるから熱くて、力加減がいい加減で必要以上に強かった。心配して俺を見るマキの顔に嘘はない。酔っぱらいの瞳は焦点を合わせようと一生懸命に見つめてくる。俺は視線を返せなかった。
クソ。どうせそうだよ。マキの思ってるとおりだ。
俺はお前が可愛くて仕方がない。
「そろそろお開きにする?」
ヤカモレさんのそれは酔っぱらいを心配しての一言だったが、俺にとっても助け舟だ。
「そうしよう」
俺が頷くとマキが「え~!」と駄々をこねたが、明日地元に戻るヤカモレさんは元々朝が早い。まあまあとヤカモレさんはマキをなだめて会計に持ち込み、外に連れ出した。まだ帰りたくないと言うマキが面倒くさくて俺とヤカモレさんで多く払ったが、恐らくこいつはそんなこと気づいてない。
「ほら、明日日曜だよぉ? 昼から配信するだろ。稼ぎどき稼ぎどき」
「ヤカモレさん早く戻ってきてぇ~!」
「あはは、分かった分かった」
「ぜっとさん、俺を無視するんだよぉ!」
「えー、そうなの?」
「してねぇよ」
ヤカモレさんに肩を組んで絡みながら、マキが不満を言う。それを否定するが、まあ、無視してるな。今だって面倒くさい。
家のガスを止めてブレーカーも落としてるヤカモレさんは繁華街の近くに宿をとっていて、歩いて帰ると言う。早々に俺はマキと二人きりになってしまった。無言で駅へと向かう。
「なー、ぜっとさん」
「…………」
「なあって」
「何だよ」
早足で歩くがマキはぴったりと後ろをついてきた。聞こえないふりも出来ない距離で、仕方なく相手する。
「ぜっとさんちってどの辺?」
「それ聞いてどうすんだよ」
「行きたい」
「は?」
思わず立ち止まって振り返る。
「飲み直そうよ」
へらへらと笑ってマキが俺を見下ろす。キャップのつばで影が出来た顔は俺に向けられていて、今は俺だけのものだ。アルコールが回って赤みをさし、瞳も唇もうるうるとしていた。黒黒としたまつげが酔いで濡れて色っぽく見える。
「連れてって。ぜっとさんち行きたい」
強請りながらマキが俺を引き止めようと腕を取った。
心臓が、ドッと鳴った。
反射的に振り払ってしまう。え?って顔したマキが俺と視線を合わせようとするから、避けてまた歩き始めた。
「え、え、ぜっとさーん?」
まだマキはついてくる。そりゃそうだ、駅に向かってるんだから。俺の家に行くにしろ自宅に帰るにしろ、電車には乗る。何とでも言って断れたのに、俺があからさまに接触を避けて無視したから、マキが訝しんで俺に理由を聞き続ける。
「何? そんな嫌だった?」
嫌だよ。嫌だ。
お前の顔が良いのも体まで好みなのも馬鹿で若くて無神経で人の気持ちも考えずに面白半分でからかってくるところも全部嫌だ。それにいちいち反応してしまう自分が一番嫌だ。どれだけ外見が好みでも俺はマキのことは好きじゃない。すぐ調子に乗る性格なんて最悪だと思ってる。それをクリアしてもノンケなんて好きにならない。絶対に。馬鹿にしやがって、人の気持ちを踏みにじんでその上家に行きたいだなんてよく言える。
「怒ってんの?」
腹が立つ。そんなこともわざわざ言わないと分からないのか。
「なあって!」
わざと聞こえないふりしてんだよ、空気読め。
「あんたの大好きなマキちゃんが話してんだけど!?」
……は?
週末の喧騒のど真ん中、自信満々で言い放った言葉に歩みを止めた。しばらく足元を見た。頭の処理能力が落ちて、落ち着く時間が必要だった。この馬鹿は俺の地雷を踏み抜いている。
マキのことなんか好きじゃない。
それなのにこの名前のない感情を馬鹿にされると腹が立つ。
周りの喧騒が遠くに聞こえる。振り返れば、同じように立ち止まったマキが「ほら見ろ」と言わんばかりに俺を見下ろしていた。つかつかと歩いて近づき、胸倉を掴んだ。
「え、な、んぐ」
ぐっと引き寄せてキスした。何か喋ろうとしたマキの歯が当たってガチンと鳴った。こんなんじゃまともなキスとは言えなくて、一度離れて大きく口を開けて、噛みつくようにマキの唇を口に含んだ。少しずつ唇をすぼめ、下唇を噛んでやる。
「いっ…!」
繁華街の、駅へ向かう人がよく通る道だった。男同士キスしてるのは目立つ。痛めつけるようなそれでも、酔った大学生みたいな連中に口笛を吹かれた。それを合図にマキを突き飛ばす。
「……もう俺を配信に呼ぶな」
それだけ言って足早に駅へと向かった。
後ろでマキが何か言ってたかもしれないが、もう何も聞こえなかった。
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