【完結】ゲーム配信してる俺のリスナーが俺よりゲームが上手くて毎回駄目だししてきます

及川奈津生

文字の大きさ
25 / 45
槇人

25:ブロック

しおりを挟む
 俺という人間は顔が良い。散々モテる。バレンタインや修学旅行といった告白イベントでは女子が列をなしていたし、通学路で他校の女子に待ち伏せされてたこともある。「気持ちを伝えたいだけだから」と男に告白されたこともあった。だからまあ、自分を好きな人間の挙動というのは大体分かる。それでいくとzh@は分かりやすい方だった。
 言われてみれば本当にそう。むしろ何で今まで気づかなかった?ってくらい。差しで会うと照れてんのか全然目が合わないし、ちょっとそういうこと言うとむせちゃうし。最初に猫被ってたのも少しでも俺に好かれようとしてたんだと思えば……え、可愛くない?ガチじゃん。
 頭良くてゲーム上手くてイケてる外資系エリート様は、たかが顔とノリだけで配信やって食ってる高卒無職の推し配信者にガチ恋してる。優越感がパない。調子に乗ってしまう。なんかもう、俺のこと好きなんだよね?じゃあ何言ってもいいじゃん、ってめちゃくちゃネタにしてしまった。zh@の好意を完全に利用して、zh@が否定出来ないことを良いことに好き勝手言った。3人で飲みに行ったときもそう。可愛い反応してほしくてやたらめったらちょっかいかけてたら楽しくて酔っちゃって、全然関係ないところで転んでzh@の上に乗っかった。そしたらzh@の胸に手が触れて酔いが冷めた。
 
 だってあれ。
 おっぱいだった。

 女の子みたいに胸全体が膨らんでるんじゃなくて何ていうの、乳輪?乳首の周りにある色ついてるところ。多分そこがこんもり山になってて柔らかかった。山の真ん中がぷりぷり主張してたからそれが乳首だって分かった。男の乳首は普通もっと平らだ。あんな柔くないし、ぷりぷりしてない。だから気づいちゃった。この人、男に抱かれてる人で乳首開発してる人だ。体のラインが分かるような細身のトップスにジャケット羽織っただけでこんな性感帯晒しちゃって、大丈夫なの、すぐ触れちゃうんだけど。ブラとかつけるべきじゃない?男はブラつけないか。ニップレス?……スケベ過ぎるんだけど。もうそっからはエッチな考えが完全に頭の中に居座ってしまった。完全に下心で「家行っていい?」なんて聞いてしまった。一発やれると思った。男とやったことなんて無いけど、あの乳首となら酔いと勢いで全然やれると思った。そんな俺の浅い妄想がバレたのか、zh@にブチ切れられてキスされて唇切った。
 あれから一週間、あのときのキスと乳首だけでずっと抜いてる。
 
「まーた喧嘩してんのぉ?」

 ヤカモレさんが配信前にわざわざ話しかけて来たと思ったら、俺とzh@の確執について聞いてきた。実家手伝いが終わって戻ってきたヤカモレさんが早速俺とzh@をゲームに誘ったが、zh@に断られたらしい。

「ぜっとさんにブロックされてんの?」
「うん」
「早く謝んなぁ?」
「……何で俺が謝る側って分かんの?」
「どっちが悪いの?」

 散々からかってちょっかいかけて、挙げ句部屋に上がり込もうとした。女の子相手でもこんなことしない。完全に俺が悪い。

「……俺」

 全く事情を知らないヤカモレさんも何故か俺が悪くて当然と言わんばかりに「ほらぁ」と言う。いやそうなんだけどさあ。

「謝りたくても連絡とれねーんだもん」
「ディスコもラインも繋がんねーの?」
「うん」

 あらゆるSNSで俺はzh@にブロックされていた。一言も会話できない状態だ。こうされたら俺には何も出来ない。こんな歳の離れたゲーム仲間との仲直りの仕方なんて知らない。今までは、同級生だったら次の日学校に行けば良かったし、地元の友達なら家に行けば良かった。でも俺はzh@がどこ住んでるのか知らない。ていうか本名すら。

「俺知ってるよ。ぜっとさんの名前と住所」
「え!?」

 ヤカモレさんに愚痴ってたら、にやついたヤカモレさんにzh@との仲良しのマウントをとられた。

「米送ったもーん」

 そういやそんなこと言ってた気がする。
 てか、歳が近いからかzh@とヤカモレさんは普通に仲が良い。友達って感じだ。この間の飲み会でだって「ヤカモレさん、太った?」なんてzh@から笑顔で話しかけてた。

「え~、もう? 太ったように見える? 俺実家帰る度に肥えた言われるんだよね。肉体労働しに行ってるはずなのに」
「はは、飯が美味いんだろ」
「美味いよ~、うちの米、品評会とかに出してるブランド米だから。こっちでも高級店とかに卸してる」
「へえ、すごいな」
「送ろっか?」
「いいのか」
「いいよ。いいけど、ぜっとさんって自炊すんの?」
「しないな。炊飯器すら無い」
「米炊けねぇじゃん!」
「いや、レンジで炊くやつがある。多分百均で買ったやつ」
「あ~、はは、彼女が置いていったやつだ~」

 zh@の高給取りのイメージからかけ離れた"百均"という庶民的な単語に、すかさずヤカモレさんが彼女の存在を揶揄った。zh@は「まあ、昔の」なんて濁して言ったけど、絶対違うと思う。彼女じゃねぇだろ、彼氏だろ。この人ゲイだもん。……いや、ゲイ、だよな?それかバイ?だって俺のこと好きみたいだったし、キスしてきたし。ただのイケメン好きじゃないだろ。
 ゲイでもバイでも良いけど、そのどちらかではあって欲しい。

「……ぜっとさんち知りたい」
「言うと思ったけど教えないよ」
「だよな~!」

 zh@の家まで押しかけて仲直りを迫ろうかと思ったけど、常識人のヤカモレさんに断られた。ヤカモレさんの性格上、本人の了解を得ない限り個人情報を他人に教えたりしないだろう。もどかしい。同じゲーム仲間なんだから俺にも名前くらい教えてくれといて良かったんじゃない?ヤカモレさんとのこの違いはなんだろう。何なヤな感じ。

「ゲームのフレンドは?」

 俺が一人でモヤモヤしているとヤカモレさんが他の連絡手段を提案してきた。

「フレンドも切られてる? 見てみなよ」

 言われていつもzh@とやってるFPSゲームを起動し、フレンドリストを表示した。いる。zh@の名前がいつものところで光ってる。

「え!? 何で」
「あーやっぱり。ゲームのフレンドブロック、あんま意味ないからなあ」

 驚く俺とは対象的にヤカモレさんはうんうんと頷いている。

「このゲーム、ブロック出来るのチャットだけなんだよね。ブロック相手ともマッチングするから、野良やってると同じチームになったりすんのよ」
「えー、まじ? 気まずくない?」
「気まずいよね。特にぜっとさんってボイチャ開いたままやってること多いし」

 英語が出来るzh@は野良のときもボイチャでチームメイトと話して協力しながらプレイする。流石に俺に対してのようにトロールした相手を説教したりはしないけど、危ない場面を相手に教えたり、蘇生に向かってる宣言とか、チームとしてあると嬉しい報告をする。zh@が野良にアーマー割ったときに言うやたら発音の良い「BREAK」を思い出した。

「マキちゃんともマッチングすること考えてブロックしてないんじゃない?」
「なるほど」

 もうわざわざ待ち合わせて一緒にしたりはしないけど、たまたまマッチングしたら協力プレイはしてくれるつもりみたいだ。偶然マッチングする可能性なんてそう無いだろうけど、zh@とは最初に野良で出会ってるから0とは言い切れない。

「しつこくパーティ参加申請したら一緒にやってくれるかな」

 パーティを組んだらボイチャで喋れる。

「俺申請しようか?」

 ヤカモレさんがリーダーになってパーティを組むか聞いてきた。確かに申請主がヤカモレさんだったらzh@は参加してくるかもしれない。で、俺もしれっと同じパーティに参加してると。――それが一番喋れる可能性が高いんだろうけど、なんかやだ。zh@の本名も住所も知ってるヤカモレさんは俺と違ってzh@に避けられるなんて1ミリも思ってない。何でだよ。仲はそっちが良いんだろうけど、zh@が好きなのは俺だろ。俺が受け入れられてる感じがしない。

「いい。俺やる」

 ヤカモレさんに頼ったら仲直りしても今まで通りだ。俺はzh@ともっと仲良くなりたかった。

「……でもやっぱ無理ってなったらお願いするかも」

 そう言ったらヤカモレさんは笑いながら「おけ~」と返事した。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました

大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年── かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。 そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。 冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……? 若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...