星につむぐ物語-イストリア-

冬原水稀

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7. ”ステラ”

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 怖くて疲れて、とぼとぼ歩いて帰ったその次の日。
 今日は学校もお休みだし、ちょっとリフレッシュしたいよね。
「ナナセ~何作ってるの?」
「ちょっとした、小物をね」
 机の前に広げているのは、布とかきらきら光るビーズとか。小物作りは、好きなんだよね。
「へぇ~ステキ! きらきら光ってる!」
「あぁ、触らないでね!!」
 のばされた白い手を、私は慌てて止めた。
 布をぬう針とか、作りかけを置いてるんだもの。ケガしちゃったり、こわしたら大変。
 ホクトは少しほっぺをぷくっとさせた。
「ナナセの言うことには、『だめ』がいっぱいだよ……つまんない」
 な、何よその言い方は。
 確かに動かないでとか喋らないでとか、ホクトにとってはつまらないかもしれないけど、私だって困るんだから。……ホクトに言っても仕方ないから言わないけどさ。
「怒りっぽいおかあさんみたい」
 そこまで言う!?
「そんなこと言ったらホクトは子どもすぎるよ」
「なっ!! そんなことないもん!」
 甲高いホクトの声。耳にピリピリとひびいて、はっと我に返った。
 はぁ、変なこと言っちゃった。やめよう。私もホクトも疲れてるのかな。
 目の前の創作に集中しよ。えーと、この糸はここで、このビーズはこのあたりに付けて……。
「……なんだ。やはり想像力があるんじゃないか」
「えっ!?」
 後ろから聞こえてきた声に、私は飛びのいた。ホクトの声じゃない。私の後ろにいたのは……昨日、指輪をくれた男の子!
 ……今さらだけど、「男の子に指輪をもらった」って恥ずかしいな。
「ど、どこから入ってきたの?」
 床にぺたりと座りこんでるホクトも目を白黒させてた。
 いきなり現れたってこと? 不法侵入だよ。
「不法侵入……そうか、謝罪する。すまない」
 男の子は顔一つ変えないで、言葉の通りに頭を下げた。
「あ、え、いや、えーっと」
 声や表情が淡々としすぎて謝罪が入ってこないよ……。
 でも、ちょうどいい、聞きたいことがある。昨日のこと、そしてこの男の子自身のこと!
 男の子は、私を真っすぐ見つめ返していた。澄んだ青色にどきりとする。本当に、きれいな目だな。
「私は七星。こっちはホクト。あなたは?」
「くまにそんな名前を付けたのか。……僕は、ステラ」
 ……ステラ? どこかの国の言葉で、「星」っていう意味の言葉だよ。
「ステラ、ね。何者なの? どこから来たの?」
 言葉もなく、細い人差し指が指さしたのは、床に転がってた宇宙の図鑑。近くにいたホクトは、自分が指差されたと思ったみたい。目をまんまるにした。
 宇宙から、ってこと? ちょっと前の私なら信じてないけど、ホクトっていう前例がいるからな。
「じゃあ宇宙人?」
「宇宙人、というと地球以外に住む生命体のことか。厳密に言えば僕と生命体は違うものだが、『地球以外』という点でのみ定義するのならば、ナナセからしたら僕は宇宙人だ」
 ステラ、いちいち言い回しが難しいな……結局そうなの、違うの?
 すると、青い瞳がホクトを向く。
「本質的には、そのくまに近い」
「ホクトに近い? じゃああなたも何かの星座ってこと?」
 尋ねる。けれど、ステラは黙りこんでしまった。
 今まで変わらなかった表情が少しだけ。本当に、ほんの少しだけ、悲しそうになった。
 どう、したのかな。
「……それよりナナセ。僕が君にあげた指輪はどうした?」
「えっ。そこに置いてあるけど」
 低い本棚の上。きれいなハンカチに包んで置いてある。普通の指輪じゃなさそうだったから、ずっとつけてるのは怖くて。それに、知らない男の子からもらった指輪をずっとつけてるのもおかしいしね。
「これ、なんなの? あげた……ってことは、あれは『私の』指輪になったってこと?」
「あぁ、僕が君にあげた。その指輪は、ずっとつけていてほしい」
「なんで?」
「昨日の羊のように暴走した星座……仮に、『暗黒星座』と呼ぼう。暗黒星座を救い、元の夜空へ返す力を、君が持っているからだ」
 ステラ、真顔。
 私、ぽかん。
 暗黒、星座? 確かに、あの羊からは星から感じるワクワクや、きらめきを感じなかった。まるで、光を奪われてしまったみたいに。暗黒星座っていう名前はものすごくしっくり来るけど。
「なにそれ! すごいかっこいい!! すごいねナナセ!」
 ホクトはいつも通りに楽しそうで、手をたたいてる。すごいねって言われても。
「私、そんな魔法みたいな力なんて持ってないよ!」
「あぁ、君が持っているのは魔法じゃない」
 ステラの真顔はあっさりうなずく。
 じゃあ、なんだって言うの?
 静かで柔らかい、けどやっぱり感情のこもってない声は、ただ一言。
「『そうぞう力』」
 私に、そう告げた。
「何かを思い浮かべて世界を広げる想像力、そしてそれを実現しようとする創造力だ。僕があげた指輪は、それを具現化する手伝いをしているに過ぎない」
 そうぞう力。私は息を飲む。
 胸の中が、ぐるぐるかき混ぜられるみたいな感覚になった。想像力、なんて。
「そんなの……そんなの、無いよ」
「どうして?」
 どうして、って。現実を見てるから。確かに星とか星座とか、神秘的なものを感じるのは楽しいよ。でも、それだけ。自分から生み出すのは、私にはできないよ。
 絶対に。
「ナナセはできるよ!」
「できないんだよ」
 元気に言ったホクトが口をつぐむ。その顔が、ステラと同じく「どうして?」と言いたげだった。
 私が何も答えられないでいると、ステラがふむ、とうなる。
「できないのは、困る。君が指輪の力を使えば、あの星座たちを助けられるんだ。くまも同じく」
「ワタシ?」
 ステラはゆっくりとうなずいた。
「あの羊……暗黒星座も、このくまも同じだ。記憶を失い、自分が何者かを分かっていない……という点において」
「でも、ホクトはあの羊みたいに怖くないよ」
「あぁ、このくまはまだ、『光を奪われていない』からな」
 それって、どういう……。
「ナナセは失った彼らの記憶を戻す、または補うことができる。自分の居場所を思い出せば、星座は空へ帰り、夜は元の星たちを取り戻すんだ」
 夜は星を取り戻す……そうか。最近空から星が消えているのは、こうして星座が地上でさまよっているからなんだ。
「で、でも!!」
 どうして、よりによって私なの? ホクトもステラも、私だけをあてにするなんて。私はただの、星が好きなだけの中学生なのに!
 それに想像力なんて、私より他のみんなの方が持ってるよ。
「そんなことはない。君が一番分かってるはずだ」
 きっぱり。ステラが言うから、私は黙りこんでしまった。
 私が、一番、分かってる……。ズキズキ、と心が音を立てて傷んだ気がした。誰かに刺されているみたい。でも、刺しているのは「誰か」じゃない。
 私だ。
「でも……やっぱり私には何とかできないよ。星を元に戻すなんて! 誰か、他の人をあたってよ」
 ステラから目をそらして、そう言った。何か言いたげなホクトと目が合ってしまう。そこからも、目をそらした。みんな、私に期待しすぎだよ。私は、もう現実を見ることにしてるの。
 ……人の迷惑に、ならないために。
 しーん、とした空気が苦しかった。だけどしばらくして、ステラが「そうか」と口を開く。
「他の人をあたることは難しいが……強く頼むこともできない。了解した」
 変わらず、ステラの声色に感情はない。悲しんでいる様子も、怒っている様子も無かった。
 そのことにほっとしていいはずなのに、私は安心できなかった。
「でも、その指輪は変わらず持っていることをすすめる。お守りにはなるだろう。そのくまが隣にいる限り、ナナセはまたああいったものに襲われるだろうから」
「えっ!?」
 また来るの!?
 思わず顔を上げた……けど、その時にはステラは、流れ星みたいにあっという間に消えちゃってた。
 そんなのってないよ。怖がらせるだけ怖がらせておいて、消えちゃうなんて! ああいうのがまた来たら、逃げるしかないの? この指輪は、本当にずっと私を守ってくれるの?
「……ねぇナナセ、この指輪をどうやって使うかくらいは、聞いておいた方が良かったんじゃない?」
 ホクトはぱちくりと、不安そうに瞬きをする。
「ナナセは無理っていうけど、その『星座を助ける』っていうの、自分を守ることにもつながるんじゃないのかなぁ」
 その言葉は、もっともだ。
 だけど私は、なんだか心がモヤモヤして。
「ホクトがなんかしたんじゃないの? 私があの星座に襲われるのはホクトがいるからって、ステラが言ってたじゃない」
 そんな、トゲトゲしたことを言っちゃった。
「そんな……分かんないよ」
 ホクトは可愛い顔を悲しそうにゆがめて、しょげる。また、変なこと言っちゃった。
 分かってる。分かってるよ。ホクトだって記憶がなくて、不安で、大変で。ただ帰りたいだけなんだって。
 私はため息をついて、机に広げていた、作りかけの小物を片づけた。リラックスするつもりだったのに。
 こんな気持ちだと、全然心が落ち着かないよ。
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